かわいい奴ら☆ | せんせい、あのね。

かわいい奴ら☆

うちのクラスにはADHDの松坂くん(仮名)がいます。
親や前の担任の先生から直接ADHDと言われた訳ではありませんが、ADHDだと言われる子どもの特徴をがいくつも当てはまります。

ADHDとは
・席にじっと座っていられない
・口をはさむ
・教室で課題が終了しない
・校則が守れない

これだけだと、このような子はたくさんいるとは思いますが、まず第一に年齢に不釣り合いな落ち着きのなさと、多動性を示します。
簡単に言うと窓際のトットちゃんのような感じです。

松坂くんはまさにこのような子でじっとしていられないし、集団行動ができません。
移動教室も行かないこともあるし、校則などのルールも理解はしているのですが、守れません。


実はこの松坂くん、2年生の途中までとある私立の小学校にいたのですが、こういった行動を繰り返し、周りの親から「高い学費を払わせてるのに、松坂くんのような子がいたんじゃ私立に行かせている意味がないじゃないの!!」と言ったクレームが続き、事実上の自主退学のような形で公立への転校をよぎなくされてしまったのです。


このことは松坂くんにとっても心の傷となっていて、ことあるたびに「前の学校じゃ僕はいっつもできない子だった」と言うこともありますし、「僕はどうせいらんねんやろ」と言うこともあります。

子どもながらに、自分では押さえることのできない衝動(ルールを破ってしまう、周りに迷惑をかける)をしてしまうために、自分はいらない存在だと思われている(前の学校では思われていた)と感じているのです。

親もこのことで子どもとの関係がうまくいかなくなった時期もあり、また「どうしてうちの子だけができないの・・・」という想いも強く持っておられました。



つい先日も松坂くんのお母さんとお話をする機会があり、次のようなやりとりをしました。
お母さん:うちの子だけですよね・・・席でじっとしていられなかったり、あれほどまで落ち着きがないのは・・・うちの子だけできないですよね・・・
あたし:違いますよ、どのお子さんでもできないことはあります。牛乳の飲めない子、九九の言えない子、発表が苦手な子、泳げない子・・・誰でも苦手なことはありますよ。松坂くんの場合は集団行動という領域が苦手なんです。
お母さん:でもねぇ・・・
あたし:もちろん集団行動はきちんとできるにこしたことはありませんし、いずれはできるようにならないといけないと思います。でも九九の全くできない子に「九九は全部言えないとダメだから、今からすぐに全て言えるようになりなさい」って言ってもきっとその子は逆にプレッシャーを感じたり、できないことを嘆いたり、何から手をつけてよいかわからずやる気をなくしてしまうと思います。そして、どの段も言えないこともあるかもしれません。九九のできない子にはいずれは全てできてほしいけど「まずは2の段を覚えましょうね」というふうに少しずつできるようになるようにしていきます。それと同じです。一度に全ての集団行動をきちんとできるようにはならないので「まずは遅れてでもいいからおいでね」「この時間はきちんと聞こうね」「これだけはやったらダメ」というようにわかりやすい目標や決まり事をつくっていってあげたいと思います。
九九のできない子に「まだ7の段が言えないとか」「9の段が遅い」と指摘するのではなく「今日は2の段ができたね」「6の段が早くなったね」と言ってあげるように「今日は○○の約束が守れたね」って評価していってあげたいとも思っています。


そして、松坂くんと出会えたことをうれしく思っていると松坂くんに伝えたとお母さんにも言いました。
もちろん、本当にしてはいけないことには毅然と対応しますし、でもあれもダメ、これもダメとしばってしまうのではなく、何がダメか、どうしてダメかもきちんと考えさせることもしていきますと伝えました。



本音を言うと、松坂くんは大変な子です。
松坂くんの行動や言動で授業が止まることだってあるし、全く聞く耳を持たないことだってあります。約束をしてもできないことだってあるし、ここで書くだけでは伝わらない大変さもたくさんあります。
だけど、松坂くんという人間ががクラスの輪を乱すのではなく、松坂くんの行動が迷惑をかけていると松坂くんにもクラスの子にも伝えています。(松坂くんという人間そのものが悪いのではなく、松坂くんの行動が悪いという趣旨です)
また、時には松坂くんを放って授業を進めることもあります。そんな時は「先生は松坂くんの行動が許せない。だけどみんなとの授業も大事だから今日は授業を進めます。松坂くんはクラスの大切な一人です。でも他にいるみんなも大切です。松坂くんのことは気になるし、本当は放っておきたくないんだけど、どうしょうもないので授業をします」と他の子たちに伝えてます。
そして、何より松坂くん自身に「先生はあたなが好きだし、好きだからダメなことはきちんとダメって伝える。あなたはクラスにとって大事な一人なんだよ」と真剣に告白(笑)、想いを伝えるということもしています。



嫌みではなく、松坂くんとの出会いは私自身の成長にもつながる出会いだととらえています。
そして松坂くんが居心地のよいと感じる学級を作っていくこともあたしの目標のひとつです。



本当にいろいろありますが、みんなかわいいあたしの教え子です。