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2012-02-10 15:09:20

【学級閉鎖フィーバー】

テーマ:ブログ

真冬の中学の保健室だった。
オレを含むクラスの男子数人が、ひとりの男子を囲んで騒いでいる。
「いけ、後少し、いけ、いけ、後もう少しだ!」
囲まれた男子は片方の脇をすぼめ、もう片方の手でその脇を上から押さえている。
鼻にはシワを寄せ、なかなか必死だ。
すると、
「はい、出しなさい」
必死の男子の目の前に、白衣の手のひらが差し出された。
保健室の女の先生だ。
男子は脇に手をつっこむ。
他の男子は、博奕の丁と半どっちだ!と言うような目で見ていただろうか。
つっこんだ手がもぞもぞ動き、奴の学ランの奥からつまみ出されたのは!?
そう、体温計。
そしてそのまま、保健の先生に渡された。
「はい、熱は無し」
無情にも宣告された男子達であるが、その後も食い下がった。
「後少し、後もう少しでこいつの熱はあがる」
「だめ」
そのまま保健室を追い出された。
ちくしょう、学級閉鎖まで後ひとりだったのによお。
まあいい、後は保健室の事をネタに、みんなでガヤガヤ笑ってクラスに戻った。


学級閉鎖は嬉しかった。
記憶が間違ってなければ、小学校で一度、中学校で一度経験がある。
まわりの大人は授業数が足りなくなるとか騒いでいたが、
ガキにとって、突然の休みはやはり嬉しかった。
家で、普段見られない昼間のメロドラマを見たり、
布団に入ったまま、マンガを読みふけったり、
腹が減ったら、冷蔵庫を開けてみたり、
冬の寒い日に、家でたったひとり、なんの邪魔のない真っ白な時間だった。


人にはすき間が必要だ。
病院に入院した時は、何日もボケーっと過ごした。
そのまとまった日を、何かに使えばよかったかもしれないが、何もしなかった。
普段の日でも、差し迫る事がありながら、
「ああ、今日は何にもしなかったなあ」
と一日を終え、少しだけ後悔する事が、オレには結構ある。
でも振り返って見ると、自分の人生にいっぱいすき間を持った事が、
今の自分をホッとさせているような気がするんだ。
学級閉鎖は、毎日の学生生活の中でひょんな事でできた、贅沢なすき間だった。

2012-02-03 19:27:17

【現場ロック-5時のピンチ】

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寒い冬の現場だった。
高所作業車の運転中、5時の終了チャイムを聞いた。
その直後、真下で音がする。
鈍く「ガシャ」
瞬間、オレの髪の毛が逆立つ。
「おい、おい、おい、おい!」
まずいところに、高所作業車をぶつけたようだ。
はっきり言ってやばすぎる。
しかしまだ半信半疑。
オレは慎重に高所作業車を少しバックさせ、2mの高さを飛び降りた。
ぶつけた場所には養生シートが貼られている。
そこに地下足袋でしゃがみこむ。
「ごくっ」っと喉。
養生シートは少し破れて、へっこんでいる。
しかしまだわからない。
オレは目の前の養生シートをめくるべく、下の方を持った。
そして祈る気持ちで、ゆっくりシートを持ち上げていった。
すると!
ベートーベンの運命が鳴る。
「ガガガガ~ン」
めくられたシートの下から、ひび割れて凹んだ大理石が姿を現した。
「あちゃあ~」
オレは大きくため息をついた。


現在、初台に建つ東京オベラシティの竣工は1996年7月とある。
だからこの事件は、その半年ぐらい前の事だ。
オレは、オペラシティ地下1階の工事を任されていた。
仕事内容は日によって多少変わる。
その日の工事は、高所作業車で、大理石の壁の上に何かを溶接をする作業だった。
「高所作業車を使う時は、大理石に気をつけろよ!」
朝の作業前、オレがさんざん他の作業員に言った言葉だ。
そしてさらに、脅すように付け加える。
「一枚何百万もするから、絶対傷つけんな!」


5時のチャイムがなると、作業員はあっと言う間に姿を消す現場だった。
幸いかどうかはわからないが、その時その部署にはオレひとりだった。
そして目の前にはひび割れた大理石の壁。
大理石を睨み、何とかならないか考えた。
しかし見た目、オレには方法がわからない。
「会社がこの弁償をこうむるのか?もしくはオレが弁償するのか?」
オレは養生シートを再び被せた。
詰め所に帰ると、関係者の顔はなく、そのまま帰った。
帰り道に悪魔のささやき。
「だまっとくか」
「無理だろうお前に」
「なら、ごまかすか」
「どうやって?」
悪魔のささやきに頭を犯されると、荒唐無稽な事まで考え始めるから、
ちょっと笑える。
「脚立を遠くの方からならべるのさ」
「ならべてどうする」
「遠くから、ドミノ倒しのように倒すんだよ」
「倒してどうするよ」
「一番最後の脚立が倒れて大理石を割ったようにするんだよ」
「んな、バカな」


一晩中、黒い煤が頭にあるようだった。
どうやらオレは、黒い煤を体に同化させて、生きていける人間じゃないようだ。
次の朝一番で、オレは大理石の責任者に伝えた。
地下の現場は監督を交え、少し騒ぎになった。
オレは渋い表情で、騒ぎの後ろに立つ。
少しして、大理石の職人もやってきた。
すると、壁の裏に入って大理石を押し戻せると言う事で、
なんとか、お咎めなしだった。
石屋の責任者からもらった言葉は「早く言ってくれてありがとう」だった。
こころの中で、野球の審判のアクションが炸裂する。
「セーフ」
そして黒い煤がスーッと抜けていった。


それから数日後だった。
オレの担当じゃない1階の目立つ場所で、大理石が割れていた。
まさしくオレがやったパターンと同じだった。
誰かが、高所作業車でぶつけたんだろう。
その犯人はでてこなかった。
石屋も意固地になって、しばらくそのままにしたままだった。
オレは「ちゃんと言えよな」と思いながらも、
黒い煤をこころに持ったまま生きられる奴もいるんだなあと、
変なところで感心した。
でも、ちょっと気の毒だな。
「はき出しちゃえよ、大丈夫か?お前の顔つき変わるゾ」


この大理石割り事件は、自分の本来の何かに深く突き刺さる、
なかなか強烈な出来事だった。
まあ、とにかくセーフ、セーフ、何とかセーフ、イエー現場ロック!

