今回紹介するのは,T?ガートン?アッシュの『ファイル 秘密警察とぼくの同時代史』である,ドラクエ10 RMT。栁骼鋺橄陇螙ドイツに滞在した経験を持つイギリスの歴史学者が,自分について枼丧ぅ膜沃伟矙C関が調べ上げたファイルを後年手に入れ,そこから推測できる監視者/密告者達に会って,密告の動機や監視の理由を明らかにしていくという,異色のルポルタージュだ。  枼丧ぅ膜仙缁嶂髁x統一党による事実上の独裁体制で,その下の諜報/治安機関である国家保安省(MfS。通称シュタージ)が,大がかりな国民相互の監視/密告体制を築いていた。要注意人物と目されるや,シュタージの職員は周囲の人に接触し,あるいは専門の工作員を送り込んで情報を探り,弱みを握ることに努力を傾注していたのである。  国が丸ごと西側に吸収されたという経緯もあって,旧枼丧ぅ膜扦鲜飞悉膜皮胜ひ幠¥饶谌荬吻閳蠊_が行われた。夫が妻を密告し,教師が生徒を密告していたといった事実は,旧枼丧ぅ纳缁幛舜螭市n撃を与えたが,なかには自身の調査ファイルのコピーを入手し,それに基づく本を著した人もいる。密告と記録をゲーテの口述筆記者になぞらえた『シュタージは私のエッカーマンだった』や,ファイルの入手経緯まで諧謔たっぷりに説明した,詩人ライナー?クンツェの『暗号名「抒情詩」』などが有名な例だ。  ガートン?アッシュの著作も,これらに続くものと考えてよいが,自分の記憶とシュタージの記録を比べてあれこれ講釈するに留まらず,前述のとおり密告者や監視オペレーションの指揮官を捉まえて,インタビューまでしている点が斬新である。事後のことを考えると,旧枼丧ぅ膜稳摔摔夏妞摔い饯欷趣扦胜ぴ嚖撙坤恧ΑC芨妞蝿訖Cはシュタージに自身の商売上の便宜を図ってもらうためだったり,愛国的な思いであったり,自身の家族を守るためであったりとさまざまで,なかには著者がてっきり密告者だと思って連絡をとってみたら,シュタージの担当官によるおおざっぱな書き込みが原因で,実は違ったなどという例も紹介される。  そして,その例が図らずも明らかにしたとおり,監視社会が崩壊したいま,かつて密告された者は密告した(と目される)者を吊し上げることが可能という,逆の意味で危険な立場にいる。枼丧ぅ闹R人層の代表格であるフンボルト大学の学生達の間では,枼丧ぅ谋缐仓贬幛我粫r期,自分がいかにシュタージから危険視されていたかが,デートで異性に誇れるステータスだったことすら,あったという。  ガートン?アッシュは当時ポーランドの「連帯」の動向を取材する形で自身の研究を進めていたこともあって,彼を監視するシュタージの記録やオペレーションを,インタビューを交えつつ分析することは,取りも直さず枼丧ぅ膜瑜訓欧の現代史の一断面を描くことでもある。自分の“歴史”を探究することで,当時の枼丧ぅ纳缁幛蛎瑜訾工长伪兢希撙庋预Δ趣辏郡坤违ē氓互い扦悉胜瑯Oめて特異な「歴史書」なのである。  さて,調査を進めるなかで著者は,自分が監視される理由として「西側諜報機関のリストに載っていたから」という証言を引き出す。そして著者自身も忘れていた,若き日に英国外務省関連団体の職員のリクルートを受けた記憶にまで,話はさかのぼっていく。結局,著者が諜報員になることはなかったのだが,rmt,はるか以前に一度だけ接触した相手のことも,英国の諜報機関は律儀に記録していたのだ。  これもまた,諜報/治安維持という分野のすさまじさ,規模の大きさと執念深さを伝える,驚くべき逸話の一つだろう。「事実は小説よりも奇なり」とはいうものの,ソ連型社会主義への痛烈な批判として『1984年』を書いたジョージ?オーウェルが,英国自身の身に跳ね返ってくるこの話を聞いたとしたら,大いにショックを受けるだろうか,それとも寂しく笑うだろうか?  貿易立国がお家芸であり,かつて七つの海を支配した英国の,諜報にかける熱意には並々ならぬものがある。つい最近も,外務省系諜報機関である政府通信本部(Government Communications Headquarters。GCHQ)が,で人材募集のゲーム内広告を展開するという試みがばかりだ。アメリカの「エシェロン」に代表される新しい手段に対応しつつ,彼らは今日も精力的に働いている。我々に馴染み深いゲームタイトルすら,彼らの活動と無縁ではないのだ。  話題はどこまでも20世紀的で,扱われる諜報の内容と手段も古典的ではあるものの,世界がどうやって動いている/いたのかに関し,その意図的に隠された一面に触れられるという意味で,実に刺激的な本である。
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