安倍政権は消費税増税をする一方で、法人税減税を進めてきました。しかし、税の基本理念は応能負担原則、つまり、各人の負担能力に応じて税を負担するというものです。大企業の負担を軽減しながら一般国民の負担を重くするというのは、税の基本理念に完全に反しています。
また、日本経済を活性化させるためには、国民の消費を回復させることが重要です。今のように消費を冷え込ませるような政策を続けていては、いくら量的緩和をしようとも、日本経済が復活することはないでしょう。
ここでは、弊誌11月号に掲載した、中央大学名誉教授の富岡幸雄氏のインタビューを紹介したいと思います。(YN)
『月刊日本』11月号
「法人税を払わない巨大企業」より
巨大企業はほとんど法人税を払っていない
── 大企業の経営者たちは「日本の法人税は高すぎる」と批判しています。しかし、富岡先生は著書『税金を払わない巨大企業』(文春新書)の中で、大企業の税負担率が極めて小さいことを明らかにされています。
富岡 「日本の法人税は高い」と批判する人々は、税法によって定められた法定税率の高さを取り上げ、それを批判の根拠にしています。確かに現在の東京都の法定税率は35・64%ですので、この数字だけを見れば、シンガポールの17・00%やイギリスの23・00%、韓国・ソウル特別市の24・20%などと比べるとかなり高いと言えます。
しかし、これはあくまでも法の定める税率であって、企業が実際にこの税率通りに税金を払っているというわけではありません。マスコミはこの法定税率のことを「実効税率」と呼んでいますが、これは誤用です。実効税率とは本来、企業が利潤に対して実際にどれほどの法人税を負担しているか、その負担割合のことを指します。私は誤解を避けるため、法の定める税率のことを「法定正味税率」、企業の実際の負担割合のことを「実効税負担率」と呼んでいます。
日本の法人税が高いかどうかを判断するためには、実効税負担率を見る必要があります。私は日本の経済界を代表する大企業のうち、業績の良い企業について、彼らの実効税負担率を調べてみました。その結果、実効税負担率が20%台という企業が圧倒的に多く、中には1%に満たない企業も存在するという驚くべき実態が明らかになりました。
『税金を払わない巨大企業』では、2013年3月期の実効税負担率の低い大企業を紹介しましたが、当時はまだアベノミクスが効力を発揮していませんでした。そこで、ここでは2013年3月期と、アベノミクスが影響を与え始めた2014年3月期の、2期分通算において平均化された実効税負担率が著しく低い大企業リストを紹介します(上図参照)。
これを見れば、「日本の法人税は高い」と批判している大企業が、極めて少ない税金しか払っていないことは明らかです。
なぜ巨大企業は税金を払わずに済むのか
── ソフトバンクの実効税負担率が0・003%、ファーストリテイリング(ユニクロ)が6・91%、みずほ銀行が8・63%など、大変衝撃的な数字です。なぜ大企業はこれほどまでに税金を払わずに済んでいるのでしょうか。
富岡 それには様々な要因があります。企業優遇税制と言われる租税特別措置による政策減税を筆頭に、「受取配当金益金不算入制度」がその一つです。この制度は、内国法人(国内に本店または主たる事務所を有する法人)が他の内国法人から配当等を受けた場合、それが子会社や関係会社の株式等に関わる配当金であれば100%課税所得から除外され、子会社や関係会社以外の場合であればその50%が課税所得から除外される、というものです。
それに加え「外国税額控除制度」も大きな問題です。これは国際的な二重課税を排除するために作られた制度です。例えば、海外に支店を持つ日本企業の場合、海外支店が稼いだ所得は外国で納税しているので、日本国内で再びその所得に課税してしまうと二重課税になります。それを避けるため、外国で課税された税額については一定の範囲内で納税額からの控除が認められているのです。
大企業はこの控除対象を拡大解釈することで、税負担を軽減しています。例えば、オーストラリアで資源を採掘した場合、採掘料を払うことになります。この採掘料を法人税と捉えるかどうかが問題になります。国ごとに税制が異なるため、法人税の概念も異なるのです。大企業はこうしたものを法人税とみなして控除の対象とすることで、本国に納める税金を少なくしているのです。
私はかつて『文藝春秋』(昭和62年3月号)に「税金を払わない大企業リスト」という論文を発表し、三菱商事が昭和60年3月期に571億9200万円もの課税所得を申告しているにも関わらず、法人税を1円も払っていないことを明らかにしました。これも外国税額控除制度を拡大解釈することによってもたらされた事態でした。
私はこの論文を書く際、三菱商事が本当に日本国内で全く稼いでいないのかどうか確かめるため、三菱商事の本社まで行ってみました。そこでは多くの人たちが働いていました。日本国内での稼ぎがないというならば、彼らは一体何をしているのかと聞いてみたくなったものです。(以下略)