私は日本の大学を卒業して、すぐに米国の大手国際会計・経営コンサルティング会社のニューヨーク本社に就職しました。英語も仕事もまったくできなかった私が、クビにならず、多少なりとも出世できたのは、素晴らしい上司に恵まれたことと、その上司が、私がいつも笑顔を絶やさないことを、非常に高く評価してくれたからなのです。

 入社してすぐに私は時間の問題でクビになることを察知しました。同期と比べあまりに英語と仕事ができなかったのです。それもそのはず、同期のアメリカ人達は超一流大学出身者ばかりで、英語は母国語です。本当に頭がいい人ばかりで、私は毎日ビックリするだけでした。

 しかし、ただ一つ彼らに勝てることを見つけたのです。彼らは確かに頭はいいのですが、愛嬌がないのです。逆に頭がいいので、愛嬌がなくてもなんとかなるのです。私はと言えば、頭が悪い上、大事なコミュニケーションの手段である英語ができないのです。できないどころか、米国のプロフェッショナル・ファームに勤めるプロフェッショナルとしては、そのできなさは限度を越していました。当時、よくまわりの人が我慢したと思います。

 ですから、いつクビになってもおかしくない状況でした。しかし、アメリカ人上司は、私をクビにしませんでした。その感謝の意味を込めて、私は決めました。どんなことがあろうとも、毎日心に笑顔を持つことを。心に笑顔を持つことは、即ち、本当に心から喜ぶことです。ですから、顔や言動からも楽しさがにじみ出ていなければなりません。

 私は何があっても、毎日「スマイル、スマイル」と言い聞かせました。まわりの人達がブスっとしている時でもです。仕事もできず英語もしゃべれないのに、いつもニコニコしている私が、皆不思議だったようです。知らない人が見ると、私がまるで仕事を100%エンジョイしているから、楽しくてしょうがなくて、いつも笑顔でいられるのだと勘違いしたことでしょう。正直言って、当時は違いますが、今は100%そうです。

 アメリカ人上司は、私の笑顔を高く評価してくれました。いつも大変な仕事をどんどん頼んでいるのに、文句一つ言わないどころか、笑顔で対応していたからなんだそうです。でも私にできることは本当にそれしかなかったのです。出世には笑顔は欠かせません。