シロメバル出荷停止 風評再拡大を懸念 独自基準の評価二分 茨城
産経新聞 4月15日(日)7時55分配信
県沖で取れるシロメバルが政府から出荷停止指示を受けたことで、県内の自治体や漁業の関係者は風評被害の再拡大を懸念している。県や漁協は共同歩調で異例の独自基準(放射性セシウム1キロ当たり50ベクレル)を設け、安全性のアピールに懸命だが、ヒラメなど旬の魚も含め10種類以上の魚種が出荷自粛となり、関係者の苦悩は大きい。(西川博明、田坂定康)
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「ずいぶん思い切った対応。精神的な影響が大きいと思うが、敬意を表したい」。橋本昌知事は独自基準に踏み切った漁業関係者をねぎらう。
独自基準は「茨城の地魚は安全」という信頼を回復し、風評被害の払拭を図りたいという県と漁協側の思惑が前面に出ている。「民間の店頭で50ベクレル超の食品は自主的に売らないところもある」(県の宮浦浩司・前農林水産部長)という例も参考にしたものだ。
だが、関係者からは疑問の声が上がる。「裏目に出たのではないか」。放射性物質の検査で国の新基準値(同100ベクレル)よりも厳しくし、市場に出回る水産物の安全性をアピールするが、いまのところ風評被害払拭につながっておらず、いらだちは募る。
大津漁業協同組合の村山譲専務理事(70)は個人的見解としながらも、独自基準による安全性が消費者に伝わっていないことを指摘。「いくら数値を出しても消費者が国を信用していない。どうしたら安全と理解してもらえるのか」と漏らす。
一方、独自基準を評価する声はある。平潟漁港(北茨城市平潟町)に面した旅館の女将(おかみ)、加藤文代さん(71)は「風評被害で観光客が大幅に減った」と嘆くが、検査については「いいかげんに済ませられる問題じゃない。厳しくして、大丈夫だと安心してもらえれば」と話す。
ただ、漁業関係者の思いは複雑だ。同漁港で働く漁師、溝井努さん(39)は「津波で家を流され、原発で仕事を取られた」と訴え、漁船員の男性(65)は「漁師は弱者と痛感させられた。今は働く意欲があるが、そのうち働く意欲がなくなるのが心配」。独自基準の意義は理解できるだけに、漁に出られぬ無念さをどこにぶつければいいのか。「漁に出たくても出られないなら漁師じゃない」(県央の漁師)と深刻な声も聞こえる。
県は「引き続き東京電力に対する損害賠償請求を行っていく」(橋本知事)と支援の姿勢を強調するが、抜本的な解決策は打ち出せない状況だ。.
最終更新:4月15日(日)7時55分