中国の格差象徴 ゴミ箱で消えた少年5人の命 指導部への批判高まる

2012.11.23 09:34 1/3ページ)中国


「愛国」「創新」「包容」「厚徳」のスローガンが掲げられた花壇のそばで遊ぶ子供たち。少年5人がゴミ箱の中で亡くなるスローガンとかけ離れた悲劇が中国社会に衝撃を与えている=8日(AP)

 習近平総書記(59)率いる新指導部が発足したばかりの中国の貴州省(きしゅうしょう)畢節市(ひっせつし)で、寒さに凍えた5人の少年たちがゴミ箱の中で死亡しているのが見つかるという悲劇が起き、衝撃が広がっている。暖をとるため、木炭を燃やし、一酸化炭素中毒で命を落とした。ネット上では童話「マッチ売りの少女」になぞられる追悼の声があふれる一方、貧困層を放置する格差社会への不満と指導部への批判が高まっている。

 「中国は新指導部を発表し、すべての国民により良い暮らしを約束したが、南西部では、冷たく湿っぽい夜、避難場所と暖を求めていた身寄りのない5人の少年たちがゴミ箱の中で亡くなった…」

 AP通信は21日、5人の死亡を詳報すると同時に、中国の現状を痛烈に批判する記事を配信。米CNNや台湾の英字紙ザ・チャイナ・ポスト(電子版)なども大きく伝えた。

 悲劇は、中国共産党の第18期中央委員会第1回総会が華々しく開かれ、新指導部が選出された翌日の16日に起きた。

 報道によると、亡くなった5人は9~13歳で、名字はいずれも「タオ」。兄弟やいとこ同士だった。出稼ぎで親がいなかったり、目が不自由な祖母しかいなかったりの貧しい家庭を飛び出し、1週間以上、路上生活を送っていたという。

15日夜は冷たい雨が降り、気温は6度まで低下。5人は寒さを逃れるため約1・5メートル四方のゴミ箱の中に入り、炭を燃やして暖まろうとしたとみられる。5人の遺体は16日、ごみ収集の作業員が発見した。

 畢節市は5人の死亡を受け、2つの学校の校長と教育・民生当局の責任者4人の計6人を解雇。市当局者はAP通信に対し、「われわれの行政サービスは親切とはいえなかった」と非を認めた。

 中国メディアも厳しい論調で報じている。若手エリートで組織する中国共産主義青年団北京委員会の機関紙、北京青年報は社説で、「文明社会が洗い流せなかった恥だ」と、悔いた。また国営新華社通信は、5人は学業成績が悪く中退していたと伝え、中国の教育制度に責任の一端があると指摘。社説で教育関係者に対し、「義務教育の使命を忘れないでください」と呼びかけた。

 5人の死は、急速な経済成長を背景に数億円のマンションを一棟買いするような富裕層が出現し、私腹を肥やす官僚が跋扈(ばっこ)する一方で、農村部では国民が貧困にあえいでいるという格差社会の象徴と位置づけられている。貴州省は中国で最も貧しい省の一つで、周辺の農家の年収は3000元(約3万9000円)しかないという。

国民の不満の高まりに危機感を覚えた習総書記は15日の就任会見で、「ともに豊かになることを目指し、汚職や官僚主義という深刻な課題を必ず解決する」と語り、格差是正と腐敗根絶への決意を表明した。だが、その言葉も、国民にはむなしく響くばかりだ。

 中国語の簡易投稿サイト「微博」には、こんな諦めともつかぬ書き込みがあった。

 「少年たちよ安らかに。中国には生まれ変わらないで」



中国で拡大する“異常”な所得格差 所得分配改革待った無し

2012.10.24 09:09 1/2ページ)

 人事社会保障省が発表した「2011年中国薪酬(給与・ボーナス)発展報告」が話題を呼んでいる。ある保険会社の総経理の年収が6616万元(約8億4490万円)で、労働者平均の2751倍、農民工平均の4553倍にも達している、と報告の中で指摘されたからだ。政府はかねて検討中の所得分配改革案をまもなく発表するといわれているが、こうした異常なばかりの所得格差拡大にどのように対処していくのだろうか。(フジサンケイビジネスアイ

 同報告によると、上場企業経営者の平均年収は05年の29万1000元から10年には66万8000元にまで増えている。年率にすると、18.1%の伸びである。中には年収が1000万元を超えている幹部も少なくない。その一例として保険会社の総経理がやり玉に挙がった。

 業種間の所得格差も拡大している。特に所得の多いのは金融と不動産。多くは国有企業だが、中でも中央企業(中核的な国有企業)とか資源関連の独占企業が目立っている。

 ここで例に挙げられたのが、上海浦東開発銀行だ。10年の行員の平均年収は29万6600元、これに福利厚生などを加えると35万7400元に達する。労働者平均の約10倍である。

報告は最後に所得格差是正のための方策として、(1)高給をもらっている企業経営者の所得調整(2)業種間の所得格差の是正(3)合理的な賃金決定の方式、といった点を挙げている。

 中国政府は国家発展改革委員会が中心となって04年から所得分配改革案の草案づくりに着手してきた。今春の全国人民代表大会(全人代=国会)では、温家宝首相も記者会見でプラン策定を約束しているだけに、早晩出さざるを得ない。早ければ10月中にも発表されるなどの観測が流れている。

