スポナビ
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/sports/fight/all/2013/columndtl/201302260008-spnavi
傷も癒えぬままヘビー級のミルコと対戦
2006年のPRIDE無差別級GPに、負傷欠場した“皇帝”ヒョードルの代打として出場した “ミドル級絶対王者”ヴァンダレイ。
7月に行なわれた準々決勝では、アバラを負傷していながらも、ヘビー級の“野獣”藤田和之と大激闘を繰り広げ、1R終了間際に壮絶なKO勝利を挙げた。
そして進んだ2カ月後の準決勝。
さいたまスーパーアリーナで、ヴァンダレイはミルコ・クロコップと再戦する。
両者はミルコの総合格闘技参戦から1年後の2002年4月に横浜アリーナで戦ったが、この時は、まだ総合に不慣れなミルコに有利な3分5Rというルールで、結果はジャッジ裁定なしのドローというものだったが、ヴァンダレイが何度もテイクダウンしてパウンドも入れており、判定があればヴァンダレイの勝ちだという声が多かった。
しかし、あれから4年後の2006年9月、総合転向から5年を経たミルコは、もはや“K-1ファイター”ではなく、総合格闘家として大きく成長していた。
柔術世界王者のファブリシオ・ヴェウドゥムをコーチに迎えて寝技の強化を図り、桜庭和志や藤田、ヒース・ヒーリング、イゴール・ボブチャンチン、ロン・ウォーターマン、元UFCヘビー級王者ジョシュ・バーネット、PRIDE GP2000王者マーク・コールマンらを撃破し、無差別級GPでは美野輪育久と“柔道王”吉田秀彦を連続TKOして準決勝進出していたのだ。
4年前の初対戦の際とは、もはや別人と言っていいだろう。
しかし、ヴァンダレイは、フジテレビとの契約がなくなり存続の危機にあったPRIDEのためなら、どんなことでもする覚悟だった。
「PRIDEとファンのためなら、俺は誰とでも戦う。
PRIDEのためなら死ねる」
そう語り、藤田戦前から負っていた傷も完全には癒えぬまま、ヘビー級のミルコとの戦いに挑んだのだった。
会場に沸き起こるシウバ・コール
ファンの大声援に乗って、満面の笑みを浮かべて入場したヴァンダレイ。
一方のミルコもデュラン・デュランの「Wild Boys」に乗って入場、曲に合わせて手拍子が起こる。
ヴァンダレイはこの日のために増量し、102.3キロ。
ミドル級での試合時より1キロ近く重くしている。
一方ミルコは100.4キロとヴァンダレイより軽く仕上げた。
しかし身長はヴァンダレイが182センチに対し、ミルコが188センチ。両者が向かい合うと、それ以上に身長差が大きく見える。向かい合ってレフェリーの注意を受ける際、ヴァンダレイは体を上下左右に小刻みに動かし、今にも飛びかからんという勢いだ。
これに対し、ミルコは静かなたたずまいで微動だにせず。
試合が始まると、ヴァンダレイは大きな左右のフックを振るいながら突っ込んでいく。
ミルコはバックステップからサークリングしてかわす。
そして右ジャブで距離を詰め、左ストレートを見せてから右をヴァンダレイの顔面にヒット。
ヴァンダレイは一瞬動きを止めるが、すぐに左右のフックを繰り出す。
ブロックしたミルコは、じりじりと前に出る。
そして踏み込み、強烈な左ミドルをヴァンダレイのボディに叩き込む。
ヴァンダレイの左右のフックを左にサイドステップしてかわすと、左ストレートを叩き込む。
前進してくるミルコに、ヴァンダレイはジャブと右フックを放つも、これもかわされ空を切る。
それでも左右のフックを連打するが、ミルコは見切って右ジャブを入れ、左ストレートも繰り出す。
右ジャブの連打から大きな左ストレートでミルコはヴァンダレイをロープまで吹っ飛ばし、ヴァンダレイは反動で倒れ込むような形でタックルを仕掛けるが、防御されパウンドを落とされる。
ミルコはここが勝負どころとばかりに右の鉄槌を何十発も猛連打し、左ストレートも織り交ぜ仕留めにかかる。
ヴァンダレイは何とかミルコの頭と手首を掴んで密着して防御。
そして下から十字を仕掛けるが、かわされると、すぐに蹴り上げを狙う!
