引き続き「勇〇三部隊戦史」より
二度の総攻撃延期を経て史実として総攻撃当日になる日の朝からご紹介します。
昭和17年10月24日
午後四時
敵状依然不明のまま、右第一線へ第一大隊、左第一線へ第三大隊がそれぞれ尖兵中隊を先頭に出発する。
重火器(連隊砲・速射砲・迫撃砲の各隊)は未だ到着していない。
熱帯地方に薄暮はなく、あっという間に闇夜となり、その暗闇は緞帳に覆われたように一寸先も見えなくなる。
隊列は自然に乱れ始め、将校も兵士も前の者の肩に手をかけ、あるいは革帯を握って離れないように前進する。
師団命令による攻撃時刻の午後五時は、とっくに過ぎている。
依然敵状不明、全く暗中模索のまま手探りの前進を続けている。
そんなとき、古宮連隊長は報告を受けた。
右第一線の第一大隊所在不明。
第三大隊の尖兵中隊と連隊本部の距離が百米も無い。
さらに第一大隊の第三中隊が第三大隊に混入している。
敵前至近距離に迫り、攻撃開始という時に、一個大隊行方不明、しかも隊列が乱れている。
古宮大佐は、連隊本部を停止させ部隊掌握に努める。
再度、前進を開始すると前方より「電線」を発見したとの報あり。
米軍は我軍の進出を予期し、マイクロホンを設置しているらしい。
古宮大佐は、川口少将の言っていた「米軍は陣地を補強している」といった言葉が頭の中に電光のように走った。
一刻の猶予もならざる状態だ。
その時、雨がやみジャングルの樹間より月が顔を出した。
しかも満月に近い白い月である。
部隊の掌握の為、伝令を各隊へ出発させた直後、前方のジャングルの上にスルスルと数発の証明弾が青白い光芒を放って昇った。
そしてパンパンと音がしたと思った途端、左上方にも照明弾が上がる。
前進中の兵士の列は一斉に地面に伏した。
「伏せろっ」
声がしたと同時に、砲弾が一発樹上に落下爆発した。
続けて数発の砲弾が落下し爆発する。
連隊は敵の先制攻撃を受け、ムカデ高地当方ジャングルに釘付けにされてしまった。
この砲撃で、連隊本部の八島重次郎曹長(国見町)らが戦死。
古宮連隊長は、大木の根元にドッカリと腰をおろし耳を澄ませている。
砲弾は益々激しくなりローラーを掛けるかのように落下して、死傷者続出しジャングル内には苦痛を訴える叫び声があがり硝煙が立ち込める。
午後十一時頃、第三大隊より船津大尉が転げるようにして戻ってきた。
古宮連隊長「どうした第三大隊は」
船津大尉は吐く息も荒々しく
「前方200mに草原あり。草原の向こうには鉄条網が構築されており、目視し得る掩蓋のある機関銃座は三箇所、これ以外にも数箇所ある模様。これに対し第三大隊は配属の工兵隊(鈴木駒兵小隊)をして突撃路を二箇所に作らせ、第九中隊を突入させ、続いて第十一中隊を左に突入させる。石井小隊(第10中第1小)と第三中隊を予備隊として大隊長と共に前進す、ということであります。」
古宮連隊長「よし分かった。第三大隊へ案内せい」
軍刀を持って歩き出す。
船津大尉は慌てて前に立ち砲弾の落下する中を駆け出した。
弾痕のため凸凹の激しい地面を這うように船津大尉の後を追う古宮大佐。
船津大尉「あそこが第三大隊です」
古宮大佐「これは近い、近すぎる」
大隊と連隊本部は少なくとも100mは離れていると思っていたからである。
それが数十メートルも離れていない場所に第一線があったのだ。
古宮連隊長「吉井少佐ご苦労」
迫撃砲がシュルシュルと音を立てて図上で炸裂する中、吉井大隊長の側へにじり寄る。
「いま船津大尉より戦闘部署を聞いた。しかし機関銃はどうした。」
吉井少佐「はい、まだ到着しておりませんが、待っては居られません」
「吉井少佐、予想外の戦いとなりそうだな。こうなっては突撃以外方法はない。しっかり頼むぞ。連隊長もすぐ戻る。」
「分かりました。お任せください。」
連隊本部に古宮大佐が戻ると、連隊砲中隊長鎌田嘉文中尉と速射砲中隊長峰岸慶次郎注意が転がるように駆け込んできた。
古宮大佐は大砲到着と思い「ご苦労、大砲はどこだ」
鎌田中尉「申し訳ありません。大砲は間に合いそうも無いと思い、せめて隊長だけでも総攻撃にーーと思ってやって参りました」
両中尉は大砲が間に合わなかったことを叱られると思い、両手を地べたにつけた。
「よく来てくれた。ありがとう」
と叱るどころか、労いの言葉をかけている。
ジャングル内は炸裂する砲弾の轟音と、負傷者の呻き声が充満し、血臭と硝煙がまじって異様な悪臭が渦巻いている。
この時、軍旗旗手の犬塚少尉が戦死。
大野少尉が旗手に任命される。
第三大隊長吉井少佐、負傷後送。
「只今より第十一中隊が突撃します」
伝令の声が砲煙弾雨の中に聞こえた。
すると前面の敵の機関銃が「ガガガガー」と唸りだし左右両面の機関銃も一斉に火を吹き出した。
「突っ込めーっ」
中隊長のかん高い声がした。
「ウワー」
喚声が月明下の草原にあがる。
敵機関銃はさらに数を増し、流れ来る曳光弾は火の奔流となって突撃兵の前に立ちふさがった。
その弾幕の中に第十一中隊長勝股治郎大尉指揮の120名が「シー、シー」という音声を出し敵陣に殺到して行った。
午後十一時過ぎ頃である。
しかし、突撃した兵士の大半は鉄条網の突撃路に届く前に、機関銃に倒れ突入したのはやずか数十名に過ぎなかった。
この描写が、第二次総攻撃が開始された場面である。
夜戦奇襲は、充分な敵状把握と地形分析が必要であるにも係らず、一木支隊・川口支隊と全く同じ遭遇戦となっている。
この場面には優秀な戦闘指導を行う参謀は登場しない。
さらに、この場面を詳しく記述されている書籍がある。
第十一中隊長勝股治郎大尉の著書「ガダルカナル島戦の核心を探る」である。
次回は、勝股治郎氏の著書より引用し、突撃時の状況をご紹介したいと思います。
その⑪へ続きます。
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