「もう、私に言わさせないでよ!」ふくれっ面の裕美に俺も限りなく顔が緩んでしまう。
同じ1号車に乗ってる大原部長と中島さんが立ち上がって、
「皆さん、お待たせしました。それでは出発いたします」おぉ!1号車内で歓声が湧き上がった。
バスのエンジンがかかり出発した。
どういうルートで行くんだろと思いつつも俺には皆目分からない道だった。それよりも裕美との会話を楽しもうと思って、
「裕美姫様。待っててください。姫がお待ちかねのものは必ず差し上げますから」そう言うと裕美は小声を立てて笑い出した。こんなので笑うなんて俺もまんざらじゃないかって思って「何が可笑しいんです。真摯でいる私もあなたに笑ってしまわれるとしょげちゃいますよ。私が今どれだけ真面目にしてるのか姫は解ってらっしゃるんでしょうか?」そう言うと裕美の笑い声は大きくなってしまった。回りには気付かれない笑いだったのが救いだったけどね。
「鮫王子さんておかしな人。私以上に面白い人かも?」
「いえいえ、姫から見れば私なんてどこにでも転がってる奴ですよ。それはそうとあなたに毒を盛る王妃は今日来てるんでしょうか?」
「王妃役の人って見当たらないですね」
「王妃抜きの白雪姫は成り立ちませんが・・・。あなたは魔女の毒リンゴで死んでしまうんですよ」
「でも私には魔女に当たるような嫌いな人なんていません」
「ですよね。裕美姫を好きになる人はいるとしても嫌いになるような人なんてまず出てきませんもの」
「・・・」裕美が黙ってしまった。また変な(悪い)こと言ってしまったのか?
「ゴメン。また気に障ること言っちゃったかな?」
「・・・私だって人から嫌われることだってあるよ。どうしてそんな眼で見るの?」
「・・・ゴメン。どうしてもあなたのことアイドルにしか見えないから。あなたを普通の女の子に見るにはどうしたらいいんでしょうね?」今の俺が裕美に対しての一番の言いたいことかも。
「・・・一緒に暮らしていけばいいって思う。そしたら私の欠点嫌でも目に付いてくるから。そうしようか?」また大胆なこと言う。
「馬鹿なこと言うたらアカンて。俺たちに同棲なんて絶対駄目。そりゃしたいって気持ちはあるけど出来んことやん。落ち着いて話そ。どしたら裕美のこと普通の女の子に見えるようになるんやろ?」クドイな。同じことの繰り返し。
「私は鮫君のこと普通の男の子に見てるんだけどな」そらそうやろ。
「俺のことはどうでもええ。裕美のことなんよ」裕美を凝視したら、
「これまでの私って鮫君みたいに特別視して私のことに構った人なんていなかったよ。友達だって家族だってどこにでもいる普通の女の子で見てもらってたけどな」
「人のこともどうでもええって。俺自身が裕美のこと普通に見るにはどないしたらええ思う?」
「だから一緒に生活送ろうよ」同じことの繰り返しか。結局出口のない迷路みたいなもんなんかな、今の俺たちの関係って。
(続く)