夫の不貞行為が原因で婚姻関係が破綻した夫婦が、離婚調停において「条項に定めるほか名目の如何を問わず互いに金銭その他一切の請求をしない」旨の合意をし、その後、妻が、夫の不貞相手に対して慰謝料請求の訴訟を提起し300万円を請求したという事例についてです。

 

原審は、「不貞相手と夫が妻に対して負う不法行為に基づく損害賠償債務は不真正連帯債務であるところ、両名にはそれぞれ負担部分があるものとみられるから、調停による債務の免除は夫の負担部分につき不貞相手の利益のためにもその効力を生じ、不貞相手と夫が妻に対して負う損害賠償債務のうち不貞相手固有の負担部分の額は150万円とするのが相当である」と判断しました。

 

しかし、最高裁は、「民法719条所定の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務に関する同法437条の規定は適用されないものと解するのが相当である」旨判示し、さらには「離婚調停による債務の免除は、不貞相手に対してその債務を免除する意思を含むものではないから、不貞相手に対する関係では何らの効力を有しないものというべきである」として、不貞相手に対してだけの慰謝料請求額であることを認めました。

 

最高裁の判断で1つ気になる点は、もし、妻が、不貞相手に対してその債務を免除する意思をもっていたらどうなるのかということです。

 

他の事件ではありますが、最高裁が「甲と乙が共同の不法行為により丙に損害を加えたが、甲と丙との間で成立した訴訟上の和解により、甲が丙の請求額の一部につき和解金を支払うとともに、丙が甲に対し残債務を免除した場合において、丙が右訴訟上の和解に際し乙の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは、乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶ。」と判断している事例があることから、妻が、不貞相手に対してその債務を免除する意思をもっていたという場合は、不貞相手に対しても債務の免除の効力が及ぶということになると思われます。

 

問題の本質から考えると、夫は、貞操義務に違反し、妻との信頼関係を壊したわけですから、不法行為責任を判断する場合、一般的には夫の方の責任が重いと考えられ、夫が慰謝料を免除されるという話にはならないと思います。

 

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