「マリッジリング」を観る | アカエイのエピキュリアン日記

「マリッジリング」を観る

「マリッジリング」を観ました。これは2007年公開の日本映画です。監督は七里圭。原作は渡辺淳一の「泪壷」。
渡辺淳一の原作、ということで、男女の愛欲の物語、というのはすぐに察しがつきます。主人公はごく普通のOL・森谷千波(小橋めぐみ)。彼女の恋人である藤沢佳介(高橋一生)は、彼女との結婚を考えていますが、そのためには、仕事で実績を上げて、経済的な基盤を確立することが第一と考えています。そのため、仕事優先で、クリスマスのデートも仕事のためキャンセルしてしまいます。そんな佳介の態度に不満な千波。そこに、会社の人事異動で桑村紀夫(保阪尚希)が課長として赴任してきます。そして、二人はいつしか、惹かれあい、愛し合うようになります。しかし、桑村は妻帯者、二人の関係は不倫です。そうではあっても、桑村との関係が深まり、千波は、結婚を申し込んできた佳介を拒絶してしまいます。ただ、二人の関係は、それ以上に進みません。桑村の左手に輝くマリッジリング、それが、二人の関係を象徴しています。...といったストーリーです。

実際、この話は、それほど起伏がありません。二人が出会い、それぞれの思いを抱きながら密会し、そして、分かれる。簡単に言ってしまえば、それだけです。それを、千波の心理を追いながら描いていきます。

この映画は、それほど話題作というわけではなかったと思いますので、あまり知られていないのではないかと思います。この映画の売りも、主演女優の小橋めぐみが大胆な濡れ場を披露した、ということで、ちょっと際もの的な売り方をしたようですので、そういうことに興味を引かれた人以外には、ちょっととっつきにくかったのではないかと思います。ただ、この映画では、小橋めぐみのベッドシーンよりも、千波の日常における心の動きのほうが見所だと思います。そして、その微妙な心の揺れ動きを、小橋めぐみは、実に巧みに表現しています。全体に、それほどセリフも多くはなく、激しい動きなどもほとんどないのですが、ちょっとした表情や挙措で、千波の心がよくわかります。千波が佳介と別れるシーンや、彼女の誕生日にバーで祝おうといった桑村を一人待つ千波(桑村はバーへ向かう途中、交通事故に遭い、軽傷を負ってバーには現れません)、その後、桑村の家をひそかに訪ねる千波など、せりふがほとんど(あるいは、まったく)ないのに、その心がひしひしと伝わってきます。
小橋めぐみは、以前のブログで、ほんのちょっと触れたことがあると思うんですが、私の好きな女優さんの一人です。派手な演技をする人ではないのですが、台本をきっちり読み込んで、堅実な演技をする女優さんです。こういううまい役者さんの演技が注目されず、「大胆な塗れば」「清純派のイメージをやぶるヌード」などといったことを売りにして映画の話題づくりをしようというのは、邪道でしょう。

小橋めぐみの演技を生かすために、この映画では、短いカットをスピーディーにつないでいくのではなく、じっくりと演技を見せるような演出をしています。

なかなか、いい映画で、見応えがあります。
【主なキャスト】
小橋めぐみ…森谷千波
保阪尚希…桑村紀夫
高橋一生…藤沢佳介
中村麻美…竹内絵里
矢沢心…太田康代
西尾まり…桑村優子
(2009年12月06日(日))