言う前に言っていいかどうかまず考えよう
日本の格言に「覆水、盆に帰らず」という言葉があります。一度溢れてしまった水が、盆の中に戻ることはあり得ないということで、取り返しがつかない失敗のことを言います。
この、とり返しがつかない失敗とは、口から始まることが多いと思います。「災いは口より出でて身を滅ぼす」とも言いますが、まさに言葉による失敗はとり返しがつきません。言葉は、言葉であって、ただの言葉では終わりません。口から出た言葉は、相手の心にしっかりと刻まれてしまいます。紙に書いた文字は、消すことも破り捨てることもできますが、口から出た言葉は絶対に消せないのです。たとえ相手の耳に入っていなかったとしても、最近では、録音技術も進んでいますので、言ったつもりはない、ではすまされません。
失言という失敗によって、一体何人の政治家が辞職に追い込まれたことでしょうか。
また、世界からヒンシュクを買うことになった政治家の発言などは、枚挙に暇がありません。うっかり口にしてしまった一言によって、信用を失い、職を失い、果ては家族からも去られてしまう人までいるほどです。まさに、「気をつけろ!」ですね。
家族や気の置けない友人との間では、ちょっとした失言はよくあることで、お互いに許せることかもしれませんが、職場においての失言や、お客さんに対する失言は、思わぬ結果を招きます。
一度言ったことは、消せないことから、たとえ何万回謝って言い直したとしても、「この人はこんなことを考えていたのか!」という相手のショックは消えません。その後のギクシャクした関係は続き、修復する方法はないと言ってよいでしょう。
家庭の中でも、発言には充分注意が必要です。たとえ夫婦であっても、ちょっとした心ない一言が深く相手を傷つけてしまうからです。長年連れ添った夫婦といっても、血のつながりのない他人同志が、愛情という純粋な感情でつながった関係なのですから、愛する相手からの一言は、重みを持ちます。夫婦間での口喧嘩が、最後は激しいののしり合いになるのは、気を許しあっている関係というよりも、愛情が一瞬にして憎しみに変りうるほど純粋な関係であるからだと思います。
ましてや親子関係においては、夫婦以上に切っても切れない関係であるだけに、一言には気をつけるべきでしょう。家庭こそ、人間関係の学習をする原点の場でもあるからです。