捏造された記憶
身支度を終え、俺は、
黒い手提げ袋を車の中に放り込んだ。
中身は二枚のレンタルDVDだった。
車の流れ。
熱せられた空気。
ラジオからは、役に立ちそうもない情報が溢れ出し、
一瞬にして消え去ってゆく。
ほどなくすると、俺は会社の駐車場にいた。
何時のように、ぎりぎりまで車内ですごし、俺はドアをあけた。
何故か、右手に黒い手提げ袋をぶら下げている。
俺はあわてて車に戻り、手提げ袋を後部座席に投げ込んだ。
仕事が終わり、レンタルビデオ屋へDVDの返却に行った。
車を降りて、DVDの袋を後部座席から取り出そうとすると、
袋が見当たらない。
いったいどうなっているのか?
助手席と運転席の下も探したが見つからなかった。
マットの下、
トランクの中、
何度も確認したが、みつからなかった。
信じられなかった。
朝持って出た事は確かだった。
考えられるのは、会社の駐車場で落としたか、
昼飯を買いにいったショッピングセンターで落としたか、だ。
いや、
車の鍵を閉め忘れ、タイミングよく何者かに盗まれてしまったのか?
とにかく俺は何も持たないまま、
レンタルビデオ屋のカウンターへ向かう。
その日がレンタルの期限日だった。
「レンタルしたDVDが、盗まれたんですが」
店員は、盗難の場合の対処方を知らなかった。
奥へ行って、どこかへ電話して確認を取っているようだった。
戻ってくると、こう説明してくれた。
「警察へ盗難届を提出し、その届け番号を持ってご来店してください」
「………」
俺は警察へ行って調書を書くことの煩雑さを想像した。
行った所すべてを克明に書き出し、
通勤経路も時間も、些末なことまで書かされるに違いない。
そして、
盗難にあったという確証もないのだ。
俺は店員に尋ねた。
「紛失の場合はどんな手続きになりますか?」
その場合、弁償する事になると説明してくれた。
俺は会員カードを提出し、店員に渡した。
端末にカードを入れ、操作を始めた店員が、首を傾げている。
なんてこった。
俺は弁済金額が幾らになるかを考えていた。
店員が怪訝な顔をして、俺の前にやってくる。
「現時点で、貸し出している商品は無いようなのですが?」
「いや、今日返却日になっているはずなんだけれども。二本借りたはずなのだけれども」
なんて幸運なのだ。
貸し出し履歴が、何故か消えてしまっている。
刹那思ったが、俺はよけいな事を言っていた。
店員が再度、俺の会員カードを確認している。
履歴を観ても、借りているDVDは無かった。
ならば、
その日の朝のあの記憶は、何だったのか?
DVDの袋。
黒い袋をぶら下げ、車を降りた事。
それは俺にとって現実以外のなにものでもなかった。
なんてこった。
俺は狂っているのか?
ふと、霊が見えると言っている、恐がりの芸能人を、俺は思い浮かべた。
彼は間違いなく、霊を観ている。
圧倒的なリアリティーを伴った幻覚。
それは彼にとっては現実であり、
脳が現実と認識している。
現実とはそんなものだ。
俺は信じられないような気持ちのまま、
プリントアウトされたレンタル履歴に視線を落とした。
俺がその日返却しようとしていたレンタルDVDは、前日に返却されていた。
返却した記憶が、どこかに消えてしまっている。
代わりに、黒い袋を持って車に乗る記憶が、でっち上げられていた。
店を出て、
俺は一度、振り返った。
朝の記憶は、生々しいほどリアルで、現実味を帯びていた。
というより、現実だった。
「なんてこった」
俺は呟き、車に乗り込んだ。
黒い手提げ袋を車の中に放り込んだ。
中身は二枚のレンタルDVDだった。
車の流れ。
熱せられた空気。
ラジオからは、役に立ちそうもない情報が溢れ出し、
一瞬にして消え去ってゆく。
ほどなくすると、俺は会社の駐車場にいた。
何時のように、ぎりぎりまで車内ですごし、俺はドアをあけた。
何故か、右手に黒い手提げ袋をぶら下げている。
俺はあわてて車に戻り、手提げ袋を後部座席に投げ込んだ。
仕事が終わり、レンタルビデオ屋へDVDの返却に行った。
車を降りて、DVDの袋を後部座席から取り出そうとすると、
袋が見当たらない。
いったいどうなっているのか?
助手席と運転席の下も探したが見つからなかった。
マットの下、
トランクの中、
何度も確認したが、みつからなかった。
信じられなかった。
朝持って出た事は確かだった。
考えられるのは、会社の駐車場で落としたか、
昼飯を買いにいったショッピングセンターで落としたか、だ。
いや、
車の鍵を閉め忘れ、タイミングよく何者かに盗まれてしまったのか?
とにかく俺は何も持たないまま、
レンタルビデオ屋のカウンターへ向かう。
その日がレンタルの期限日だった。
「レンタルしたDVDが、盗まれたんですが」
店員は、盗難の場合の対処方を知らなかった。
奥へ行って、どこかへ電話して確認を取っているようだった。
戻ってくると、こう説明してくれた。
「警察へ盗難届を提出し、その届け番号を持ってご来店してください」
「………」
俺は警察へ行って調書を書くことの煩雑さを想像した。
行った所すべてを克明に書き出し、
通勤経路も時間も、些末なことまで書かされるに違いない。
そして、
盗難にあったという確証もないのだ。
俺は店員に尋ねた。
「紛失の場合はどんな手続きになりますか?」
その場合、弁償する事になると説明してくれた。
俺は会員カードを提出し、店員に渡した。
端末にカードを入れ、操作を始めた店員が、首を傾げている。
なんてこった。
俺は弁済金額が幾らになるかを考えていた。
店員が怪訝な顔をして、俺の前にやってくる。
「現時点で、貸し出している商品は無いようなのですが?」
「いや、今日返却日になっているはずなんだけれども。二本借りたはずなのだけれども」
なんて幸運なのだ。
貸し出し履歴が、何故か消えてしまっている。
刹那思ったが、俺はよけいな事を言っていた。
店員が再度、俺の会員カードを確認している。
履歴を観ても、借りているDVDは無かった。
ならば、
その日の朝のあの記憶は、何だったのか?
DVDの袋。
黒い袋をぶら下げ、車を降りた事。
それは俺にとって現実以外のなにものでもなかった。
なんてこった。
俺は狂っているのか?
ふと、霊が見えると言っている、恐がりの芸能人を、俺は思い浮かべた。
彼は間違いなく、霊を観ている。
圧倒的なリアリティーを伴った幻覚。
それは彼にとっては現実であり、
脳が現実と認識している。
現実とはそんなものだ。
俺は信じられないような気持ちのまま、
プリントアウトされたレンタル履歴に視線を落とした。
俺がその日返却しようとしていたレンタルDVDは、前日に返却されていた。
返却した記憶が、どこかに消えてしまっている。
代わりに、黒い袋を持って車に乗る記憶が、でっち上げられていた。
店を出て、
俺は一度、振り返った。
朝の記憶は、生々しいほどリアルで、現実味を帯びていた。
というより、現実だった。
「なんてこった」
俺は呟き、車に乗り込んだ。