『宝石泥棒』 山田正紀 角川文庫 | 表層人間の半可通読書とゲームリプレイブログ(略称半読書リプレイw)

『宝石泥棒』 山田正紀 角川文庫

宝石泥棒 (ハルキ文庫)/山田 正紀
¥987
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本書のベストセリフ


「いったい愛などというものに、


はたしてそれほどの価値があるのだろうか……」


想像できないものを想像する天才山田正紀。


今回のモチーフは、植物知性というか、現実とは全く違う生態系のファンタジー世界で、


テーマは人類進化テーマの特殊タイプ人類退化ものである。


月が消滅した超未来、


地球には全高100メートルを越す巨木が生い茂り、


人類は食物連鎖の頂点から滑り落ちていた。


人間より優れた植物や神が存在する世界での冒険ファンタジーと思わせて、


ラストは小松左京の『結晶星団』ぽいSFになります。


女とセクースする為という誰もが理解出来る動機で冒険に旅立った主人公は、


インドシナファンタジー世界、


中華ファンタジー世界、


イスラムファンタジー世界を巡る冒険の果てに成長し、


愛などどうでもよくなるのが素晴しい!


想像の翼を自由に羽ばたたせた驚天動地の異色のファンタジー世界とは言うが、


凡百の作品では、テックレベルと政治形態が存在しなかった組み合わせであるだけである。


職業階層や倫理観が現実世界とほとんど同じ糞ファンタジーが氾濫しているが、


さすが天才の山田正紀、狂人という職業が出てくるわ、


四親等間のセクースが一番のタブーとされたり、


オリジナリティが物凄い!


大長編というよりは、三つの中篇連作だが、


どれひとつとっても軽く日本ファンタジー大賞の水準は越えている。


ファンタジー世界にモンスターや神が存在する理由も説明してしまう完璧さ。


ファンタジーというものは、主人公がパーティを組んで冒険するものだが、


ラストで主人公チームと同じ職業構成のパーティが複数あったことが明かされ、


主人公造形の点でも異色である。


主人公なんだが、実は量産タイプの雑魚だったのだw


主人公チームなんだから勝つという安易なハッピーエンドにはならずに、


裏側に神の陰謀があった素晴しいストーリー展開である。


巨大蜘蛛とか空飛ぶ魚とかファンタジー世界の動物が、


見事な生態系を作っているファンタジーの傑作である。


実はSFであるが、難しい理屈は気にしないで、


魅力的な世界に浸って下さい。


表に見える世界だけでも充分傑作なのに、


裏にしっかりとした理屈も用意されているという完璧な世界である。


読み易さと作品の完成度と感動の量を比較すれば、


もっとも支持される山田正紀作品なのは間違いない。


ピカイチのお勧め作品。