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18:匂い


青の秘術書を取り戻すあては、今のこのタイミングであれば無い事も無い。
と言うのも、ヴェローナ家の悪い噂が広まりつつある今、あの一族は薬を巡ってある貴族ともめ事を起こしているらしいからだ。

僕からしたら、本当にもめ事の好きな奴らだとしか思えない所だが。
ヴェローナ家は元々、グラシス家から分裂した際、我が家の力が落ち目である事を理由に“青の秘術書”を持って行った。
本来分家が本家のものを奪う事は、どんな理由があれ褒められた事ではないのだが、王宮が暗に許可したらしい。
そのため、グラシス家から秘術書が奪われても、王宮はこの件について見て見ぬ振りをした。

ならば、今度はこちらの番だ。
レッドバルト伯爵が、国王に協力を仰ぐと良いと言っていた意味が、今なら分かる。






ふらふらしながら寝室に戻った。
流石に、今日は少し早めに休もうと思ったのだ。

連日の試験調剤に頭が痛くなるが、時間は限られている。この研究を始め、すでに一ヶ月がparker 5th
parker ペン
parker ボールペン
過ぎようとしていた。
明日は王宮へ出向き、王に謁見する事になっている。
この段取りを進めてくれたのはまさにレッドバルト伯爵だ。
王の前に出てグラシス家の復興を強調するのに、見るからに寝不足でやつれた表情だと、流石に説得力に欠けるではないか。

寝室は暗く、ディカとベルルは既に寝ていた。
僕は衣装タンスのある隣の部屋で着替え、いそいそとベッドに近寄り、温かい布団に入り込む。

目頭を押さえ長い息を吐いて、ベッドに身を沈めていたその時「旦那様」と小さく可愛らしい声が聞こえた。ベルルが体ごと僕の方を向いて、小さく声をかけてきたのだ。

「……ベルル、起きていたのか?」

「ええ。旦那様、今日はきっと、早く眠ると思っていたの」

ふふっと、彼女は笑って、僕に身を寄せ抱きついた。
久々の感触に僕は心躍る。

「旦那様、こうしていてもいい? 私ここ最近ずーっと旦那様にくっついてないから、もう我慢出来ないのよ?」

ベルルは僕の腕にひしとしがみついて、上目使いで困り顔。
僕は息を呑んだ。

ちらりとディカの方に目をやると、ディカは既に深い眠りの底のようだった。彼女は早寝早起きだが、一度眠ると決まった時間までなかなか起きない。

僕は、小声でベルルに「僕もだよ」と言って彼女の背中に手を回し、ぎゅっと抱き締めた。
最近はディカが早寝のため、ベルルの方がずっと先に寝てしまう事がほとんどだった。寝床で眠るベルルの頭を撫でたり顔を眺めたりする事はあったものの、このようにベルルから寄って来てくれる回数は少なくなってしまっていた。
ベルルもベルルで、それが物足りなかったのだろう。

彼女は一時無言で僕の腕に身を任せていたが、クスクス笑って這い上がって来て、目線を僕の所まで合わせる。

「旦那様、薬草の匂いがするわっ」

「ああ、ごめんよ。今日は湯浴みをしていないんだ……明日の朝一で、入らないとな」

僕は自分の腕を鼻に持って来て、嗅いでみた。
もうこの匂いが当たり前で、自分にはどのくらい強い匂いなのか分からない。

「ふふ、でも私、薬草の匂いのする旦那様が好きよ? 地下牢に私を迎えに来てくれた時も、ふっと思ったの。何だか不思議な匂いがするなって。今思うと、あれは薬草の香りだったのね」

「……でも、渋い匂いだろう? 第三研究室のメンバーはみんなこんな匂いを染み付かせているけど、おかげでじじい臭いと言われるよ」

「あら、そんな事無いわよ! どんな香水より、きっと素敵な匂いだわ。だってお薬の匂いよ?」

「……」

ベルルは無邪気に笑い、僕の足に自分の足をからませ、頬を肩の辺りに埋めた。
ふわりと、良い匂いがする。
ベルルのは我が家の石けんの香りだ。夏用の、柑橘系の爽やかな香り。

「ベルルは良い匂いだな……」

「そうでしょう? オレンジの香りの石けんって素敵ね。私、何度も石けんを舐めてみようかしらって思った事があるのよ? 何だか美味しそうで」

「あはは、ダメだよそんな事しては。石けんは石けんの味しかしないよ」

「そうよねえ。甘い苺の香りのするリップクリームも、リップクリームの味しかしないものね。唇を舐めた時に思ったもの」

ベルルは少し恥ずかしそうに、僕の腕の中でもじもじとしていた。

ああ、可愛らしい。
そうだね、苺の香りのリップクリームは、リップクリームの味しかしないね。僕も良く知っているよ。

僕はそっとベルルの唇に、自分の唇を重ねた。

「……ん」

ベルルは不意だった様で、小さく肩を上げる。
鼻をかすめるリップクリームの甘い香りとは、全く別の甘い味がする。
しばらくして顔を離すと、ベルルは瞬きを二度程して、ボッと頬を染め口元で手を丸くした。

