今から一年くらい前
君に…俺の素性や過去を全て曝け出した
あの切なさに満ちた長い夜の事を…
生涯…俺は決して忘れる事は出来ない――…。
両親の栄光に押し潰されそうになった少年時代…。
俺のせいで…事故死した…親友リックの事――…。
そして…愛しい君と初めて京都で出会った…妖精コーンの話――…。
俺の過去の罪を…温かく包み込むように
全て…
全てを…優しく…涙を流しながら受け止めてくれた君――…。
あの日から…俺達の間に僅かにあった壁は完全に無くなり
キョーコは敬語を止めて俺の事を “久遠” と呼んでくれるようになった――…。
…ねぇ…キョーコ……。
俺があの時 どれだけ君に心救われたか――…。
そして…普通に会話をしながら “久遠” と呼んでくれる事が
どれだけ嬉しかったか…君は気付いてる……?
君の唇から紡がれる “久遠” という響きは
俺の存在をありのまま認めてくれる
特別な魔法のような言葉に聴こえて来るんだ――…。
~憂いの瞳 7~大人系セクシー蓮様シリーズ①
「自分の欲望を…完全に一方的にキョーコに押し付けようとした……!!」
キョーコの身体を強く…強く包み込むように抱き締め、眉間に皺を寄せ…憂いの瞳をきつく閉じた蓮は、暫くそのまま動けずにいた…。
…湯船で十分に温まっている筈の逞しい彼の身体は少し震えている――…。
どんな時でも…俺はキョーコの幸せを一番に考えたいのに――…!!
狡猾で…卑怯な俺の本音を知って…
もし…そんな俺に…キョーコが愛想を尽かしてしまったら……?
…不安で押し潰されてしまいそうになる――…。
「………………………。」
それからどれ位の時間が流れたのか――…。長い沈黙の後…キョーコは静かに口を開いた。
「……………………。自分の欲望を…一方的に…私に押し付けようと…した……?」
キョーコのその言葉を聞いた蓮は…彼女の首筋に顔を埋めたまま僅かに頷いた。
微かに震えている彼の腕に…更に力が込められていく――…。
「……どんな時でも…俺は…キョーコの幸せを一番に考えていきたいのに……。」
「………………………。」
「…私の幸せを…一番に……?!」
「………………………。」
キョーコは…蓮に聞き返した後も暫く考え込むように黙っていたが、その後ゆっくりと自分の首筋に埋もれていた彼の顔を起き上がらせるようにしながら頬に両手を置き…蓮と瞳を合わせた。
「……そう…。それなのに…俺はキョーコを今すぐ妊娠させてしまおう…と……身勝手で狡い考えを…」
蓮は濡れた前髪を伏せ目がちに掻き上げながら…心の中で祈るようにキョーコに訴える――…。
…ねぇ…キョーコ……。
…壊れそうな程に君の事…愛しているんだ……。
もう…この先の生涯…何があったとしても…
俺は…君を手放す事だけは絶対に出来ない――…。
だから…こんな身勝手な俺だけど…お願いだから離れていかないで――…?
感情が高ぶり…キョーコを抱き締めたまま僅かに震えている彼の腕は…そのまま止まらない。
「………………………。」
その様な状態の蓮の頬をそっと静かに撫でながら…キョーコは静かに口を開いた。
「…身勝手…?それは違うわ…。」
「………………………。え……?」
キョーコはそう言うと…柔らかく微笑み、ゆっくりと蓮の唇に甘いキスを落とした。
彼女の予想外の甘い…甘い口付けと、華のような柔らかい笑顔に…蓮の心臓の鼓動が少しずつ速まっていく――…。
「…身勝手で…本当に狡い考えをしているのは…私の方なの……。」
そう言った後、キョーコは少し恥ずかしそうに 蓮の胸に顔を埋めて顔を隠し…ぼそぼそ…と語り始めた――…。
* * *
本当は…何となく気付いていたの
何だか…身体の中の感覚がいつもと違う――…。
久遠の反応も…何処か変な気がするし
あれ…もしかしたら…?って……。
「………キョーコ…気付いてたの……? 俺が避妊に失敗したって……!」
蓮の言葉に…キョーコは彼の胸に顔を埋めたままコクン…と頷いた。隠しているその顔は可愛らしく…真っ赤に染まっている。
「……だけどね……? 私…気付かなかった振りをして…そのまま寝ちゃおう…としたの」
「…………………………。え……? どうして……?」
キョーコの言葉に…蓮の心臓はどんどんと高鳴っていく――…。
「…………………………………。」
「…不思議よね…前なら…自分の子どもなんか…絶対いらない…って思ってたのに……。」
…もしかして……?
…キョーコも…俺と同じ事…考えてくれてた――…?
…いや…まさか……?
