舞台用語に「消え物」というのがございます。
これは、舞台上で使われる小道具の中でも「壊したり食べてしまったりすることで無くなってしまうので、公演の度に新しいものを用意しなければならないもの」を差す言葉です。
今日はこの単語だけ覚えて帰ってください。
おはようございます。
聖同盟にて出前持ち役を務めさせていただきました山本雅也です。
熊川哲也氏のお弟子さんではありません、同姓同名です。
晴れてわたくし、この度「消え物係」に任命されました。
聖同盟「出前持ち」ではラーメンやカツ丼、
幻同盟「ウェイター」ではお酒やお菓子などを提供するので
この二役を兼任する私が適任というわけです。
「カツ丼」や「お菓子」はただ買って来れば良いので
ここまではただのおつかいに過ぎません。
しかし、問題は「ラーメン」です。
ラーメンは、非常に寿命が短い食べ物のひとつだからです。
買ってくるとしても、どのような形態のものを買ってくるか、多様な選択肢があります。
しかもこのラーメン、脚本の都合上「分厚いチャーシュー」が乗っていなければなりません。
こうなると選択肢が多岐に渡るため、大いに悩みました。
できる限り低予算で、できる限り見栄えするラーメンの出し方を模索しました。
●ラーメン屋さんにて開演直前にテイクアウトする
…予算の都合と、時間の余裕がなくなりすぎるためボツになりました。
●コンビニの冷やし中華に、ラーメンっぽいトッピングをする
…「11月に冷やし中華なんか売ってなかった」ためボツになりました。
●インスタントラーメン
…劇場にコンロが無いのでボツになりました。
万策尽きたと思われたその時、小林夢二さん(聖:刑事役/幻:マスター役)から神託を受けました。
「カップラーメンで良くない?」
雷が落ちたと思うほどの衝撃を受けました。
確かにカップ麺ならば、提供の直前に作って丼に盛って提供できる。
しかもインスタントラーメンと違い、「かやく」が入っているのでトッピングにも困らない……。
革命的発想。月蝕のスティーブ・ジョブズ。消え物界の寵児──それが夢二さんの正体だったのです。
阿佐ヶ谷周辺のスーパーマーケットで「できるだけ具が見栄えしそう」なカップ麺を探して歩きました。ついでにチャーシューも丸々一ブロックのを購入して公演のたびに大袈裟なほど分厚く切ることにしました。
そこからはスムーズでした。
「海津義孝さん演じる上杉先生に、アツアツの一杯を届けたい……!」
この一心で、丼を事前に熱湯で温めておき(土山しげる氏の漫画で読んだテクです)、電気ケトルを作動させるタイミング、チャーシューを冷蔵庫から出して常温に戻すタイミング、盛り付け等々をゲネプロの時間から逆算し、絶妙なタイミングでラーメンを出すことに成功したのです。
海津さんに「山本くん、美味しいラーメンをありがとう。千秋楽ではついつい食べ過ぎちゃったよ」と言っていただいたあの時、役者をやっていて良かったなぁと心から思いました。
……あれ?
幻同盟からは、山本はウェイター役に切り替わるので
渡辺侑楽さんに、バトンならぬおかもちを託して、出前持ち役を引き継いでいただきたい。伝統の味を、守って行っていただきたいと願っております。
……あれ?
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月蝕歌劇団11月公演
「白夜月蝕の少女航海紀ー劇場版ー」