テギルと英祖の母、淑嬪・崔氏の夢見たもの:『テバク』予習その5 | ゆかりんsoku☆チャン・グンソク

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韓国人俳優チャン・グンソク君のファンのブログ。
現在、記事の更新は不定期です。


ドラマ『テバク』のテギルは
架空の人物だが、

テギルを捨てた母親として登場する
淑嬪・崔氏(スクピン・チェシ)は、
言わずと知れた
ドラマ『トンイ』のヒロインとして
有名な実在の人物である。

 

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19代王・粛宗(スクチョン)の側室で、
21代王・英祖(ヨンジョ)の生母である淑嬪・崔氏(1670~1718年没)は
ムスリ(宮中の水汲みなどの雑用をする下働き)出身だったといわれているが、
記録が残ってないため出自などははっきりわかっていない。

(“トンイ”はドラマで付けられた架空の名前で、本名は不明)


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英祖が1725年に建立した「淑嬪崔氏神道碑銘」という石碑に
「淑嬪・崔氏が7歳の時に宮中に入った」と刻まれているため、
幼い時から王宮に入り女官の下でムスリとして仕えていた可能性が高く、
『トンイ』も それに沿った設定になっている。

しかし、 水を汲むなど重労働の仕事を担うムスリは
実際のところ王宮外から通う貧しい既婚婦が多かった。

その史実を参考に、 『テバク』では
崔氏は 「両班(貴族)の出身だが
博奕打ちの夫を持った貧しいムスリ」だという、
『トンイ』とはかなり違う設定になっているところが大変目新しい。

いわゆる「氏無くして玉の輿」に乗った
韓国版シンデレラとも称される崔氏が、
実は両班の出でしかも人妻だったという大胆な設定が
『テバク』序盤の原動力になりそうだ。


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規律の厳しい儒教の国で
王様が人妻に手を出すのか?
との疑念は湧くが、

実在の崔氏とて王を惑わしたほど
人にすぐれた色香の持ち主であったに
違いないだろうから、
彼女が独身であろうと人妻であろうと
男性は身も心も惹きつけられてしまうことも
あるのだろう。

なのに、産み月が合わないからと
粛宗の子であることを疑われて、
崔氏が泣く泣く永寿君(=テギル)を
宮外に捨ててしまう筋書きであるらしく、

失った子どもを嘆き悲しむあまり、
翌年産んだ延礽君(ヨニングン:後の英祖)に対して
愛情が薄くなってしまうというのも
崔氏にとってずいぶんと残酷な話である。


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そのうえ、崔氏が亡くなった後には
李麟佐(イ・インジャ)が「英祖は粛宗の子でない」との名分で
反乱(=戊申〔ムシン〕の乱)を起こしている。

そんなふうに崔氏が死後まで貞節を貶められるのは
卑賤の身ゆえか、
王の目にとまるほどの美貌と
それによる出世を妬まれたゆえか。

そういうところも『トンイ』とは全然違う
淑嬪・崔氏の姿が見られるようだ。


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実在の淑嬪・崔氏の生い立ちについては、
幼少時に両親を流行病で失い、
全羅道(チョルラド)の羅州(ナジュ)に住んでいた
仁顕王后(イニョンワンフ)の親戚筋に育てられた後、
王宮にムスリとして出仕するようになったという
俗説が伝わっているが、定かではない。

(『テバク』で全羅道の賭場が出てくるのは、
この伝承を取り入れているのかもしれない。)


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王宮で働いていた淑嬪・崔氏が20歳のときに
仕えていた仁顕王后が廃位され、
禧嬪・張氏(ヒビン・チャンシ)が王妃となる事件が起こる。

仁顕王后の復位を願って宮中で祈りを捧げていた
崔氏の姿が粛宗の目にとまったのがきっかけで、
王の寵愛を受けるようになったといわれるが、
はっきりしたことはわからない。

崔氏が懐妊により
23歳にして「淑嬪(スグォン:側室の一番低い地位で従四品)」になったのは
1693年4月のことであり、
息子の永寿(ヨンス)君を出産したのはその年の10月であるが、
永寿君は12月に夭折してしまう。


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しかし、ほどなくして2度目の懐妊がわかった崔氏は、
翌年(1694年)6月に従二品の「淑儀(スグィ)」に昇格する。
時を同じくして、「甲戌換局」の政変により
仁顕王后が5年ぶりに王妃に復位し、
崔氏を嫉妬して苛めていた禧嬪・張氏は側室の座に降格された。

崔氏は9月に再び息子を産み、これが後の英祖となる。
それに伴い世子(後の景宗)の生母である禧嬪・張氏との
後宮での勢力争いが一層激しくなる中、
1699年に崔氏は側室の最上位である正一品の「嬪」に昇格し、
淑嬪・崔氏となる。

1701年8月に大きな後ろ盾だった仁顕王后が
35歳の若さで病死してしまうと、
崔氏は禧嬪・張氏から自分と息子の身を守るため
粛宗に張氏が顕王后を呪詛していたと密告し、
結果的に張氏を死に追いやることとなる。

禧嬪・張氏の死後の1701年末、
淑嬪・崔氏は宮廷から梨峴宮(イヒョングン)に移り、
その後は世継ぎを巡る政争にもまったく口をはさまずに

1711年からは延礽君の家で7年間暮らし、
粛宗死去の2年前である1718年に49歳で死去した。


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『テバク』で淑嬪・崔氏を演じるユン・ジンソは
「美賊イルジメ伝」でチョン・イル扮するイルジメの
運命の女性を演じていた。

それこそ白梅の花のように
すっきりと美しい女優さんだった。

先に書いた「淑嬪崔氏神道碑銘」には、
崔氏の人柄について
「冷静沈着、かつ寡黙。
喜怒を顔に出さず、謙虚で温和だった」
と記されているという。

自分の運命を変えた粛宗と英祖と、
そしてテギルの運命にかかわる
怜悧な美女、淑嬪・崔氏に
ユン・ジンソの雰囲気はぴったり合っていると思う。

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実在の淑嬪・崔氏は
自分の息子が王座に就く姿を
見ることはかなわずに
49歳の生涯を閉じた。

『テバク』の崔氏は
もうひとつの夢、
遠い昔にやむなく
手放した息子・テギルに
この世でもう1度会うことが
かなうのだろうか。


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※文中の年齢は数え年です。
※画像はネット記事などよりお借りしました。

※参考文献は後日一括して記します。