蓮はキョーコの耳の上辺りに両手をそっと添え、彼女の顔を自分の方に向かせようとしたが…
キョーコは彼の逞しい胸にしがみ付いたまま真っ赤な顔をイヤイヤと横に振り、顔を上げようとはしなかった。
2人が入っている浴槽のお湯の水面がゆらゆら…と揺れ、キョーコの髪の毛からシャンプーの甘い香りが漂い、蓮の鼻腔をくすぐっていく――…。
「…キョーコ……恥ずかしいのは分かるけど…俺達にとって大切な話だから…ちゃんと顔を見せて…?」
蓮がキョーコの耳元で甘く…優しい美声でそう囁くと…彼女は僅かにコクン…と頷き、暫くした後…艶やかに紅く染まった顔をゆっくりと恥ずかしそうに蓮に見せた――…。
お互いの髪の毛から…僅かに水滴が零れ落ちていく――…。
「………………………。」
「…あのね…? 久遠を…貴方を…愛しているから……」
キョーコは紅く染まった顔で瞳を潤わせながら…愛おしくて堪らない表情で蓮を見つめる――…。
「………………だから…ね……?」
「……だから……?」
蓮はゴクリと唾を飲み込んだ。自分の心臓の鼓動が可笑しな程に高鳴っているのが分かる。
「……………………………………。」
「…愛しい…久遠との子どもなら…今すぐにでも欲しいっ…て思っ…きゃっ!!」
キョーコが全てを話し終える前に…蓮は感激のあまり 強く…強く彼女の身体を包み込むように抱き締め…そして情熱的で濃厚なキスをし始めた――…。
「……………んっ…」
キョーコの唇から甘い吐息が漏れ…微かにバスルームに響いていく――…。
まるでお互いが蕩けてしまいそうなくらい情熱的で長い濃厚なキスの後…
蓮は愛おしくてどうにかなってしまいそうな程に甘く…切ない表情でキョーコの瞳を見つめ始めた――…。
「………………………。ねぇ…キョーコ……?」
「……ん?」
お湯に濡れた…蓮の綺麗で長い指先は、彼女の耳から頬の方をそっと静かに優しく撫でていく――…。
「……結婚しよう」
「……………………えっ…?」
艶やかな蓮の低い美声がキョーコの耳元で囁かれていく――…。
「…今回ので…子どもは出来るのかどうかは分からない…。だけど……」
蓮は愛情のこもった優しい瞳でキョーコに微笑み掛けた後…情熱的な眼差しで真っ直ぐと…真剣にキョーコの心に訴えかける――…。
「……いつか…俺の子ども…産んでくれる……?」
その言葉を聞いた瞬間…キョーコの瞳から感激の涙が溢れ出し、頬を静かに伝っていった――…。
「……………っ」
声にならない…キョーコの吐息が彼女の唇から漏れていく。
「…キョーコ……愛してる……。」
「…俺にはこの先…キョーコとの未来しか考えられないし…キョーコがいないと生きていけないんだ――…。」
今回の件で…嫌という程に
それを自覚させられた――…。
だから…
だから…今…この瞬間に…
君への溢れ出して止まらない熱い想いを
どうしても…伝えずにはいられない――…。
蓮は彼女の手を優しく握り…温かい湯船からそっと出すと、左の薬指にそっと甘いキスを落とした。
「……返事は…くれないの……?」
「………っ……はい……久遠……っ…」
蓮は蕩けそうな程に愛おしく…優しい微笑みを見せた後…キョーコの頬から零れ落ちて止まらない…幸せの涙の雫を柔らかい手付きでそっと拭っていった。
「…………もっと……」
「………………え…?」
「…もっと……俺の名前を呼んで………?」
「………久遠…?」
「………………………もっと――…。」
そう言うと…蓮はキョーコをふんわりと大切に包み込むように抱き締めた後、静かに瞳をそっと閉じた――…。
「……………久遠――…。」
愛しい君に…
初めて本名の “久遠” と呼ばれた瞬間
まるで…自分自身が生まれ変わった様な
不思議な感覚を味わった――…。
漸く本当の自分に出会えた様な不思議な感覚
あの瞬間――…。
蓮と…久遠と…コーンがひとつになれた気がした…。
君の前でだけ…俺は…ありのままの “俺” でいられるんだ――…。
「………………………。」
暫くお互い抱き締め合った後 蓮はクスッ…と僅かに笑い、軽くため息を漏らした。
「…あーぁ……。俺…情けない…カッコ悪い……こんなバスルームで…しかも裸でプロポーズなんて…////」
「ちゃんと…キョーコの二十歳の誕生日に…三ヵ月後にする計画を色々と考えていて…準備も進んでたのに…」
「…セリフだって……色々と……////」
そう言うと…蓮は少し恥ずかしそうな顔をしながら前髪を軽く掻き上げた。そんな彼の表情を見てたキョーコは蓮の手を取り、そっと自分の指に絡ませる――…。
「…そんな事ないわ…久遠……。私…今…最高に幸せよ……。」
「それに…女優の夢を追い掛けていく事も大切だけど…」
キョーコは潤んだ瞳で…静かに真っ直ぐと蓮を見つめる。絡ませている指にも自然と力がこもっていく――…。
「…久遠…久遠と…家族になりたい……。温かい家庭を築いていきたい……。それが…私にとっての…一番の夢だから……」
「………………………。本当に……?」
恥ずかしそうに頬を紅く…艶やかに染めたキョーコは静かにコクンと可愛く頷く。
「…ありがとう…キョーコ……。俺も…今…ありえないくらいに……最高に…幸せ――…。」
そう言うと…蓮は…瞳をうっすらと滲ませ…愛おしくて堪らない熱い眼差しでキョーコの唇を見つめると…ゆっくりと甘い…甘いキスを送った――…。
それはまるで…二人にとって
永遠の…“誓いのキス”のようだった――…。
「……………………おいで…?」
「…そろそろお風呂から出よう…のぼせてしまう……。髪…乾かしてあげるから――…。」
* * *
先に寝室に向かった彼女を追うように
ドライヤーを持って廊下を歩いている途中
窓から見える美しい満月に話し掛けてみた――…。
「………………………。そこから見守っていて……?」
「…キョーコは…俺の生涯を掛けて…必ず幸せにしてみせるから――…。」
満月は変わる事なく
柔らかく…綺麗な光を放ちながら
何処か優しく
微笑み返してくれたように感じられた――…。
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