今回のこだわり時代劇は
困ったときの必殺シリーズ(笑)というわけで
必殺シリーズ第6弾
「必殺仕置屋稼業」
中村主水三度目のレギュラー作品でありこれ以降主水は
必殺シリーズの顔として完全に君臨することとなった記念すべき作品である。
今までは「○○人」というタイトルだったのに今回は稼業。
前作のタイトルが「必殺必中仕事屋稼業」だったこともあったが
この作品では今まで非合法の自警団的な存在だった主水が
改めてプロフェッショナルの殺し屋としての意識を自覚しよりクールに裏の仕事を遂行する
という意味合いも含めている。
今回主水と組むのは
永遠の二枚目沖雅也演じる竹細工師の市松。
竹串で首筋を一突きする殺し業を使うが時と場合によって
竹とんぼを使ったり折り鶴を仕込んで飛ばしたりとフレキシブルな仕事は
ファンから「殺人芸術」と呼ばれるほど。
誰も信じず
仲間とも距離を置き例え相手が初恋の幼馴染でも昔の仲間でも
殺しとなればクールに遂行するその殺人マシーン的な冷酷さ
その一方で子供やか弱い女性にはとことんやさしいギャップが当時の女性ファンの
心をわし掴みにした。
京本政樹も当たり役「組紐屋の竜」のキャラクターを作る際に市松を参考にしたのは
あまりにも有名な話である。
そしてもう一人
薪を素手で引き裂く程の怪力無双の破戒僧「印玄(いんげん)」
「生きるも地獄死ぬも地獄、もしも仏にあったなら、俺は仏を殺すかも知れん」
と必殺屈指の名言を吐き
主水の仲間に加わった彼。
その言葉は己のあまりにも惨い過去のに対する呪詛の言葉にすら感じる
幼き日に母に捨てられ父は彼と崖から身を投げ無理心中するも彼だけ生き残り
母恋しの思いで放浪するもやっと再開した母は自分を捨てたことも悔いず
自堕落に男を求める遊女に成り下がっていた。おまけに成長した印玄にまで
体を求める畜生のような女で怒りに任せてとうとう屋根から突き落として殺してしまった
過去を持つ。殺し業も相手の動きを封じて屋根まで運んで力任せに突き飛ばし
転落死させるという凄い技。突き飛ばされた相手は「やめて止めて、止めて助けて」
と泣き喚き死の恐怖をたっぷり味わいながら奈落の底に落ちてゆく。
そして主水に恩義を感じ忠義を尽くす元スリの風呂屋の釜炊き捨三。
情報収集力は一級で仕置屋のサポートを見事にこなす。
さらに仕事の窓口となる髪結いのおこう。
金にがめつく大金目がくらむと後先考えずに大物の殺しを引き受けたりしてしまうのが
玉に疵。

話は主水が北町から南町奉行所に栄転することになったのが始まり。
出世の手がかりとぬか喜びするせんりつコンビは勝手に離れを増築。
おまけに亀吉という調子のいい岡っ引きまで監視役としてつき
主水は肩身の狭くなる一方。しかも南町は北町と違い裁きが厳しく
その日も主人を傷つけようとした妾がろくな詮議もされぬまま首をはねられた。
ある夜主水は市松の華麗な殺しの現場を目撃。
そして数日後におこうから突然殺しを依頼される。
「いっぺんお仕置きした人間は二度とその足かせから抜け出せないのとちゃいますやろか。」
しかし今の主水は凶状持ちとして江戸を離れた者、仕事をしくじり死んだ者、
数々の殺し屋の末路を見届け裏稼業に嫌気が指し足を洗った身。
おこうの執拗な誘いも彼の耳には届かなかった。
しかし依頼人の娘が悪人どもの手にかかり慰み者にされた挙句に無理心中。
彼女は主水が初出勤の日に見た処刑された妾の妹だった。
悪人たちの欲望の犠牲になった家族の亡骸が雨の中棺おけで運ばれる姿を見て
再び主水は裏稼業復帰の覚悟を決める。
1話「一筆啓上地獄が見えた」は
市松と主水の対決シーンなど見所満載。
まさに主水完全復活にふさわしいエピソードだった。