「ふ、ふいうちだわだんなさまったら……」

言葉もどこかフワフワしている。
ああもう、ああもう、と、僕は言葉にならない込み上げる思いそのまま、ベルルの頭を抱いた。
髪を撫で、額にもキスをする。

するとベルルも、ぼくの頬にちゅっと、小さなキスをしてくれた。

「私だって旦那様にキスしたいわっ」

謎の対抗心をもってして。

「そうだわ。旦那様、明日の朝のお風呂で、私が旦那様のお背中、流してあげるわ」

「ほ、ほお」

「髪も洗ってあげる。わしゃわしゃって」

ベルルがパッと表情を明るくして、一つの提案をしてきた。
彼女が僕の背を流す事は今まで何度かあったが、いきなりだったので少し動揺した。

「だって明日、王宮へ行くのでしょう? 綺麗にしなきゃ」

「そ……そうだね。だったらベルルに頼もうかな」

視線を横にそらしつつ、ニヤけ顔。
自分でも気持ち悪い顔をしていると分かっていた。

「ふふっ、ならもう寝なきゃダメね。旦那様、寝付けそう?」

「……どうかなあ」

凄く疲れているはずだったけど、何か目が冴えている。
ベルルは甘く刺激的で、目覚めに効果的などんなに苦い薬草の匂いですら、敵うまいと思った。







翌日、僕はベルルに引っ張られ、浴場へ向かった。
僕が眠り足らない様子でぼんやりしていたら彼女に寝巻きを脱がされそうになり、「自分でやるから」と慌てたところ、すっきり目が覚めた。やはりベルルは刺激的である。


「旦那様、痒い所はない?」

「うー……もうちょっと右かな」

「分かったわ。ここらへん? どうかしら……」

「ああ、そこら辺だ」

ベルルが薄手のスカートをまくり上げ、長い髪を結い上げて、僕の髪を洗ってくれていた。両手の五指を立てて、髪をわしゃわしゃと泡立てる。
彼女の細い指と、何ともか弱い力加減にこそばゆさを感じるが、ベルルが一生懸命僕の頭を洗ってくれているのだと思うとそれだけで胸いっぱいだ。

「はい、じゃあお湯を流すわ。旦那様目を瞑ってちょうだい」

桶に湯を溜めて、ベルルが頭からお湯を流してくれた。
僕は顔にかかった髪を何度かかき揚げた。

「ベルル、大丈夫かい? 衣服が濡れただろう?」

「あら、どうせ後で着替えるわ。その為の服だもの」

ベルルはニコニコと楽しそうにして、エプロンで手を拭いていた。

「次は、お背中流すわ。石けん、石けん……」

オレンジの皮と果汁の入った、グラシス家特製の石けんを、彼女は容器から取り出した。
丸く卵の様な形をしていて、つるんとした石けんだ。
それを濡らして泡立てると、とても良い柑橘の香りが漂う。

ベルルはオレンジ色の泡を、柔らかいスポンジに含ませ、僕の背をごしごしと擦った。
これまた弱々しい力だが、丁寧なのが良く分かる。

「あら旦那様、ここにほくろがあるわ」

「そりゃあ、背中にもほくろがあるよ」

ベルルが背中を擦っている途中、マジマジと見つめる一点があるようだった。
僕は自分の背中がどうなっているのか熱心に確かめた事など無いが、ベルルにこんな風に見られると気になってしまう。

「私にもある?」

ベルルが背中越しに僕の顔を覗き込み、尋ねた。

「ベルルの背中?」

「私の背中にほくろはあるかしら? 変な所って無い? 旦那様にしか見せた事無いもの」

「……」

ベルルの背中を思い出そうとしたら、凄く鮮明に思い浮かんで来たので自分を情けなく思う。
どれだけ真剣に見つめてたんだろうな。

「ベルルの背中は……その、綺麗だよ。肌が白くて、きめ細かくて……」

「本当?」

「ああ、でも、ちょうど真ん中の、腰辺りにほくろが二つ並んでいるよ」

ここまで説明して、ハッとした。
自分は何を言っているんだ。腰辺りとか凝視していたのがベルルにバレるではないか!!

しかしベルルは「へええ」と興味深そうな声を上げ、自分の背中を気にしていた。
特に僕を変な目で見る事も無く。

「旦那様、今度一緒にお風呂に入った時に、私の背中のどこにほくろがあるのか、指で押さえてみて」

「……う、うん」

ベルルの無邪気なお願いに、僕は素直に頷いた。
彼女は背中に湯を流し、満足げだった。

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