恐怖を味わった「時間の浜辺」

ミズーリ州ルート66ステイトパーク（Route 66 State Park, Missouri）
かつて大恐慌の嵐が来る前の1900年代中頃、このメラメック川のほとりはタイムズビーチと呼ばれ、大都会セントルイスに住む人々にとって身近に楽しめる保養地でした。
ルート66ファンの人たちは、今でもこの地を「Times Beach」と呼んで親しんでいます。なのになぜこんな味も素っ気もない名前に変わってしまったのでしょうか。
実は1970年代、まだ未舗装だったルート66の交通量は、急激に増え砂埃の苦情が絶えなくなりました。貧しいこの町は舗装資金がなかったのでゴミ処理会社に頼んで、車の廃棄油を撒いてその代わりにしようとしました。
しかしこの会社は、州内の化学薬品会社と関係があったのです。
後にタイムズビーチ内のルート66の舗装面から、廃棄油に混じって大量のダイオキシンが検出され、住人は避難、町は閉鎖されました。
その化学薬品会社は、ベトナム戦争で世界中から非難を浴びたオレンジエージェント、つまり枯れ葉剤を作っていたのです。
アメリカ政府はこの地域を買い取り、1990年代後半にかけて本格的に汚染物質の除去に取りかかったのです。
その後、町はミズーリ州のもとに戻り、イメージチェンジさせる必要がありました。
だから名前は「Route 66 State Park」。
一時期この一帯に住む人々は、頻繁に氾濫するメラメック川によって、ダイオキシンが広範囲に広がるのではないか、とパニックになったそうです。
単にこの地を通過するルート66ファンや旅行者にとって、タイムズビーチという町名は、なんとも郷愁を誘うものです。
しかし、住人が恐怖のどん底にあった80年代後半、「ビーチ」という言葉の響きは、その恐怖心を増幅させていたことでしょう。


ルート66は、木々のこんもりしたステイトパークでメラメック川を渡る。かつてタイムズビーチと呼ばれていた

橋から臨むメラメック川。頻繁に氾濫し住人を困らせた

「Times Beach」だったころ、町で唯一のカフェ「キーズ・カフェ」のネオンサイン