2012-01-26 16:46:33

【たこ焼きシェイキン】

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寒空の下、鳥が飛んでいる。
オレのポケットには、せいぜい50円玉一枚あるかないか。
しかし、ジャキーン!
あいつはポケットに手を突っ込みやがった。
そしてニヤッと一閃、
10円20円の駄菓子を品定めしているオレ達を横目に、
あいつの半ズボンのポケットから出たグーが開く。
するとそこには、150円が乗っかっていた。
「なぬ!?」
そしてまさか?
案の定、あいつは横のたこ焼き売り場で、たこ焼きを買った。
たこ焼きがのった白い発砲スチロールの皿を手のひらにのせ、
そそくさと、駄菓子の横で棒立ちのオレ達から離れ、
かつお節ゆらゆらのたこ焼きに、爪楊枝をブスっと突き刺した。
「オレも食べたい」
しかし口には絶対ださない。
他の友達は、速攻オレから離れて、たこ焼きにむらがった。


小学校の5,6年の時、松江市灘町に住んでいた。
近くに白潟天満宮、通称天神さんがあった。
子供の頃、境内でよく遊んだ。
そこの参道脇に一軒、駄菓子とたこ焼きを売る店があった。
子供はいつも10円20円の駄菓子を買う。
お祭りの時をのぞけば、普段の日に8個150円のたこ焼きを買えるやつはいなかった。
しかし、一回だけ買った友達がいた事を憶えている。
だが、「武士は食わねど高楊枝」とか、
訳のわからない事を親に吹き込まれていたオレは、
欲しがる様子さえ見せなかった。
でもきっと、やせ我慢見え見えだったかな?
なんてたって、その事を今でも憶えているんだからさ。


食べたい気持ちがあるなら、後で親にねだればよさそうなもんだが、
それもしなかった。
遊んでいる時にこそ、そこのたこ焼きは魅力的だったが、
あらたまって食べるには、あまりにもお子ちゃま向けのようで、
食べるのだったら、ちゃんとしたたこ焼きを食べた方がいいと思っていた。
ちゃんとしたとは、大阪で食べたたこ焼きだ。


小学校3,4年の時、大阪に住んでいた。
心斎橋で食べたたこ焼きを思い出す。
御堂筋沿いにあるお寺の裏の路地に、スナック風のたこ焼き屋があった。
お店に入るとカウンター席になっていた。
カウンターの中には、タコそっくりのおやじさんがいて、
客が座ると寿司屋の様に、木の寿司下駄が客の目の前に置かれる。
壁のお品書きをチラッと見たか見ないかで、たこ焼きを頼むと
「へい、もう焼いてます」と言われる。
そしてちょっとすると寿司下駄に寿司の様にたこ焼きが並べられる。
ところがそのたこ焼きを見ると、ほとんどがむき身のタコで、
ところどころ衣がからみついている程度、
それを一個一個箸で持ち上げ、お出汁につけて食べる。
それがメチャクチャうまかった。
つまりたこ焼きの種類のひとつである、明石焼きだ。
しかし「これが本物のたこ焼きや!」と自信満々に母親から言われたせいもあり、
本当のたこ焼きはこれなんだと、相当しばらくの間、思いこんでいた。
だから当然、小5,6年の頃はそう思っている。
天神さんで、たこ焼きを食べる友達を尻目に、
「オレは本物を知っている」とでも思っていたかもしれない。


年月が過ぎ、東京に住むようになった。
松江に帰省した時、特にお正月、オレは天神さんのたこ焼きを食べる。
大阪の明石焼きを、本物のたこ焼きと思いこんでいたはずのオレだが、
やっぱり、天神さんのたこ焼きはたまに食べていたようだ。
そしていつしか、天神さんのたこ焼きの味は、オレの脳裏にすり込まれていた。
大阪で食べた明石焼きもうまいが、天神さんはうまい。
やはり持ち帰らず境内で食べるのがうまい。
普通のたこ焼きは外はカリカリ、中はトロトロだが、
天神さんのは、すべてがトロトロだ。
他じゃ口にしない味が、ここにあるのに気が付いたのはいつの頃だろう。
子供の頃から身近にありすぎて気が付かんかったワイ。


正月、寒空の天神さんの境内で、たこ焼きをほおばりながら、
昔と全く変わらない店構えに顔をむけた。
すると、駄菓子の横でそっぽ向いている小学生のオレがいた。
「ほれほれ、大人がおごってやるから、お前も食べろ」
ついこの間まで200円だったたこ焼きは250円にあがっていた。
でも十分安い。
オレはもう1パック買うと、それもペロリと食べた。


PS.15年ほど前、大阪の明石焼きのお店を捜して行ってみた。
すると、まんまのそのお店がそこにあった。
感動した。
そして久しぶりに食べて、また感動した。
しかし5年くらい前だろうか、その店はなくなっていた。
あのおやじさんどうしたんだろう。

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