羽毛田宮内庁長官に物申す | 『月刊日本』編集部ブログ

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 日刊ゲンダイの報道 によりますと、羽毛田宮内庁長官が6月1日付で退任することが決まったようです。羽毛田氏といえば、2009年12月、小沢一郎議員が天皇と習近平・中国国家副主席の会見を要請したことについて、天皇の「政治利用」だと主張したことで物議をかもしたわけですが、本誌2010年2月号では、この問題について、文藝批評家・山崎行太郎氏と作家・佐藤優氏にお話をうかがいました。以下、一部抜粋して掲載いたします。(YN)

 

 

『月刊日本』2010年2月号

 

羽毛田宮内庁長官に物申す

国家の主人は誰だ!

 

官僚が「玉」を取りに来た!

―― 昨年末、「天皇の政治利用」が問題となった。

佐藤 問題の本質は、これが一般の国民とは関係のない国家エリート内の権力闘争であるということです。政治主導を進める民主党の小沢一郎幹事長と、それに抵抗する官僚の争いなのです。そしてこの権力闘争に天皇陛下を巻き込んでしまったのです。

 羽毛田信吾長官は陛下の健康を案じて止めようとした旨の発言を、記者会見を開いて行い、そして世論も一旦、羽毛田発言に乗せられる形で小沢批判へと流れた。しかし、ここには欺瞞があります。本当に羽毛田長官は陛下の盾となって守るという気持ちがあるのか。

 本気で陛下の健康を案じて、習近平国家副主席との会談は避けるべきだと考えるのなら、自らの職を賭けて、そもそも政府からの要請を陛下に取り次がないという手段をとるべきなのです。政府が突然宮内庁長官のクビを切れば、それこそ政治的大問題となるから、実際にクビになることはない。生え抜きのエリート官僚なのだから、そこまで読みきっていたはずです。

山崎 羽毛田発言とそれを受けた小沢発言、そして習近平来日にタイミングを合わせるように、一斉に始まったマスコミや保守系知識人、自民党の政治家たちの紋切り型の小沢バッシング報道に、強い違和感を感じました。たとえば、羽毛田宮内庁長官が持ち出した「30日ルール」というものも随分おかしい。健康というのは1日か2日でも激変するものなのに、一つの目安として30日と言うのならまだしも、金科玉条のように守るべき物としてしまっている。

 医師で作家の和田秀樹氏がブログで指摘していますが、そこには次のようにあります。「宮内庁がまじめに天皇陛下の健康管理をしようとする気がないのは、宮内庁病院の人選からしてもわかる。東大のある医局に丸投げで、名医をスカウトしようという気はさらさらない。陛下の侍医になれるなら、名医で喜んで立候補する人もいるはずだが、現実には、東大教授をやめたロートルが上にいて、週2、3回の勤務でいいので、楽だし、研究やバイトができるからという理由で立候補する若い医者が実働部隊になっている。たとえば、陛下は前立腺がんで東大病院に入院したが、権威主義の医者に手術をされてしまった。今のトレンドは放射線治療である。そのほうが、男性機能や排尿機能に障害が残らないし、前立腺がんは進行の遅いがんなので、生命予後も変わらないからだ。宮内庁の役人が陛下の健康状態を本気で心配しているなら、いろいろな医者にヒアリングをすればわかることはいくらでもあるはずだ。保身と威張ることばかり考えて、陛下の健康のためにその程度の努力もしないクズ役人に、もっと陛下の健康を気遣えと30日ルールを振りかざすのは笑止千万だ」(和田秀樹オフィシャルブログより )。

 宮内庁が本気で陛下の健康を考えているのではなく、小沢民主党潰しのために「30日ルール」を持ち出し、習近平国家副主席の来日にタイミングを合わせて、仰々しく記者会見した。つまり、羽毛田長官やそれを支援するグループが、政治闘争の道具に陛下を利用したというのが、今回の問題の本質です。

佐藤 「30日ルール」と言ったって、その原則が崩れたことはこれまで何度かあったと聞いています。直近では、昨年のオバマ大統領との面会です。オバマの日程が変更になり、陛下との面会日程も急に変えることになったのですが、「30日ルール」を厳格に適用するのならば、オバマに「30日後にまた来い」と言うべきです。しかし実際には、習近平との面会設定よりもはるかに大変な直前の日程調整を行ったのです。なぜ羽毛田長官はオバマの時には「陛下のご健康を案じ、今後はこういうことがないようにしていただきたい」と記者会見を開かなかったのか。

 もう一つ付け加えると、「30日ルール」は法律でもなんでもない、公表もされていない、法的拘束力もない内規です。宮内庁の内規だとしても、規則というものは公に知らしめなければなりません。ところが、羽毛田長官が記者会見をするまで、一般国民のほとんどはこのようなルールが存在することを知りませんでした。宮内庁のホームページにアクセスしても、そのような内規についての説明はない。このような公にされていない規則を持ち出して小沢批判をするというのは、これ自体がきわめて政治的な行動です。

山崎 「天皇の政治利用」という言葉は、羽毛田長官が天皇を政治的権力闘争に利用した、という意味で考えるべきです。自民党系保守派知識人の多くが、「小沢憎し」のあまり、この問題を大きく取り上げ、戦後憲法をGHQによる「押し付け憲法」だから一刻も早く改憲すべしと騒いでいた連中が、突然護憲派に転じたのか、驚くべきことに「憲法違反だ」と言い出した。要するに、小沢を叩けるのならば何でも使ってしまえ、ということになってしまっている。しかもその憲法解釈が根本的に間違っている。

 ここで小沢氏の発言をめぐる、「国事行為」と「公的行為」の議論があるのですが、この問題で発言している学者は、自民党政治家と同じようなことを言っている。公的行為は陛下の主体的判断で可能であるかのような、むちゃくちゃな議論が大手を振っている。しかし、そんな議論を認めてしまえば、明治憲法から続いている立憲君主制の原則を否定し、天皇の絶対君主化をもたらすことになります。実は陛下自身が、戦前から一貫して、それを否定しているのです。(以下略)



 

 

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