「神狩り2 リッパー」 山田正紀 | 表層人間の半可通読書とゲームリプレイブログ(略称半読書リプレイw)

「神狩り2 リッパー」 山田正紀

本書のベストセリフ 、




「残酷な狂った神が、嘲う」



あれから三十年、


人間に寄生している神は、

神狩りを企む人間に、

悪魔の力(それは天使の力、神の力でもある)が宿るのを危惧していた。

神は四万年の人間史でなんどもやったあれを、

再び開始する。

ホロコースト、大虐殺である。

翼長40メートルもの巨大な天使が、

人間の街を襲う!

が、天使や神を見る能力のない人間には、

それは北朝鮮からのミサイル攻撃に過ぎない。

人間に寄生し、空間と時間を簒奪している神の本質は、

隠れる神である。

人間の脳は、神に編集されている。

脳は神の為の情報編集端末にすぎない。

が、脳には主観的意識も芽生えてしまった。

神の存在に気付いた人間たちは、

神の為の脳の神経線維の結合を再構成し、

編集されてない真実の世界を認識する能力を獲得する。

世界を見ているのは目ではなく、

脳内で編集された画像を見ているに過ぎない。

画像情報を編集すれば、

どんな奇跡も起こったように見える。

神は人類を虐殺する為に、

人間を天使に覚醒させて、

虐殺の実行犯とするが、

天使ではなくて悪魔に目覚めた主人公サイドは、

敢然と天使と神に反逆する。

ラストで超空間に屹立する巨大な神に、

主人公のひとり、理亜(ユリア)が一撃を加えるシーンは、

たまらないカタルシスである。

神狩りの物語として、

認知科学や哲学の問題も登場するので、


知的な話題が好きな人は楽しく読めるであろう。


前作はルードヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン が登場したが、


今回はマルティン・ハイデッガーが、


アドルフ・ヒトラーとともに、


1933年に天使に遭遇し、


神の御心を具現化する忠実なしもべとして、


ユダヤ人虐殺思想を実行しますw。


ハイデッガーが出るので、


当然デリダにも触れてます。


言語学の話題では、


もちろんチョムスキーにも触れています。


小説としてのタイムスケールは四万年で、


人類史に干渉した神の悪をこれでもかと告発してます。


意外なことに、ナザレのイエスは善玉である。


イエスは神を見る能力があったが、


神がもっとも好きなのは、人間の虐殺であり、


現世に天国を具現化しようとしていた、


農民革命家のイエスは、


神にとって邪魔者であり、


神がイエスを殺害したのである。


自分の犯行を誤魔化す為に、


神は天使をパウロの元に派遣し、


奇跡(幻覚)を見せて、


キリスト教をでっち上げるのです。


神を思考する場合、


ユダヤ教的一神論と日本の神道的な多神論に、


二元化される場合が多いが、


天才山田正紀は、


韓国のキリスト教思想も紹介しているのが新鮮であった。


で、韓国人も主人公の一人である。


複数の主人公の過去のエピソードが語られ、


天使が人間を襲撃している21世紀の現代に、


物語は収斂される構造だが、


個々のエピソードだけでも、


傑作な警察小説、犯罪小説、戦争小説、政治小説に


成り得るポテンシャルを秘めています。


インテリなヤクザな朝鮮人、安の物語、


ヤクザな学者、江藤の物語、


前作の主人公の娘、二代目ユリアの物語、


所轄と公安の狭間で苦悩する警視庁刑事、西村の物語、


もちろん、前作の主人公も老人として登場する。


個人的には、前作の主人公の後輩にあたる、


江藤の視点のみで物語をぐいぐいと引っ張って欲しかったが…。


小説の視点は、一人称に近い三人称で、


トリックを仕込むことが可能だが、


語り手の正体は明示されない。


絶対、物語りの語り手の正体は、


悪魔に覚醒した人間だと思ったのだが…。


羽田空港の神秘ネタ、


明確に語ってないが、


小説としてOKですかね?


伏線からは、主人公たちの味方になる


悪魔(別の神)が登場するのが可能だが、


神と対等な悪魔は出てこなかったのが残念。


邪龍雄は悪魔として覚醒して天使と戦っているが、


天使が悪魔にジョブチェンジしただけって感じだよな。


天使の輝きをシナプスとして思考しているのが神であり、


邪龍雄のような悪魔を大量に部下に持つ、


神と対等な悪魔が出てきていいという話です。


羽田空港ネタからは、


日本神話の神々が悪魔として登場することも可能だよな?


絶対唯一神の神を、人間が狩ろうとするので凄いSFなのに、


味方の神(悪魔)がワサワサと登場しては白けるか?


「神狩り3」では、


ユリアを援護する為に作った超コンピュータ「絶対機関」が、


悪魔として自意識を持つことをキボーン!


2のラストのユリアの一撃で神が死んだとは思えないよな。


政治小説としての名セリフを書いてこの記事を終わらせることにする。


「日本国家の本質は、無責任さである」


神というSFでしか表現出来ない絶対に存在しないものをテーマにして、


リアルな批判している傑作SFである。


日本に侵攻した北朝鮮軍を倒す筈の在日米軍が、


日本人を虐殺し、


米軍の指揮下に入っている自衛隊が、


米軍に叛旗を翻し、


米軍と戦う名場面は、


SFでしかやれない夢ですな。


反米、反ヨーロッパキリスト教思想の傑作が、


「神狩り」シリーズである。


日本人なら、日本SFの傑作「神狩り」シリーズは必読の書である。



山田 正紀
神狩り 2 リッパー