地の塩、世の光 | L'Ecume des Jours Ⅱ

地の塩、世の光


L'Ecume des Jours Ⅱ
元フジテレビアナウンサーの千野志麻(チノ シオ)さんが、(容疑者と表現すべきか?)今月2日に静岡県沼津市のホテル駐車場で通行人を跳ね、死亡させたニュースを聞いて。
この方現在は結婚して今は横手志麻さんとのことだが、タレント活動をする時は千野姓らしい。
で、芸能ニュース的側面はまったく関心がないのだが、彼女の環境・周辺・事故状況を眺めるとミステリとして極めて興味が沸いてくる。

まず彼女の父親は県会議員で、この日は帰省した彼女の”ホームグラウンド”での事故である。
そして彼女の夫は元総理の福田閨閥で、ゴールドマンサックス勤務の巷間言うところ毛並のいいエリートで資産家だ。
また事故の時間が午後5時頃で、普通チェック・アウトするような時間ではない。
ホテル併設のレストランは午後6時オープンでこの線は消える、コーヒーショップぐらいは有ったのかもしれないが。
しかもこのホテルの周辺は所謂ラブホテルが密集している環境で、格式はビジネスホテルに毛が生えた(失礼)クラスのホテル、とても地元名士の娘、資産家に嫁いだ方が出入りするようなホテルとは思えぬ。
デイユースも設定されていて、11時~22時まで5千円だとか(安いね)…
後付け的に翌日の報道では彼女のクルマ(VWトゥーラン)には同乗者がいてそれは家族だったとのこと。
そして極めつけは被害者の方が某病院の事務長で(辞めてると言う説もある)不祥事があったと囁く筋があること。

肝心の事故状況は初期報道が右側からの巻き込みだったのが、その後の報道では前輪で乗り上げたと、これまたよく分からない。

人一人の死に関して無関係な輩が憶測交じりで揶揄することは醜いし、まともな人間の振舞いでないのは承知の上、言わせてもらう。
これレイモンド・チャンドラーの小説を彷彿とさせせるお膳立てだぜ、と。
残念ながら日本には(現実には)フィリップ・マーロウがいないので、美しい依頼人と背後の権力と腐敗したクラスの表裏など、整えられた書割も役に立たない。
これらの真実を暴く、卑しい街を往くシルクの心を古ぼけたコートに纏った騎士は何処にもいないのだ。

そして彼女の名前千野志麻(チノ シオ)に込められたものはもちろん、新約聖書 マタイによる福音書5章13節の、

「あなたがたは地の塩である。だが、塩に塩気がなくなれば、その塩は何によって塩味が付けられよう」

からであることは容易に想像がつく。

哀切と裏切り、陰謀と原罪…著しく創造力が刺激されるではないか。

”地の塩、世の光”の謂れを戴いた名前を持つ女性、彼女の身に起きた事件これらをノンフィクションとフィクションの狭間で一遍の物語に仕立て上げるにはハードボイルドのジャンルしかないのだが、残念ながらこの国では読者も作家も理解者と創造力が払底しているのである。