ラ・フォル・ジュルネびわ湖2017
アレクセイ・ヴォロディン(ピアノ)
【日時】
2017年4月30日(日) 時間 14:50~15:35
【会場】
びわ湖ホール 中ホール (滋賀)
【演奏】
ピアノ:アレクセイ・ヴォロディン
【プログラム】
チャイコフスキー(プレトニョフ編):組曲「くるみ割り人形」
1. 行進曲
2. こんぺい糖の精の踊り
3. タランテラ
4. 間奏曲
5. トレパック
6. 中国の踊り
7. パ・ドゥ・ドゥ
ショパン:ワルツ 変ニ長調 op.64-1 「子犬のワルツ」
ショパン:ワルツ 嬰ハ短調 op.64-2
ショパン:ワルツ 変イ長調 op.42 「大円舞曲」
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ op.22
ラ・フォル・ジュルネびわ湖2017の、私の聴いた2つめのコンサート。
チャイコフスキーのバレー音楽「くるみ割り人形」は、晩年のチャイコフスキーならではの洗練が曲の隅々にまで尽くされ、モーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」と同じように、美しくない部分が少しもない。
そのため、私は「くるみ割り人形」といえば全曲盤が大好きで、組曲版だと少し物足りなく感じてしまうほどである。
ただ、プレトニョフが編曲したピアノ独奏用の「くるみ割り人形」には、組曲版に入っていない「タランテラ」「間奏曲」「パ・ドゥ・ドゥ」といった曲が含まれているのが、嬉しいところ。
特に「間奏曲」と「パ・ドゥ・ドゥ」は本当に感動的な音楽で、前者はくるみ割り人形がネズミにやられてしまったと思い泣くクララの目の前に、くるみ割り人形が王子様に姿を変えて現れ、嬉しいサプライズとなるシーン、後者はこんぺい糖の精と王子の踊りのシーンで、いずれもぐっときてしまう箇所である。
そんなに複雑な音楽というわけではなく、特に後者など単なる音階下行音型(階名表記でドーシラソファーミレドー)の繰り返しなのに、どうしてこんなに感動的なのか。
晩年のチャイコフスキーが、ある意味でモーツァルトの域に近づいたと感じられる瞬間である。
前置きが、長くなった。
今回の演奏は、アレクセイ・ヴォロディン。
1977年レニングラード生まれのピアニストである。
彼のタッチはきわめて強靭で、リヒテルのような深々とした透明感のある音というよりは、むしろホロヴィッツのような豪快な打撃音であり、そして透明感よりも色彩感を重視した音であった。
ピアノがスタインウェイではなくベーゼンドルファーだったのも、こういった印象に一部寄与しているかもしれない。
ホロヴィッツの愛用していたピアノはスタインウェイではあるのだが、クリスタルのような音色をもつ通常のスタインウェイではなく、むしろ前述のように打撃音や色彩に溢れた音の聴かれるピアノだったように思う。
ともかく、ヴォロディン。
彼の演奏はとても豪快で力感に溢れ、かつ指回りなどのテクニック面でもかなりのものがあった。
そして、上で紹介した「間奏曲」や「パ・ドゥ・ドゥ」といった美しい旋律の出てくる曲では、彼は絶妙に左右の手をずらして濃厚な歌わせ方をする。
そのメロディは、ときにフォルテ(強音)で、またときにピアノ(弱音)で奏され、起伏が大きい。
そして、クライマックスへ向かって大いに盛り上げていくのである。
こういった感覚というか、センスは、まさに「ロシア」のものである。
それこそ、ホロヴィッツの世界である(ホロヴィッツほどの「魔力」はなかったけれども)。
19世紀からの伝統を、そのまま受け継いできたかのような世界。
たった一台のピアノで、絢爛豪華なバレー音楽、華麗なオーケストラの世界を、見事に作り上げてしまう。
その手腕には、感服せざるを得ない。
それに対し、ショパンのほうはやや大味な印象だった。
ショパン演奏において、彼特有の繊細さは、私はぜひ必要だと思うけれども、ヴォロディンにとってはそうではないようだった。
やはり彼は、大柄なロシアン・ピアニズムを地で行くタイプの人なのだろう。
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