ごんざの「両性からみた結婚」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 結婚に関連することばを男女の立場別に分類してみた。
 男女どちらからもいえる結婚(所帯をもつ)

「ロシア語」(ラテン文字転写)     「村山七郎訳」    『ごんざ訳』

1「Обручаю」(obruchayu)     「婚約させる」    『にゅぼもたする』
2「брачуся」(brachusya)     「結婚する」     『にゅぼもつ』
3「небрачный」(nebrachnyi)    「結婚しないところの」『にゅぼもたん
4「бракъ」(brak')          「結婚、婚礼」    『ごじぇむけ』
          村山七郎注 cf. ゴゼムカイ(御前迎) 嫁入りをいう。物類称呼–5
          「嫁(よめいり)といふ事を...薩摩にて、御前(ゴゼ)むかひと云」
          ゴゼンケ 鹿児島県姶良郡。ゴションケ熊本県葦北郡、
          鹿児島県曽於郡松山。日本国語大辞典
5「супругъ пара」(suprug' para) 「夫婦」      『にふき』
                  村山七郎注 cf. ニービキ 婚礼。南島糸満 TZH. 
                ニービチ(根引の意という)結婚。南島 分類方言辞典
6「супружество」(supruzhestvo) 「夫婦たること」  『  』

 男女どちらからもいえる結婚ということばは、ごんざの語彙にはなかった。
 たとえば、1は、「指輪」ということばから派生した動詞だ。こういうことばは日本語にはない。しかたなく、ごんざは、自分が男なので、男性の立場からの『にゅぼもつ』『にゅぼもたする』という訳語をつけた。
 4は「婚礼」という意味なので、該当する訳語をつけることができた。
 5は、「夫」と「夫婦」のふたつの意味があるので、「夫婦」の方だよ、という意味で「пара」(para)(ペア)とそえがきしてある。4とちがって、「婚礼」という意味ではなく、「夫婦一組」という意味なので、『にふき』というききなれないごんざの訳語が「婚礼」の意味かどうかは疑問だ。ちょっとちがうような気がする。
 6は男女両方からみての「結婚」の意味だけど、ごんざは訳語をかけなかった。