続く2話「~罠が見えた」では必殺の常連ゲスト津川雅彦が
市松の育ての親、仕置人の元締め鳶辰として登場。
殺しを斡旋しながら一方で殺す相手に密告し礼金をもらい
その後ゆすり続けるという狡猾な悪人を怪演。
この回では屋根から突き落とした鳶辰を主水が落下直前に真っ二つに叩っ斬るという
豪快な技を披露。
さらにファンの間では折り鶴殺しと呼ばれる市松の華麗な殺しが見られる。
竹串を折り鶴につけて首筋に投げつけ刺さった折鶴は血を吸い上げゆっくりと
白から赤へ色を変えるというまさに芸術ともいえる殺しは必殺でも語り草になってる。

お勧めエピソードはもう全部と言いたい(笑)
中尾彬が女を食い物にする卑劣なヒモ男を演じる3話「~紐が見えた」
竹下景子が卑劣な地上げ屋の犠牲になる4話「~仕掛けが見えた」
浮世絵のモデルを巡って女の醜い争いが展開する5話「~幽鬼が見えた」
罠にはまって死んだ同僚の息子を巡って主水と市松が対立する10話「~姦計が見えた」
ここでは子供を引き取ろうとする市松が竹串を不意に蜘蛛に突き刺す子供の姿を見て
愕然とする姿が印象的だ。
印玄が過去の罪で殺しの的にされかかる13話「~過去が見えた」
後の必殺の顔となる山田五十鈴が初ゲストで登場する15話「~欺瞞が見えた」
と間を置かず傑作が生まれる中
19話で必殺屈指の名エピソードが登場する
「一筆啓上業苦が見えた」
殺しの的は修験者全覚。弟子志願の体の弱い青年を厳しく痛めつけて殺したと
遺族からの依頼だ。
しかし主水には全覚に見覚えがあった。
彼はかつて主水の剣の師を斬って逐電した木原だった
その腕は主水も適わず市松でさえ「俺には鬼は殺せねえ」と依頼をキャンセルしてしまったほどである。
そんな主水と全覚が古寺の仏像の前で語り会う
人を殺したものの末路の話は名シーンである
「自ら地獄に落ちたものは仏すら救ってはくれない」
剣の魔性に勝てず苦悩する全覚の独白は
見ているものの心に突き刺さる
必殺シリーズの中でも
ベスト5に入る名エピソードだ。

迎える最終回「一筆啓上崩壊が見えた」もまた壮絶なラスト。
市松が殺した男は殺し屋の元締・睦美屋の息子だった。
市松をはじめとする仕置屋を執拗にあぶり出し
依頼人を殺しついにおこうと市松を捕らえた睦美屋は
仕置屋のメンバーを洗い出そうとおこうを拷問にかける。
救出に向かった印玄はおこうと市松をかばって壮絶な最後を遂げ
おこうも介抱むなしく息絶えた。
市松は奉行所に捕まり八方塞の仕置屋だが
主水が隙をついて睦美屋を葬った。
雪のちらつく寒い日、市松を護送途中で業と逃がす主水。
主水は牢屋同心に格下げになる。
どこかの峠で主水にもらった握り飯にかぶりつくとその中には小判が。
粋な計らいに思わず笑うその姿に誰も信じなかった殺人マシーンの面影はない
市松が初めて仲間を得た瞬間だった。
寒い詰め所で格下げの辞令を破り捨て火鉢で燃やしふてぶてしく笑う主水。
彼はこんなことではめげないのだ。
そして物語は必殺史上最も暗い物語「必殺仕業人」に続いてゆくのだった。

一筆啓上火の用心
こんち日柄もよいようで
あなたのお命もらいます
人の命を戴くからは
いずれ私も地獄道
右手(ねて)に刃を握っていても
俄か仕込みの南無阿弥陀仏
先ずはこれまで
あらあらかしこ