ポスドク数の推移シミュレーション | 海外ポスドクの就職活動日記

海外ポスドクの就職活動日記

高学歴・高年齢・海外… 
2009年、
3Kのハンディと不況にアグレッシブにチャレンジする
海外PDの新卒(?)就活記録

「ぽすどく」って何なのか?それは前に書きました。

ここでは、
客観性のためにちょっとデータを引張ってきて、

日本の大学の雇用環境に、
これから何が起きようとしているのか
簡単にシミュレートしてみたいと思います。


【手っ取り早く読みたい方は、色つき文章だけ見れば大体分かります。】

情報源として、最近毎日新聞で見かけた記事を利用します。
これは日本の素粒子理論分野の調査ですが、
大規模なポスドクの実態調査があまり行われていないので
貴重な情報を提供してくれています。
国内ポスドクの数は96年施行のポスドク一万人計画の後、
08年に1万6千人を超えた
と言われる一方
(海外PDなど含めた全体像は把握できていない模様ですが)
大学のポストはそれほど変化していませんから、
全体的に状況が悪化していることは確かです。

バイオ分野でのポスドクの資料もありました(リンク)。
28ページあたりに、同様なデータがあります。
バイオは予算バブルの後遺症が特に酷かった分野のようで、
ポスドクの窮状を訴えるブログなども数多いです。


①まず、現状の分析から始めます。

資料を見て分かることは98~08年の10年間で
ほぼ直線的にポスドクが増加していることです。
大学のポストの数自体はあまり変化してないので、
・例年、新ポスドクの数もほぼ一定である
と言ってよいでしょう。

もうひとつ大きな仮定ですが、
・各年度ごとに、ポスドクの博士取得後年数に対する人数分布は直線的に減少するとします。
つまり、
(n年度の卒業後t年目ポスドクの数)=(新ポスドク数) - a(n)× (t年目)
左辺のポスドク数が0になるt年目で、めでたく全員ポスト獲得とします。
a(n)は係数でnの関数です。
先の仮定から、新ポスドク数(t=0年目)は定数です。
ただし、大学外への就職を考えるとややこしくなるので、
ポスドクは大学に残る人のみカウントするとします。

これだけの準備で十分です。
おおざっぱに見えますが、これがある程度実際の状況を再現していることを後ほど確かめます。

高校の積分を思い出して使うと、
n年度の、博士号取得後ポスドクを続けている平均期間は
∫t(n年度t年目ポスドクの数)dt / ∫(n年度t年目ポスドクの数)dt
= (新ポスドク数) /3a(n)
です。

資料より、この博士号取得後ポスドクを続けている平均期間
98年度 3.4年
08年度 6.4年

です。使用するデータはこれだけです。

見易いように、以下では(新ポスドク数) =100人とおいてみましょう。すると、
a(98) = 9.8,
a(08) = 5.2,
が分かります。およそ、
a(n)は、各学年ごとに、次の年までに何人就職できるかを表しています。

また、最も高い年齢が
98年度 100/9.8 = 10.2
08年度 100/5.2 = 19.2
と予想されます。
博士卒業20年後は50歳近くになります。
また、08年度は、10年後(19.2/2=9.6)も
半数近くがポスドクのまま
ということを示唆します。
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(グラフ:博士取得後年数ごとのポスドク人数分布)

資料の値と感覚的に異なる気がするかもしれませんが、
博士取得後の年数の平均は、半減期ではないし、
就職までの年数の期待値でもなく、
むしろ、それより低く出るものだということに注意
したほうが
統計に騙されないで済むかもしれません。
(また、就職までの平均年数というのは、
ポスドクのままとどまる人がいるので定義しにくい概念です。)
あくまで、分布を直線で仮定した結果に過ぎませんが、
ポスドク期間平均6.4年というのが、既に雇用環境として限界的だと言えそうです。


この設定がデータと合っているかチェックしましょう。
(n年度のポスドク総数)=(新ポスドク数)の2乗 / 2a(n)

98年度 510人
08年度 961人
でデータとの比較には比率に意味がありますから、
ポスドクがほぼ倍増したという実態に合っています
不謹慎にも、所得が倍増したらよかったのに、、と思ってしまいました。

そして961 - 510 = 451 人増えて
この間に新たにポスドクになった人は 100人×10年ですから
1000-451 = 549 人が大学の先生になれたわけです。
大学への就職者は1年あたり55人くらいですね。
新ポスドクを100名としたので、多すぎるとしかいいようがありません。



②次に、将来の様子を考えてみます。
ここまでは資料から現状を見ただけにすぎません。

18年度は 510 + 2×(961-510) = 1412人で a(18) = 3.54、
平均   9.4年
最高齢 28年 (14年目でも半分はポスドク)
さすがに、このまま増え続けるなんてことはないでしょう。
(ただし、僕は数物系なので知っているのですが、
資料の08年度のポスドク人数の減少には、
政府の政策予算COEの期限が切れて
次のGCOEまで時間差があったことが影響しています。)


では、新ポスドクが急に減ったら、どれくらい改善するのでしょうか。

あたりまえですが、
ポスドクを増やさないためには、
新ポスドクを55人以下にしなくてはなりません。
そして、もし上の世代にポスドクがいなければ、
(理想的には)全員卒業と同時にポストを得られます。

この自明なコメントがヒントですが、
上に滞留しているポスドクの数だけ、
新ポスドクのポスト取得までの年数は延びていきます。

今の状況の悪化をどうにか食い止めるために、
ある年度に急に新ポスドクを55人まで減らした場合を考えます。
次の仮定が妥当かは分かりませんが、
各年度、55個のポストが各学年に均等配分されるとします。
人数を減らして残った新ポスドクは優秀なはずですし。
(大学の助教等の募集にも年齢に上限があることが多い。
ある程度年齢と実績の高い人が取られやすい。
…など複雑な条件は無視します。)
設定は以上です。
ポスドクの高齢化も同時に進行するので、
年々ポスト配分は減少することに注意してください。

細かい計算は省きますが、
98年度の新ポスドクが55人なら、
4年後に半数が、12年後に全員が就職できたはずです。
98年時点でもポスドクはやや過剰な気がします。
(ポスドク1万人計画は96年開始です。)
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(グラフ:98年度からの新PDが55人になった場合の1年後、10年後のPD分布)

一方、
08年度からの新ポスドクが55人になれば、
9年後にようやく半数が、23年後に全員が就職できる計算になります。
海外ポスドクの就職活動日記
(グラフ:08年度からの新PDが55人になった場合の1年後、10年後のPD分布)

設定から全体の人数は各年度で変化しないのですが、
前の例と比べて、就職が困難になっているとは歴然としています。

未だに供給過剰な状態が続いているようですから、
今後どうなるかは考えるだけで恐ろしいですが、
既に、少なからずの人々が定年まで大学のポストを取れず
博士という名のフリーターになることは避けられない状況にあります。

以前のように、
ポスドクが少ない環境が正常なのだという認識に立ち戻って
適正規模を把握しながら大学運営をしなくてはなりません。



締めのやりようもありませんが、
以上が簡単なシミュレーションでした。