※今回は39話と40話を同時に更新しています。確認してからお読み下さい。
※これからハッピーエンドに向けて”久遠とティナが心の闇、傷を乗り越えていく”というのがテーマになります。
中には”リックの死”に対して重たくて辛い部分も出て来ます。
最愛の恋人を突然失ってしまったティナの悲痛な想いも、客観的に優しい目で見守っていて頂ければ…と思います。
「…リック…あのね…驚かないで聞いてくれる…?」
『ん…?何を…?ティナ…』
「………………………。私…私…妊娠したの――…。」
彼を困らせてしまう事は覚悟はしていた――…。
当時私は19歳の大学2年生で…リックは18歳になったばかりの高校3年生だったから。
でも…私はもう決めていたの…。何があっても…この子は絶対に産んで自分で育てるんだ…って。
『…ほ…本当に……?ティナ…………。俺達に…子供が……?』
「………………………。うん…。あ…あのねリック…私――…。」
『マジで?!ティナ…!!ヤバい…どうしよう俺……すっっげーーー嬉しい……!!!』
ところが…リックは大喜びで…私の事を 優しく抱き締めてくれた――…。
『…ありがとう…ティナ…これから先…何があっても、君と子供を守るから…。だから…結婚しよう…俺達――…。』
「…………………………。いいの…?」
私が…瞳に涙を浮かべながらそう言うと…リックは優しい瞳で私の事を見つめながら…愛おしそうに微笑んだ。
『…愛してる…ティナ――…。』
そして…私にまるで”誓い”のような優しいキスをしてくれた――…。
その後は子供の存在を確認するかのように…私のお腹に耳を付けて…。
『いつ位になったら…動いているのが分かるようになるのかなぁ…?』
そう言いながら…本当に…本当に幸せそうな笑顔をしていた――…。
事故が起きる…3日前の出来事だった――…。
(※アメリカでは学生結婚はそんなに珍しくないそうです)
* * *
リックの墓から俺達はティナの住む家へと向かった。そこは墓地から徒歩5分程のすぐ近くにあった。
家の中には…昔リックが大切にしていたサーフボードやオシャレな地球儀…そして彼の写真が飾られていて…
俺にとっても…何だかとても懐かしい雰囲気の部屋になっていた…。
写真のリックと…その息子のリッキーを見比べてみると…本当に良く似ている。
「きゃははーー!リッキーにぃに もっと もっとーー!!」
「いいよー!じゃあもう一回やってあげる」
ユリアはすぐに彼に懐いてしまった。元々あまり人見知りはしないタイプだけど…ここまで時間を掛けずに仲良くなるのも珍しい。
まるで…昔の俺とリックを見ているような錯覚をしそうになる――…。
「…じゃあリッキー、母さん達…大切な話があるから…その間ベビーシッター頼んでもいいかしら…?」
「OK!…じゃあ…ユリちゃん…隣の部屋で、にぃにと一緒に遊ぼうか…?」
「うん…!あそぶーー!!」
ユリアは笑顔でリッキーに付いて行った。キョーコは一緒に付いて行こうか少し悩んだが、ユリアの機嫌はとても良さそうだったので、久遠の傍で暫く様子を見る事にした。
「…驚いたでしょ…久遠…”リッキー”の存在に…。」
その後…暫くの間…気まずい雰囲気で沈黙が続いた後…ティナは小さな声でそう言った…。
「………………………。うん…。想像もしていなかった…まさか…君がリックの子を産んでいたなんて――…。」
「…クー達には言わないでって…口止めしていたから…。いつか…自分で…伝えようと思って…。」
そして…ティナは自嘲の笑みを浮かべた後に…静かに語り始めた――…。
「…事故が起きる3日前に…病院で分かったばっかりだったの…。」
* *
「最初はとても恨んだ…。久遠と関わった所為で…リックは死んだんだって――…。どうしても許す事は出来なかった…。」
今思うと…誰かの所為にしなければ…現実を受け入れられなかったのかもしれない――…。
もう…”リック”はこの世に存在しない…という悲しい”現実”を……。
「自暴自棄の日々が続いて…泣きながら…リックの事をひたすら呼んでいたわ…。」
…あの頃は…久遠の両親にも会いたくなくて…かなり酷い事を言ってしまった――…。
「……………………………………………。」
久遠の表情が…どんどん曇っていき…キョーコはそんな様子の彼の手をそっと握った…。
「だけど…ひとつだけ…大きな心の支えがあった…。」
リックが最期に残してくれた…大切な”命の宝物”――…。それだけは絶対に失いたくなくて…必死だった……。
「…あの子が産まれて…初めて顔を見た瞬間――…。あの時の感動は…うまく言葉には出来ないわ…。」
