雑話179「フランシス・ベーコン展」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話179「フランシス・ベーコン展」

現在、東京国立近代美術館で開催中の「フランシス・ベーコン展」に行ってきました。


これは20世紀最大の巨匠の1人に数えられるベーコンの、没後アジアで最初の回顧展ということで、大変注目度の高い催しです。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

東京国立近代美術館正面

恐怖に叫ぶように大きく開かれた口や、溶け出したような肉体を描いたベーコンの作品は、日本人好みではないかもしれません。


今回は、彼の多くの作品に間近に接することで、作品に秘められた深い精神性を感じることができるいい機会になるのではないでしょうか?


ブログでは3つのチャプターから、注目作品を1つずつご紹介しましょう。


チャプター1<移りゆく肉体 1940年代~50年代>の最初の展示作品は、ベーコンが初期に描いた悪魔的イメージの典型的なものの一つです。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

フランシス・ベーコン「人物像習作Ⅱ」1945-46年

オレンジ色に塗られた室内と思われる空間を背景にして、ツイードのジャケットを肩口まで羽織った人物が、不自然なまでに長い首を伸ばしています。


大きく開かれた口の部分だけが印象的な人物の頭部は、同一の形態である傘と棕櫚の葉によって挟まれています。


この人物はベーコンが1944年に描いた磔刑図の人物と同じだと思われますが、この場合キリスト教における救済を意図したものではなく、生贄や犠牲といったものを表しているといわれています。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

フランシス・ベーコン「ある磔刑の基部にいる人物像のための三習作」の右側パネル1944年

※展覧会には含まれません

恐ろしい姿で叫び声をあげているこの人物は、一体何の犠牲になったのでしょうか?


チャプター2<捧げられた身体 1960年代>の「ジョージ・ダイアの三習作」は展覧会の広告にも使われています。ここには、ベーコン流の大胆に崩された恋人の顔が3つ並んでいます。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

フランシス・ベーコン「ジョージ・ダイアの三習作」1969年

大振りで動的な白色のストロークと、オレンジ、紫、赤、ピンクの繊細な層が織りなす激しく歪曲したダイアの顔は別人の顔つきのようです。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

ジョージ・ダイア

※同性愛者だったベーコンの恋人でした

どうやらベーコンはある人物の肖像を描く際に、他の人物の相貌と混ぜ合わせることがあったようです。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

「ジョージ・ダイアの三習作」の中央パネル

3つの顔のすべてには、真ん中に弾丸を撃ち込まれたかのような円形が描かれています。


それは画面に不気味な雰囲気を与えており、自殺未遂を繰り返したダイアの自己破壊の欲求を表しているかのようです。


チャプター3<物語らない身体 1970年代~92年>の「三連画-人体の三習作」は、ベーコンが亡くなる数ヶ月前に描いた最後の三連画です。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

フランシス・ベーコン「三連画-人体の三習作」1991年

均一に塗られたキャンバスに、黒い四角形が画面上部からカーテンのように描かれています。そこでの空間の深さを推し測ることはできません。


しかし、その空間に、不完全ながらたくましい、すべてを露にした身体が描かれています。


中央パネルには組み合う二人組が描かれています。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

中央パネル

左右のパネルに描かれている下半身のみの男性像は、それぞれこちら側とあちら側とに移動しようと敷居をまたいでいるところでしょうか?


その腰から下の身体とつながるかのように、二枚のポートレートがピンで留められています。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

右側パネル

右パネルに描かれた肖像は画家自身でしょう。


左パネルは1991年当時は現役であったF1ドライバーのアイルトン・セナであるといわれていますが、ここでもやはり複数の相貌が混ぜ合わされているようです。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

左側パネル

この作品の人物像のような彫刻的な身体は晩年のベーコン作品の特徴のひとつです。


しかし、組み合う二人組、矢印や写真を留めるピン、あるいはカーテン状の四角形、そしてこちらとあちらの移行などはベーコンがこれまで繰り返し用いてきた要素です。


すでに80歳を越えたベーコンはここで、まるで告別の辞を残すかのように半世紀以上の長い画業を要約しているといえるでしょう。


激しく歪められた人物には、視覚に限定されない感覚全体をできる限りダイレクトに伝えたいという意図で描かれたようですが、実際に見ると意外なほど嫌悪感は感じません。


展示方法のせいもあるのかもしれませんが、ベーコンの作品はどれもまるで宗教画のような厳かな雰囲気すら感じさせました。


「フランシス・ベーコン展」は東京国立近代美術館で5月26日(日)まで開催され、その後6月8日(土)から9月1日(日)まで豊田市美術館で開催予定です。