ミルコが下がり、すぐに柔術立ちで立ち上がるヴァンダレイ。
ミルコは股間を押さえ、蹴りが金的に入ったとレフェリーにアピール。
そうは見えないが、いったんブレイクとなり、間もなく中央で、スタンドから再開された。
ヴァンダレイの右目がパウンドを入れられたためか、腫れている。
左ミドルを被弾した右のアバラも赤黒く変色している。
パンチを出しながら突っ込むヴァンダレイに、ミルコは左にサイドステップし、カウンターの右ストレートを叩きこんで、ヴァンダレイがダウン。
尻もちをついたヴァンダレイにのしかかったミルコは、左パンチの2連打から左右の鉄槌、そしてパウンドの猛連打。まさに鬼神のごとき攻めだ。
ヴァンダレイは両腕でガードしたり、ミルコの手首をつかんで防御しようとするが、ガードの隙間から無数に被弾。ここでレフェリーから「ストップ、ドント・ムーブ」がかかり、ヴァンダレイはドクターのチェックを受ける。
右目の上下が大きく腫れ上がり、鼻と左目尻から出血している。
ドクターは「目の動きがスムーズでない」と続行に難色を示すが、ヴァンダレイとセコンドは「責任は俺たちが取る! 絶対に止めないでくれ!」と懇願。
かなり長い話し合いの末、ついに再開の許可が下りた。
会場に大きな拍手と、シウバ・コールの大合唱が沸き起こる。
すさまじいハイの威力に失神KO
リング中央で、ヴァンダレイが仰向け、ミルコが上でヴァンダレイの両脚の内側に入ったフルガードの体勢から再開。
下から片手でミルコの腕を押さえ、思い切りパンチを叩き込んでいくヴァンダレイ。
左右交互に3、4発ずつ叩き込んでいき、脚を上げて三角締めのスキを伺う。
ミルコのパンチは1発も打たせず、脚でコントロールしながらパンチ、そして「三角に行くぞ」というプレッシャーをかける。
ミルコの顔がこの試合で初めて、苦しそうに歪む。
ミルコはヴァンダレイの腫れた右目を狙うが、ヴァンダレイは肩でガード!
その後も巧みなガードを見せる、ミルコが体を起こしてパンチを落としても、頭を振ってかわすヴァンダレイ。
膠着したため、レフェリーがブレイクをかけ立たせた。
ヴァンダレイは顔面から出血し、レフェリーが顔を拭く。
ここでレフェリーから、イエローカードがヴァンダレイに。
膠着を誘発した、というのだ。
スタンドで再開後、左右のフックを振るって突っ込んでいくヴァンダレイに、ミルコはバックステップ。さらに前に出るヴァンダレイに、ミルコは左ミドルを叩き込み、鈍い音がリングに響く。だがヴァンダレイは痛みをこらえ、左右のパンチを振るって前進。ミルコは闘牛士のように華麗なステップでかわす。しかしヴァンダレイは愚直なまでにパンチを振るいながら前進を続ける。ワンツー、さらに左。ヴァンダレイの左目から流れる血が涙のように見える。ヴァンダレイはパンチを連打し、後退したミルコがロープ際に詰まった際、4発目に放った左フックが顔面をとらえた。追撃を狙って左右のフックを繰り出すヴァンダレイだが、ミルコはうまくサイドステップして回り込み、逆にヴァンダレイをロープに押し込んでパンチを振るう。それでもヴァンダレイの勢いは止まらず、さすがのミルコもいったん後退する。
だが、そこからまた強烈な左ミドルキックがヴァンダレイの脇腹にめり込む。強烈な左ストレートを両腕でがっちりブロックしたヴァンダレイ。ミルコは一呼吸置いて右ジャブ。ここでまた一拍置いて、何気ないそぶりで、“伝家の宝刀”左ハイキックを一閃! これがヴァンダレイの頭頂部をとらえ、“ミドル級絶対王者”は糸の切れたマリオネットのように白いマットに崩れ落ちる。レフェリーがすぐさま割って入り、試合終了のゴングが打ち鳴らされた。
大の字に倒れ失神したヴァンダレイは、口からも鼻からも目からも出血し、顔面が血まみれだった。あまりにも凄まじいハイの威力に、それまで歓声に包まれていた会場が、一瞬水を打ったような静寂に支配された。だが、ヴァンダレイが意識を取り戻すと、安堵のため息が漏れ、続いて大きな拍手が沸き起こった。
ミルコは勝ち名乗りを受けることすらなく、次の決勝戦に備えるため、さっさと控室に引き上げていった。
その後で、顔を大きく腫らし、右目の塞がったヴァンダレイが、シュートボクセのフジマール会長の肩を借りて花道を引き揚げていくと、再び惜しみない拍手と「シウバ~!!」という絶叫が起こった。PRIDEとファンのために、命がけで戦った“絶対王者”の姿に、誰もが心を震わせていた。
UFCで激闘を繰り広げ、6年ぶりの聖地復帰
この試合が、ヴァンダレイの日本での最後の試合となった。
5カ月後、彼はPRIDEラスベガス大会でダン・ヘンダーソンと戦い、3RにまさかのKO負けを喫した。
前日から39度の熱がありながら強行出場した試合だった。
07年12月からは、かつて戦っていたUFCに再参戦し、
チャック・リデルや宿敵ランペイジ、元ミドル級王者リッチ・フランクリンら強豪と激闘を繰り広げてきた。
そしていよいよ今回、3月3日のUFC JAPANで、6年半ぶりに第二の故郷・日本に、
そして、数々の死闘を繰り広げた“聖地”さいたまスーパーアリーナに戻ってくるのだ。
UFCでは、アメリカに移住したため古巣のシュートボクセを離れ参謀に恵まれなかったことや、
歴戦のケガの影響もあって苦戦が続いたが、
ここ2試合では、“リアル・ブルース・リー”と呼ばれるカン・リーをTKOし、
フランクリンにも判定で敗れたものの2Rにダウンを奪い、
あと一歩でTKOというところまで追いつめた。
最近シュートボクセ時代の名コーチ、ハファエル・コルデイロの下で特訓を再開していることも大きいだろう。
ヴァンダレイは、ひさしぶりの“ホーム”さいたまで、今回も日本のファンの心を大きく揺さぶるような激闘を見せてくれるはずだ。