社会保障と税を考える(3.目標はプライマリーバランスの黒字化) | 霞が関公務員の日常

社会保障と税を考える(3.目標はプライマリーバランスの黒字化)

 前回は、私には知識がないのでよく分からないというカッコつきながら、増税と歳出削減で歳入と歳出のギャップを埋めることが必要だと思うと述べました。


 では、埋めるべき歳入と歳出のギャップは、どの程度なのでしょうか


 この分野で最も信頼できる数字は、毎年1月に内閣府が発表している「経済財政の中長期試算」という資料。
 最新は今年1月のもの ですが、これには消費税5%増税が織り込まれていますので、それが織り込まれていない中で最新の2011年1月発表のもの を見ていきます。


 私は素人なので解説できません。原文を読んでくださいね。以上!
 ………と言いたいところですが、そういうわけにもいかないので、素人なりの拙い解説を試みてみましょう。



1.目標はプライマリーバランスの黒字化
 資料の中身に入る前に、そもそも埋めるべき「歳入と歳出のギャップ」って何?という言葉の定義を整理しておきます。


 あなたは家を買うために、30年ローンで5,000万円借りました。金利は年2%、あなたの年収は1,000万円です。
 さて、あなたは毎年の生活費をいくらに抑えていくことが必要でしょうか。


 答は当然、30年後にローンの残高がゼロになるよう、金利分に加え元本分の返済もできるだけのお金を残しておかなければいけません。
 面倒なので計算はしませんが、300万円残して700万円使えるぐらい?


 じゃあ国も同じように、金利と元本の返済ができるだけのお金を残す必要があるかというと、それは間違いです。
 国の借金の場合は、元本も返済できる300万円を残す必要はなく、金利を返済できる100万円を残す必要すらなく、1,000万円全部使って大丈夫なのです。


 このように、さも借金の存在を忘れたかのように、毎年の収入と生活費で比較することを、「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」と呼びます。


 直感的には「おかしいじゃないか」と思いますよね。
 なぜ、プライマリーバランスが黒字になれば大丈夫なのか


 まず、人生には限りがありますが、国家は永続するので、30年ローンのように完済しなくても、半永久的に借換えができます

 これが元本分を残す必要がない理由。


 次に、人の年収は減ることもありますが、税収は経済成長率(インフレ率を加算した名目ベース)の複利計算で増加していきます。
 一方の借金は、金利の複利計算で増加します。


 よって、プライマリーバランスが黒字(追加的な借金がない)で、名目ベースの経済成長率が金利より高ければ、実質的な借金の額(GDPに占める借金の割合)は減少していきます。これが金利分も残す必要がない理由。

 なお、「名目経済成長率が金利より高い」という条件をドーマー条件と呼びます。


 ということで、あなたが永遠に生きる自信があり、収入が永遠にローン金利以上の率で増え続ける自信があれば、銀行からの取り立ては無視しても大丈夫です。


 経済の専門家から見れば細かい間違いだらけでしょうが、大筋ではこういう理解で合っていると思います(←自信なし)。

 国家財政は大きすぎて理解が難しいから家計と比較しろ、というのは間違っているという好例ですね。

霞が関公務員の日常 ←「家計と(比較)しろ」のイメージ画像


 ただ、この「国と家計の単純な比較は間違っている」ことをどこまでも拡張して、国の借金はまったく心配ないと主張する人もいますが、それは間違いです。
 収入と生活費を比較したプライマリーバランスが赤字であれば、実質的な借金の額がどこまでも拡大し、どこかで破綻を迎えます。


 ということで、この節の結論は「元本を完済できるレベルの黒字は必要ないが、プライマリーバランスの黒字化は絶対に必要である」ということ。


 ただし、今は借金の残高がGDPの200%近くとあまりに大きすぎるので、プライマリーバランス±0では困り、数兆円の黒字を目指すべきとしておきます。


 もう1つの裏の結論は「国と家計の単純な比較は間違っている。しかし、それをどこまでも拡張するのも間違っている」ということ。
 「国と家計は違う」には専門的で厳密な適用範囲があるので、金科玉条のように何にでも便利に使う人には注意しましょう。


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 長くなってきたので、いったんここで切ります。


 プライマリーバランスの定義だけで終わってしまいましたが、これはとても重要な概念なので、1回使う価値があります。


 よく報道される「税収は歳出の半分」「借金残高1,000兆円」と聞くと絶望的なようですが、プライマリーバランスで見ると実はそれほど絶望的ではない、という形でつながっていきます。



 次回こそ、埋めるべき「歳入と歳出のギャップ」=「プライマリーバランスの赤字の額」がどの程度なのかを見ていきます。