三浦謙司 ピアノリサイタル | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

三浦謙司 ピアノリサイタル


2016年5月17日(火) 開場18時30分 開演19時00分

会場:堺市立東文化会館メインホール(大阪府)


PROGRAM

ショパン:
バラード 第1番 ト短調 作品23
3つのノクターン 作品9
バラード 第4番 ヘ短調 作品52


グリーグ:
抒情小曲集 作品71より 《森の静けさ》

ドビュッシー:


スクリャービン:
3つの小品 作品2より 練習曲
ラフマニノフ:
絵画的練習曲集 作品39より 第5番 変ホ短調

前奏曲集 作品32より 第10番 ロ短調
リラの花
ヴォカリース 
リスト:
超絶技巧練習曲集より 第10番


アンコール:Over the Rainbow (arrange:三浦謙司)






2015年の浜松国際ピアノコンクール(浜コン)で奨励賞を獲得した三浦謙司。

浜コンのライヴCDは1次・3次予選を持っていて、ショパンのバラード4番やモーツァルトのピアノ四重奏曲第2番、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」からの3楽章など、いずれも素晴らしい。

彼の生演奏を聴くのは今回が初めてである。


先日の関本昌平のコンサートのときも感じたのだが、やはりカワイのピアノはシックな響きであり、ショパンの華やかさにはやや欠けるきらいがある。

それでも、さすがにうまかった。

割とさらっとした雰囲気で、かつ情感豊かに仕上げていく。

ショパンのバラード1番、第2主題が分厚い和音で雄大に展開されるところ、和音がぐしゃっとした響きにならず、上声部がよく「立った」響きで素晴らしかった。

浜コンでも素晴らしかったバラード4番も、冒頭から上声部・内声部・バスいずれもよく歌わせ、すっきりと美しくまとめられておりさすがである(フガートの部分もそうであり、彼はこういった声部の描き分けがうまいと思う)。

また、ともすると平板な弾き方になりやすい主要主題も、歌に溢れていた。第2主題も同様、さらには、右手の和音および左手の走句で輝かしく奏される第2主題の再現も!

ただ、不満もないわけではない。

バラード1番、4番ともに、狂気に通ずるような激しさを湛えた曲なのに、そういった面はあまり出てこない。

また、4番のコーダは連続三度和音の難所があるのだが、浜コンでは概ねばっちり決まっているのに対し、この日は弾き飛ばしてしまっていたのも残念。

ノクターンも素晴らしいのだが、たとえば山本貴志の、まるでショパンが乗り移ったかのようなあの濃厚・陶酔的な表現と比べてしまうと、ちょっと爽やかすぎるかな、とも思ってしまった。

まぁでもそれが三浦謙司らしさか。


後半は、グリーグ、ドビュッシー、ラフマニノフ、そしてリスト。

ショパンに比べて、これらの作曲家ではカワイのピアノが違和感なく映えていた。

特に、ドビュッシーの夢! あまりこってりしたロマン派的演奏ではドビュッシーには合わないと思うが、三浦謙司のべとつかない、かつ丹精込めた精緻な歌心がこの曲にはぴったりで、本当に美しかった。

そして、アンコールの「Over the Rainbow」。熊本の震災で被害を受けた方々に、いつかまたもとの平穏な生活が戻りますように、という願いを込めたアレンジなのだそう。

ジャズ風のアレンジで、シンプルだがとても心に響く演奏だった。

指のよく回るピアニストは最近増えてきているが、彼ほどの音楽性を持ったピアニストはそう多くはない、と思う。