失言で辞任した大臣の一覧を作ってみた | 霞が関公務員の日常

失言で辞任した大臣の一覧を作ってみた

 周知のとおり、松本龍復興担当相が失言で辞任しましたね。

 「知恵を出したところは助け、知恵を出さないところは助けない」「九州の人間だから東北の何市がどこの県か分からん」「県の中でコンセンサス得ろよ。そうしないとわれわれ何もしないぞ」「お客さんが来る時は自分が入ってから呼べ」ですか。


 失言の内容については改めてコメントする必要もないと思うので、ちょっと角度を変えて、過去に失言で辞任した大臣のリストを作ってみました。全部で9例あります。
 平成になってからの全例を挙げたつもりですが、欠けている人もいるかもしれません。


1993年12月  中西啓介 防衛庁長官(細川内閣)
  「半世紀前に出来た憲法に後生大事にしがみつくのはまずい」(パーティにて)

1994年5月  永野茂門 法務大臣(羽田内閣)
  「南京大虐殺はでっち上げだと思う」(毎日新聞インタビュー)


1994年8月  桜井新 環境庁長官(村山内閣)
  「日本は侵略戦争をしようと思って戦ったのではない」(閣議後記者会見)

1995年11月  江藤隆美 総務庁長官(村山内閣)
  「植民地時代に日本は悪いこともしたが良いこともした」(記者オフレコ懇談)

2000年2月  越智通雄 金融再生委員会委員長(小渕内閣)
  「検査の仕方がきついとかあったら、どんどん直接おっしゃってください。

   最大限考慮しますから」(金融関係者向けの講演会)

2007年7月  久間章生 防衛大臣(安倍内閣)
  「原爆で戦争が終わったんという頭の整理でしょうがない」(大学での講演会)

2008年9月  中山成彬 国土交通大臣(麻生内閣)
  「成田空港反対闘争はゴネ得」「日本は単一民族」「日教組は教育のガン」

2010年11月  柳田稔 法務大臣(菅内閣)
  「法務大臣は2つの答弁を覚えておけばいい」(地元支持者向け国政報告会)

2011年7月  松本龍 復興担当大臣(菅内閣)
  「知恵を出したところは助け、知恵を出さないところは助けない」「お客さんが

   来る時は自分が入ってから呼べ」(被災地の知事への訪問時)


【本エントリーのアップ以降に失言で辞任した大臣を追記】

2011年9月 鉢呂吉雄 経済産業大臣(野田内閣)
 「周辺町村の市街地は人っ子一人いない、まさに死のまちという形だった」
 「放射能つけちゃうぞ」



 こうして並べてみると、なかなか味わい深いものがあるなぁ。
 感じたことをいくつか書いてみます。



1.戦争認識、憲法関係の失言は流行らなくなった
 平成10年までの4例はすべて戦争認識、憲法関係で、その後は1つもありません。
 政治家がこういう失言をしなくなったのか、世論が右傾化(と呼ぶべきかは議論があるが)して失言として問題視されなくなったのか。
 両方ひっくるめて、「時代が変わった」ということなのでしょうね。



2.辞任する、しないの基準はそれなりに明確 
 これ以外にも大臣の失言は山ほどあるわけで、辞任する、しないはどうやって決まるのかと思っていましたが、並べてみると意外と明確な基準がある気がしました。


 ・言うと問題になると誰もがわかっている言葉をズバリ言った

  (戦争認識での日本の正当化、原爆投下の正当化、日本は単一民族)

 ・自分が就いている職の責任を軽視する発言をした

  (金融検査への手心、法相は2つの答弁で十分、知恵を出さないと復興を助けない)

 ・単独ではセーフな発言でも短期間に連発した(中山成彬氏、松本龍氏)


 ひとことで言うと、「見解の相違」とか「文脈全体で見てくれ」とか言い訳できない発言ということでしょうか。


 一方で、善意に解釈する余地がある発言は、辞任までは至っていない感じがします。
 その代表例は、2007年1月の柳澤伯夫厚生労働大臣(安倍内閣)の「女性は生む機械」発言でしょうか。
 ただ、「女性は生む機械」はこれで「言うと問題になると誰もがわかっている言葉」に登録されたので、次に言った人はアウトでしょうね。



3.気がゆるむ場面での発言が危険
 国会答弁とか記者会見のように、相手との緊張感がある場所での発言はほとんどなく、地元や関係者向けの講演会とかオフレコ懇談とか、気がゆるむ場面が多いですね。


 気がゆるむ場面で失敗するのはよくあるけど、失敗の方向が大問題。
 自分の仕事への自虐ギャグとか、建前はこうだけど本音はこれでしょうがないとか、気がゆるむとそういうかっこ悪い後ろ向きな言葉が出てくるようでは、リーダーとしてのトレーニングが足りないと思います。


 逆にかっこいい前向きなこと言い過ぎて、「お前、それ本当にできるんか」と言われるぐらいの方が、政治家にはふさわしいと思うのですが。
 そういう点、スポーツ選手や芸能人はよくトレーニングされているし、地方の首長(例:橋下大阪府知事)や実業家(例:孫正義ソフトバンク社長)にも、発言内容の妥当性はともかく、かっこ悪いことを言わないトレーニングはできていると感じる人がいますね。


 もちろん、彼らに中央政治を担わせて失言しないかは別問題ですが。
 中央政治(特に首相)は、世の中のあらゆる矛盾の責任を負わされて誰にも転嫁できない、理不尽な場所ですから。

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 私は偉くないのでそれほど重要ではありませんが、いちおう、気がゆるんだときの発言が、かっこ悪く後ろ向きなものにならないよう、心がけたいですね。