遠藤周作は二つの顔を持つ。
ユーモアエッセイでお馴染みの狐狸庵先生。
それからカトリック作家としての遠藤周作。
深い河とは、カトリック作家の眼から見た、異教の国インドのガンジス河を表している。まさに、カトリックと仏教の間に流れる深い河を象徴している。
「探して。。。わたくしを見つけて、約束よ」
輪廻転生を信じて、再会することを希みながらガンで亡くなった妻を探す夫。
日本人である自分にとってのキリスト教を捜し求めて放浪する神父。
無残に死んでいった戦友を悼みながら、罪悪感から逃れられない老人。
それぞれのカルマ(業)を背負いながら、ガンジス河で見たものはなんだったのか。
この作品に出てくる人物はみな遠藤周作の分身である。
遠藤周作は敬虔なカトリック信者でありながら、いつも作品の中でキリスト教を否定したり揶揄してみせる。
それが、遠藤周作自身のカタルシスになっているようにさえ見える。
神を嫌悪しながらも結局は神から逃れられない自分。
その事実に対するあきらめと甘えは、悪い男に引っかかった女が、自分の運命を呪いながらも自己陶酔しているような哀しさと厭らしさを感じる。
何故神を信じるのか。という問いに対しては、
人間の代わりとして、自己を委ねられる唯一の存在。
というようなことを書いていた。
特定の宗教を持たない私は、そういう考え方もあるのかと新鮮に驚いた。
この作品が世に出たとき(1993年)、遠藤周作は死ぬな。
となんとなく予感してしまった。
書きたいことを書いて、肩の荷を降ろしたように、1996年病没。
彼は非常に重たい十字架を背負った作家だったと思う。
しかし、遠藤周作が、深淵を覗き込んだような、救いようのない暗さをどこから得たのかは、一切明かさずに謎のまま亡くなってしまった。
- 著者: 遠藤 周作
- タイトル: 深い河(ディープ・リバー)
- 著者: 遠藤 周作
- タイトル: 深い河