リックに…本当に良く似た…男の子だった――…。
『…初めまして…貴方の名前は”リチャード”よ……。パパと…同じ名前なの…。だけど…ややこしいから”リック”ではなくて…”リッキー”って呼ぶね――…。』
リッキーが無事に生まれて来てくれた事によって…以前よりかは少し…心が落ち着いたような気がした…。
「だけど…それでもまだ立ち直る事は出来なかった……。」
リッキーを抱えて外に出れば”父親”の存在を聞かれ…また…街にいる家族連れや”お父さん”と楽しそうに遊ぶ子供の姿…。
「…本来なら…私達もリックと親子3人で…仲良く…幸せな家族生活を送っていた筈なのに…と思わずにはいられなかった…。」
「あの時…久遠と関わらなければ…今頃 リックは私の横で優しく笑っていてくれていた筈…って…そう思うと…やっぱりどうしても久遠を許す事が出来なかった…。」
* *
『どうして…っ!どうして私達を置いて逝ってしまったの…リック……!』
『…貴方私に言ってくれたじゃない…!”これから先…何があっても、君と子供を守るから…。だから…結婚しよう…俺達…”って――…。』
『久遠…!リックを…返して…!返してよ――…!』
そして…久遠の事を憎いと思って私が癇癪を起こすと…リッキーはいつも泣き出した――…。
『オギャーー!オギャーー!!オギャーーー!!』
『………………………。どうして…?何でそんな顔で泣くのよ…リッキー…!』
まるで…リックが”俺はそんな事望んでいない…やめてくれ”って…そう必死に訴えているみたいじゃない――…。
『…やめて…リッキーその表情…!お願い…泣き止んで――…!』
リックと同じ顔で…。毎回大泣きして…全然 泣きやまなかった…。
* *
「…今考えてみると…私はもう本当にずっと気を病んでいて…可笑しくなっていたんだと思う――…。」
そして…きっとリッキーは…そんな私の悲しい感情を敏感に受け取っていたんだわ――…。
久遠とキョーコは…何も言えずに…ただひたすらティナの話を真剣に聞いていた…。また…隣の部屋からは、ユリアとリッキーが楽しそうに遊んでいる声が響いていた――…。
「そんなある日…ね…?あの子が…突然…”掴まり立ち”から…ひとりで何も掴まらずに立ち始めたの」
始めのうちは…一瞬 立っては…すぐに転んでしまっていた――…。
「それでも…転んでは起き上がって…また転んで……。諦めずに…少しずつ…少しずつ…立てる時間が数秒延びていった…。」
まるで…”立ちたい…早く歩きたいんだ…ママと一緒に…!”って…言われているような気がした――…。
「その後…今度は一歩…歩いては転んで…二歩…歩いては また転んで……。」
一日中…諦めずに…何回も…何10回も…必死にリッキーは未来に向かって…立ち上がり…歩き出そうとしていた――…。
『…おいでリッキー…!!ママはこっちよ…!ほら…後少し…!』
『………………………!!あ…惜しい…!ん…また立つの…?』
『あーー!』
リッキーは立ち上がって…歩こうとするのが楽しくて仕方のない様子だった。
そうして…立ち始めてから…約一週間後――…。
『おいで…あっ…!そうそう…その調子よ…リッキー!』
『うーー!』
あと3歩…
あと2歩…
あと1歩…!
『あぁ…!!凄い…リッキー…!!とうとう…ママの所まで来る事が出来たね……!!』
ふらつきながらも…最後まで頑張って歩いて来たリッキーを、私は強く…強く抱き締めた――…。
…感動して…涙がたくさん溢れて…零れ落ちていった……。
「そして…その瞬間に…私が落ち込んだ時…リックが言っていた言葉を…ふと思い出したの――…。」
”時間は無限じゃないんだ…。だから…常に前を向いて…立ち上がって…進んで行くんだ…ティナ――…。”
”そして今ある人生を…精一杯生きるんだ…たとえ…どんな事が起こっても――…。”
すると…頭の中に当時の記憶がどんどん鮮明に蘇ってきて…身体中に衝撃が走った――…。
―――立て…ティナ――――…。
『あ……。リック…!リック……!私……っ!私は…っ』
――立ち上がって…進んで行くんだ…ティナ――…。
――未来に向かって―――…。
『まー! まーま!』
リッキーが屈託のない顔で…私に笑いかける…。
この子は…”未来”に向かって必死に生きている――…。
その時…私は…初めて気が付いた…。
今まで久遠を一方的に悪者にして…私は現実から逃げて…
受け入れられずに…後ろばかりを向いていた…という事に――…。
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