仮面ラ○ダー風なタイトルですが、別に気にしないでください。


問題となっているのは、いわゆる二段の推定というやつです。


法科大学院生なら、これを正確に理解していないといけませんが、なかなかその理解が難しいという人もいるのではないでしょうか。


そもそも論として、文書の成立については、その真正を主張するものが、これを証明しなければなりません(民事訴訟法第228条第1項)。

→これについては必ず書かなければなりません。


ところが、本人の印鑑の印影があった場合、以下のような推定がはたらきます。

→この「本人の印鑑の印影」があることについては、文書成立の真正を主張するものが証明しなければならない。つまり、その印影が、本人の持っている印鑑であることを、証明しなければならないというものです。これについては、印鑑証明書等で証明できると思いますので、それの提出がなされれば、通常、相手方は否認しません(争いません)。



本人の印鑑の印影がある。

 

 ↓ 1段目の推定(最判昭39.5.12) 


当該印影は本人の意思に基づいて成立した。


 ↓ 2段目の推定(民事訴訟法第228条4項)


文書の成立の真正(形式的証拠力)が認められる。


つまり、本人の印鑑の印影があれば、文書の成立の真正が認められるということになります。


もっとも、推定なので、反証してこれを覆すこともできます。


ただ、これが思った異常に大変らしい。


よく使うのが、筆跡鑑定。


本人の直筆サインと押印をもって、契約書とするのが通例ですけれども、サインの筆跡と印鑑の人物が異なれば、本人の意思で押したものではない、ということで筆跡鑑定は有力な証拠になりえます。


簡易鑑定だと3~5万円くらい、正式鑑定だと何十万とするケースもあるようです。


最近では、エセ鑑定人もたくさんいるようでして、そのような鑑定人に遭遇した場合には、かえって裁判官の心証を悪くするということも考えられます。


代理人弁護士に、信頼のおける鑑定士の知り合いがいればいいのですが、すべてがそうとはいいえません。


まして、一般人の場合はどうでしょうか。


それに、裁判官が証拠採用するかどうかという問題もあります。


現実、本人印鑑の印影があれば、裁判官はその場で「あんた、このままでは負けまっせ」と、釈明?するケースもあるらしいです。

→判決を前にして、一方当事者に勝敗を予告するということは、少ないですがなくはない。


はっきりいいます。


ハンコなんてどうとでも偽造可能な危険な代物に高い証拠価値を置いている国は、小生の知る限りでは日本だけです


まして、民事訴訟法第228条第4項なんて規定、おそらく他の国ではないと思います


わが国の恥部ともいうべき、ハンコ。


儀礼用や形式的な意味として通用させるのであればかまわないとしても、それを飛び越えて法的な証拠価値を認めるのは、無茶苦茶としかいいようがないと感じるのは、小生だけでしょうか。



<<最高裁昭和39年5月12日判決>>


 民訴三二六条(※1)に「本人又ハ其ノ代理人ノ署名又ハ捺印アルトキ」というのは、該署名または捺印が、本人またはその代理人の意思に基づいて、真正に成立したときの謂であるが、文書中の印影が本人または代理人の印章によつて顕出された事実が確定された場合には、反証(※2)がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当であり、右推定がなされる結果、当該文書は、民訴三二六条にいう「本人又ハ其ノ代理人ノ(中略)捺印アルトキ」の要件を充たし、その全体が真正に成立したものと推定されることとなるのである(※3)。原判決が、甲第一号証の一(保証委託契約書)、甲第三号証の一(委任状)、同二(調書)、
甲第四号証の一(手形割引約定書)、同二(約束手形)について、右各証中上告人名下の印影が同人の印をもつて顕出されたことは当事者間に争いがないので、右各証は民訴三二六条により真正なものと推定されると判示したのは、右各証中上告人名下の印影が同人の印章によつて顕出された以上、該印影は上告人の意思に基づいて、真正に成立したものと推定することができ、したがつて、民訴三二六条により文書全体が真正に成立したものと推定されるとの趣旨に出でたものと解せられるのであり、右判断は、前説示に徴し、正当として是認できる。右判断には、所論意思表示に関する法原則または法令の違背もしくは民訴三二六条の解釈適用の誤りもな
ければ、理由そごの違法も認められない。
 しかして、原審の証拠関係に照らすと、証人D、控訴本人の各供述は上叙推定を妨げる反証たりえず、訴外Dが上告人の印章を盗用した事実も認められないとした原審の事実上の判断もまた首肯できなくはない。
 所論は、畢寛、原審の認定に添わない事実に立脚し、独自の見解に基づいて、前示甲号各証の成立の真否に関する原審の判断を攻撃するか、または、原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難するものであつて、採用できない。


※1 現民事訴訟法第228条第4項


※2 「反証」という言葉を使用しているが、前提事実である「印影が本人の印鑑によって顕出された」は補助事実であるため、証明責任のはたらく本証・反証ではない。 


※3 1段目の推定は事実上の推定ですが、2段目の推定は法律上の推定です。本判決は1段目の推定についてのハナシ。




<<参照条文>>


民事訴訟法


(文書の成立)
第228条  文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2  文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3  公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4  私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5  第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。