ナツで世間を騒がせた最上さんは、その後 新開監督の映画に初出演した。
花魁の役で報われない悲恋を演じ見事に演じ切った彼女は、業界の評価も高い。
決して叶う事の無い花魁「夕霧」の切ない恋心――。
いけないと分かっていても、自分の中で育ってしまった恋心を
必死に隠そうとする夕霧の葛藤、苦しみが痛いほどよく伝わって来た。
そしてその彼女の演技を見て、俺は確信する。
―最上さんは恋をしている――。
一体誰に?
いつの間に?
トラジックマーカーの撮影が終わってからは仕事の接点も無くなり、お互い忙しくて会う事の出来る日は以前と比べるとかなり少なくなっていた。
お互いロケなどが入った時は一ヶ月以上も会えない事もあった。
どうしても君の声が聞きたい――。
そう思い何度も携帯を開き、ボタンを押そうとした事もあった。
しかし仕事のスケジュール上、自宅に着くのが深夜を過ぎる日が続き、電話をする事を躊躇っていた。
礼儀正しい彼女は事務所の先輩、後輩という関係上、俺が深夜遅くに電話して迷惑を感じたとしても、なかなか断りにくいだろう…。彼女の負担にはなりたくない。
そう考えると何か切欠が無いと思う様に行動には出来ず、ただ鳴らない携帯を眺めながら眠りにつく日が続いた。
俺は自分の新しいテレビドラマの撮影中、相手役の女優にうんざりしていた。
彼女は俺にずっと引っ付き、傍から離れようしない。
社さんが気を利かせて俺と彼女を離しても、懲りずにまた近くにやって来る。
―俺の腕に触るな。この腕は…セツ(最上さん)の為にあるのだから――。
…心の中でそう彼女に言ってみたりもした。
ヒール兄妹を演じていたあの頃が懐かしい――。
あの映画の撮影後、彼女は「事務所の後輩」に戻り、普通に俺に接して来たから。
カインとしてなら…カインとしてなら彼女に触れる事が出来るのに。
彼女の白く滑らかな頬を撫で、抱きしめる事も――。
そして相手がセツカであったなら…
彼女は俺が抱き締めると、背中に手を回して抱き締め返してくれる。
食事に関しては最上さんと同じで、食べないと怒られていたけれど、セツカなら彼女とは違って俺にわがままを言ったり、甘えたりもしてくれた。
愛しくて堪らない君が俺の傍に居てくれた、とても掛け替えのない幸せな時間だった。
ねぇ最上さん、君の好きな人って誰?
最近の君は本当に綺麗になった。
まるで蛹から美しい羽を持つ蝶になった様に――。
「女の子の成長は早いよー蓮」
…社さんの言っていた事は正しかった。噂で聞くだけでも、彼女を狙っている男は多い。
花魁「夕霧」を演じた彼女はその後、「セクシーで魅力的な女性」として一気にブレイクし、「彼女にしたい女性」のランキングに入った。
俺は…今までこの世界で大切な人は作れないと自分に枷を課し、君に恋をしながらも行動をする事を躊躇っていた。
でも、もう限界なんだ。
君の事が愛しくて堪らない。
君の笑顔が見たい、声が聞きたい。
滑らかなその頬に触れたい、そして柔らかな君の身体を抱き締めたい――。
俺以外の他の男が君に触れるなんて耐えられない。
もし君が泣いているならば 俺が傍にいて慰めてあげたい。
君の事を守るのはいつだって俺でいたいんだ―――。
そろそろ本気で行動しなければいけない時が来たのかもしれない。
最上さん…。 君を…永遠に手に入れる為に。
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