 だが、報告が指摘したような諸点にどこまで切り込んでいけるだろうか。企業経営者の所得を制限しすぎれば、彼らのやる気をそいでしまい、経済成長にも影響しかねない。中央企業や独占企業に対しては、賃金総額を規制すべきだとの意見が出ているが、さてそこまで踏み込めるだろうか。

 むしろ税制面から間接的に所得再分配をした方がやりやすいと思われるが、実際にやるとなると議論百出だ。個人所得税をより累進的にするか、あるいは相続税などの資産税を新設するか。ともかくこれ以上の所得格差拡大は社会不安をさらに助長してしまうだけに、一刻も早い改革案の登場が待たれる。(拓殖大学国際学部教授・藤村幸義)



格差や腐敗“深刻化”… 中国の習近平政権、カギは「トウ小平の道」脱却

2012.10.16 08:59 1/2ページ)中国

 中国共産党機関紙「人民日報」の編集長や社長を歴任した胡績偉が先月、心臓病のため、96歳で亡くなった。彼が「人民日報」の編集長に就任したのは、毛沢東が死去して間もない1976年10月末のこと。江青(毛沢東の妻)らの極左グループ「四人組」を拘束して実権を握った華国鋒(当時、党主席)から、直接、就任を求められたのだった。(滋賀県立大学教授・荒井利明/フジサンケイビジネスアイ

 「四人組」が党の宣伝部門を握っていた1975年前後、庶民は「人民日報」について、「正しいのは題字と日付だけ」とひそかに酷評した。事実を尊重した信頼できる記事はひとつもない、という意味である。

 胡績偉は1983年まで「人民日報」のトップにあったが、秦川や王若水といった改革に積極的な幹部とともに、そうした状況を一変させ、「人民日報」の黄金時代を築いた。

 発行部数は空前の630万部にも達し、今では想像もできないことだが、庶民が党機関紙を熱心に読んでいたのである。権力を持つ党の指導者ではなく、権力を持たない庶民に顔を向けて、紙面作りをしたからだろう。

 胡績偉によれば、改革派や民主派の人たちの論文を掲載するなど、大胆で自主的な紙面作りができた背景には、他人の話をよく聞き、むやみに批判することのなかった華国鋒の胡績偉に対する信頼があったという。

晩年の胡績偉は、1978年以降の改革・開放時代において、「ふたつの路線の闘いがあった」と折に触れて強調した。ひとつは独裁的な「トウ小平の道」であり、もうひとつはより改革的、より民主的な「胡耀邦・趙紫陽の道」である。

 胡績偉は後者を支持し、「トウ小平の道」に反対した。1989年の天安門事件では、武力鎮圧に反対したため、全国人民代表大会常務委員を解任され、2年間の党内観察処分にもなった。

 現実の中国は、胡耀邦や趙紫陽の失脚が物語っているように、トウ小平時代以降の江沢民時代、胡錦濤時代においても、「トウ小平の道」を歩んできた。それは、経済の発展と社会の安定を最優先し、政治面での改革を先送りする「道」だった。

 来月の党大会で発足する習近平政権も、少なくとも当面は、「トウ小平の道」を歩もうとするだろう。だが、「トウ小平の道」によっては、深刻化している格差や腐敗を解決することはできず、「和諧(調和)社会」を築くこともできないだろう。習近平政権はいずれ、新たな「道」を模索せざるを得ない、と私は確信している。(敬称略)



富の格差拡大、官僚腐敗…中国各地の抗議活動18万件 昨年1年間、5年で倍増 

2012.9.24 10:05 中国

王子製紙の排水管建設に抗議するデモで市庁舎に押し寄せた参加者=7月、中国江蘇省南通市啓東(共同)

 貧富の格差拡大や官僚腐敗などへの不満から中国各地で発生している暴動を含めた抗議活動が昨年1年間に約18万件に上ったことが中国政府の内部調査で分かった。関係筋が24日、明らかにした。国営通信、新華社系の中国誌が2008年に「06年に9万件超」と報じて以降、発生件数は明らかにされておらず、5年間で抗議活動が倍増、社会の不安定化が進んでいることが裏付けられた。

 日本政府による沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)の国有化に抗議した反日デモが容易に全国に拡大、暴徒化したのにもこうした背景がある。

 単純計算すると1日当たり約500件起きていたことになり、胡錦濤指導部による社会的弱者や国民生活の質向上に配慮した「バランスの取れた経済成長」策が十分に効果を上げていないことが浮き彫りになった。(共同


中国でNHKニュース中断 貧富の格差報道で

2012.11.8 21:14 中国

 中国で8日夜、NHK海外放送のニュース番組が一時中断された。同日開幕した第18回中国共産党大会関連の報道で、貧富の格差問題を取り上げ、貧しい地区の映像を流した瞬間から数分間、画面が真っ黒になった。国内の負の面の報道を望まなかったとみられる。

 放送されなかった部分には、中国の民主活動家の映像も含まれていた。

 尖閣諸島問題になったところで画面が元に戻った。(共同)