まずは名前を奪った。そして少しずつ記憶を。
僕のスタンド、ヘブンズ・ドアーは対象を本にしてその記憶を自由に読みとり、書き換え、そして奪うことができる。
突然この静かな杜王町に現れた緑の大男は、その見た目からして僕の興味を引くには十分だった。
しかし、驚くべきはその記憶、経験、正体。
ヘブンズ・ドアーで本にされたら嘘はつけない。
だからこの大男は気が狂っているか、本当に異世界からやって来たかのどちらかだ。
名前や記憶を奪われてもなお失わないプライドの高さからみるに、彼が精神を病んだ狂人のようには思えない。
そしてこの人間離れした外見が何よりも異世界から来たという動かぬ証拠であろう。
ピッコロ「おい、何をじろじろと見ているんだ気味が悪い」
露伴「ああそうだ、紅茶を飲みたかったのをおもいだした……頼んでもいいかい?」
ピッコロ「ちっ……この俺が何でこんなことを」
露伴「この、俺?いったい君は何者だというんだい」
僕がクスクスと笑いながらそういうと、彼はもう一度大きく舌打ちをしながらキッチンの方へと消えていった。
僕は引き出しを開け、彼から破り取った「記憶」の束を取りだしパラパラと眺める。
そこには僕の想像もつかないような世界の出来事が綴られている。
漫画のネタにしようかと思ったのだが、まだうまくアイデアが纏まらない。
まあ今は連載も順調だし、この「記憶」は次の作品に生かすとして今は彼の観察を続けよう。
やがてティーポットやらカップやらをカチャカチャと盆に乗せる音が聞こえ、僕は「記憶」の束を引き出しにしまう。
彼から記憶を奪ったあとにいくつか書き加えたことがある。その一つが僕好みの紅茶の入れ方だ。
露伴「ありがとう、何か思い出せたかい?」
ティーセットを乗せた盆をテーブルにのせた彼に白々しく問いかけてみる。
ピッコロ「いや……相変わらずだ」
慣れた手つきでカップに紅茶を注ぐピッコロはいつも通りの答えを返す。
露伴「そっか……まあゆっくりと思い出せばいい、ここにはいつまでもいてくれてかまわないからね」
ピッコロ「……すまんな」
記憶を奪ったのが他ならぬ僕自身だと知ったら彼はいったいどうするのだろう。
思わず全てを打ち明けてしまいたくなる欲求を抑え、紅茶を口に含んだ。



腕を千切られるも記憶がなくて再生出来ないピッコロさんとか、水以外のもの食べさせられて苦しんじゃうピッコロさんとか色々妄想できます。