週末ある集まりに参加する為、名古屋駅で神奈川から来たおっさん二人を拾い
伊勢道を走っていました。
集まりは志摩のホテルで夕方からですから時間はまだまだあります。
車に乗ってからずっと携帯をいじり横浜長者町のキャバクラ嬢にメールを
送り続けていた不動産屋が言います。
「なぁ、オレ、脂のしたたる松阪牛が食いてぇよ。」
彼は1400GTRオーナーズクラブでは血糖値200以上、ウェスト１メートル
以上の選ばれた男しか入れない「チームサーロイン」のメンバーです。
普段はいい人なんですが、腹が減ると極端に機嫌が悪くなり凶暴になる
所はいただけません。
仕方なく私達は松阪インターで高速を降りてナビの案内を頼りに
老舗の牛肉料理店「牛銀」さんへとやって来ました。
お店は昭和7年に建てられたと言う歴史を感じる立派な佇まいで、玄関では
着物を着た女性が出迎えてくれます。
下足番に履き物を預け、私達は二階に上がった和室の丸い座卓に案内されました。
さすが老舗、塵ひとつ無く磨かれた廊下からは良く手入れされた中庭が望め、同じ
牛肉の店でも普段私が贔屓にしている吉野家とはだいぶ趣が違いますね。
テーブルに七味や食べ放題の紅ショウガが無い所なんぞはさすがです。
そして、こちらがおしな書き
料理はすき焼き、汐ちり 水たき、そして松坂牛ヒレ肉のあみ焼きとシンプルな
構成です。
料理のランクは良くある松、竹、梅では無く、最上級は橘、続いて松、梅と別れて
いますが、仲居さんに伺った所、これは供される肉質の違いだそうです。
さて、何を頼みましょう？協議の結果
何しろ育ちがアレなので鍋物は肉の取り合いになるから、一人分の枚数が決まった松坂牛
ヒレ肉のあみ焼きが良いだろうと意見が纏まり、
これで三人合わせると160歳を越える男が肉の取り合いで起こす刃傷沙汰を避ける事が出来
ました....
1人前13650円也、しかもご飯とお椀漬物は別料金です。
吉野家の並なら約36杯食べられる計算ですね....
あぁ、かあさん、苦節52年ボクもやっと牛銀でお肉が食べられる身分になりました....
私は東京は上野で妹夫婦の世話になる年老いた母の顔を思い、東の空に向かって思わず
そう心の中で呟くのでした。
着物の仲居さんは手際良くテーブルに炭を熾し
肉を焼いてくれます。1人前は150グラムです。
1枚50グラムのヒレが3枚なので、この網に乗っているのが、丁度1人前と
言う事になります。
なるほど、確かに柔らかくて箸で切れますね....
塩、胡椒、そして付けタレはポン酢、塩ダレが用意されています。
旨いかって？そりゃこのひと切れが4000円ですからね.....
仲居さんはおやじ達がケンカしない様、食べ頃になると銘々に取り分けて
くれます。
今、横浜のナウなヤングの間では美味い物を食べると人差し指と中指の
間から親指を出してアピールするのがトレンドだそうです....
お肉に続いて野菜が焼かれ、時間にして30分程で計４万円ほどがこの網の上で
消えた事になります。
確かに美味いと思います。肉も品評会などで賞を取った様な上質な物が出されているに
違いありません。
しかし、どこまで行っても牛はウシ、噛んでる内に豚の味がして来る訳でも無いので
ウチの近所のスーパーで買ったノーブランドの和牛ヒレ肉とどれ程の違いが有るかは
私の様な口の肥えてない男には分かりません。
また行きたいかって？ええ、モチロンです。あなたが奢ってくれるなら.....
その後しばらくの間、私達の間で街で見掛けた美人の事を橘と呼ぶのが流行ったのは
言うまでもありません。
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