KPMGピートマーウィックの入社式で、最高経営責任者(CEO)が次のように言った。

「十年前、私は皆さん側にいました。今は会社のトップをしています。組織であるから、誰かがトップをしなければなりません。しかし、今日から私もあなたも変わりません。私は組織の役割としてトップをする。皆さんは、役職はないかもしれない。現場を担当しますから、組織上のランキングとしては一番下かもしれない。しかし、同じ組織の中で、同じ目標に向かって頑張るという点においては、私も皆さんまったく同じなのです。ですから、皆さんにお願いしたいのは、今日から皆さんも私、つまりCEOと同じ気持ちになって、この会社を背負って仕事をしていって下さい。会社を良くするいいアイディア・提案また、会社にとって問題になることをどんどん発見し、教えて下さい」

 

 私は感動した。と同時に物凄くやる気も出たのだった。

入社したばかりの時は、大した仕事がないのが現実だ。一人ではまともな仕事ができないヨチヨチ歩きだから当たり前のこと。雑用ばかりさせられるはず。

 そこで、気の持ちようが大切になってくる。雑用だから手を抜くのか。それとも自分も会社のトップ同様、何とか会社を良くしたいとして、雑用でも一生懸命行えるか、だ。これにより、仕事のミスや失敗が減り、はかどり具合もよくなるもの。

 責任感はあっていいが、責任のない立場だからこそ、思い切って仕事をするべきだろう。責任は上司が取ってくれる。つまらないと思ったら、何をしてもつまらない。

 しかし、CEOの気持ちで仕事をしたら、やりがいは必ず感じてくる。CEOというのは会社の顔。だから、その気持ちで仕事をすればお客様に対する責任感・真剣味が全然違ってくるのだ。それを一番感じるのが、お客様。

 上司や先輩もあなたのその責任感溢れる積極的かつ誠実な態度を高く評価してくれる。

 近年、3年以内で会社をやめる若者が多くなってきた。理由として、やりがいを感じられないからというものが圧倒的に多いとのこと。

やりがいは与えられるものではない。自ら生み出していくものだ。会社からやりがいを与えてもらおうとして待っていたら、どこの会社もつまらなくなるだろう。社員の努力なくして、やりがいを与えてくれる会社など、世の中に一社もない。そんな甘い考えは、お金を貰って働くようになったら、捨てなければ、どの会社も長続きしないだろう。

それでは、つまらない仕事でもどうしたらやりがいを感じられるようになるのだろうか?

そこでカギになってくるのが、CEOと同じ気持ちで仕事をすることなのだ。

将来のトップリーダーとしての自覚を持ちながら仕事をする。そうしたら、仕事の幅は広がる。不満を漏らしている暇などなくなる。不満は、人から指図されるから、出てくるもの。自分から積極的に考え動いていけば、一つひとつの仕事に責任感が出てくるため、不満など出てこなくなる。不満どころか、反省になる。

 CEOの気持ちが理解できれば、仕事に対して謙虚になれる。なぜなら、自分自身のリーダーとしての能力の限界を感じられるようになるからだ。

つまり、リーダーでないときにリーダーを評価しながら言動するときと、実際にリーダーになったつもりで言動するときとでは、当事者感覚が違ってくる。リーダーの大変さや責任感の重さが身に染みるようになる。だから、謙虚になれるのだ。

謙虚になれる人は社会人として伸びる。自分の周りで起こったことすべてから、学ぼうとするからだ。

「今日からCEOと同じ気持ちになって、この会社を背負って仕事をしていって下さい」というCEOの感動的なスピーチを聞いた私には、気合が入った。

〈将来独立してCEOを目指している自分にとっては、こんなにありがたいお言葉はない! よっしゃ、頑張ろう!〉と。

 ところが、能力的に極端に劣っていた私は、会社にとってすぐにお荷物的存在になっていくのを感じた。なので、申し訳なくてもめげてしまうことばかり。それでも、CEOの言葉を思い出し、とにかく彼と同じ気持ちを持ち続けた。

有り難いことに直属の上司は、私のその姿勢をずっと見ていてくれた。そして、強烈な応援をし続けてくれた。会社で生き残れたのもそのお陰だ。