俺はその日の帰り、香子に朝会った先生の話をした。

「学校で?生徒かな?」

「中3のときの友人って言ってたかな」

「・・・いくつぐらいの先生?」

「さあ…50歳くらいかな」

「・・・あのさ、この学校で自殺があったのって知ってる?」

女子の情報網ってこういう怪談の類がすきなのよね、と香子は独り言のように言った。

「先輩のお母さんのころの話だからもう30年以上前なんだけれどね、生徒が一人飛び降り自殺して、一人が行方不明になったの。二人は結構仲のいい友人同士で、家に旅にでるって書置きを残して夜にいなくなった。自殺したほうは推薦で夏休み明けに高校が決まったんだけど、もう一方は高校入試の前だったから大騒ぎになって。もしかしたら飛び降り自殺じゃなくてもう一方が突き落として殺して逃げたんじゃないかって話もあったんだけど、結局残る一人は見つからなくて」

「きついな・・・」

「うん。ね、時期あってるでしょ」

「そうだな。ここの卒業生でここの先生になることってあるんだ」

「でもねえ、その飛び降り、あの教室棟からだったはずなんだけど」

「え、いや、旧体育館のところにいたよ?」

「うん、だから変だなと。その事件、教室棟ができて、旧体育館が作ってる最中ってころだったらしいもん」

「・・・何でそんな詳しくしってんの?」

「出来立ての校舎でまだ夜も出入り自由だったのにそんなことがあったから鍵が全館付いたんだって。鍵つくまではデートスポットだったらしいよ。だからうわさになってた」

「・・・すごいな、怖え」

ねえ、と香子は言ったが多分俺が女子の情報網に恐れをなしたこととは違うことだと思っての相槌だろう。

それにしても。変だな、と俺も思った。その先生が花を手向けていた場所には、昼にはもう花はなかった。線香の灰は残っていたが、そんなの誰も見ない程度だ。そしてそこは、俺が二人の男子生徒を見てうちの一人が死んで寝ていたまさにその場所だったのだ。

それを言うと、香子はうなるように言った。

「それ、最重要の情報じゃない。なによそれ」

「なんで?」

「なんでって・・・死んでいた一人がそこで死んだことをその先生が知っていたとするでしょう?そしたら、なんでその先生は、そこで一人が死んだことをしってたの?行方不明のはずだったでしょう?それに、その一人が死んでいたのなら、死体はどこに行ったの?」

「あ」

「・・・あじゃないよ。その人、本当に先生?」

「・・・多分」