ニコ動に限らず、youtubeとかvimeoとかでも動画の再生画面って融通が利かないですよね。サイトで決めたピクセル数か、でなきゃ全画面。
(追記:vimeoでは画面の大きさを自由に出来るそうです。良い仕様ですね。コメントをご参照ください)
おかげで、画面の幅を変えようとすると、上下に黒枠が出来るというTVの買い換え促進キャンペーンみたいなことになってしまいます。額縁に慣れるより、もっと柔軟に画面の大きさを変えられたら気持ちいいのに、と思うこともしばしば。
ただ、この固定された画面の中に、さらに別の枠を設けることで、面白い効果が生まれたりします。というわけで、今回は画面の大きさを限定する、という観点からあれやこれやと考えてみたいと思います。


固定された大きさの枠から更に狭められた画面は、「それ以外の場所が隠されている」という印象を与えます。
07~08頃までは、ダンスMADの画面装飾としてフレームがしばしば用いられていました。趣向を凝らして作られたフレームは、逆に隠蔽効果をより強調する機能を持っています。
その向こう側に隠れたアイドルの姿に対する視聴者の視線は、広く公開されたいつものステージへの視線とはまた異なる、隠れたものをのぞき込むようなものへと変わっていきます。
その視線の元では、アイドルの姿はよりフェティッシュな魅力を持ち始めます。これをよく活かしていた代表例としてはbaronPの「アマイカゲ」やオクラ山ため蔵Pの「愛のカルマ」が挙げられます。




(かろうじて生き残ってた…)

ここに映し出されたアイドルたちは、全体よりも部分を強調され、そこに執拗な視線の追跡を受けています。輝かしい全身像とはまた異質な、秘密の一瞬をのぞき込むような魅力を、彼女たちは醸し出しています。
こうしたパーツの追求をより突き詰めると「フォトモンタージュ」みたいになるんですが、これは隠蔽よりは分割として考えられたいところですし、こうした図像性の強調というのはまた別の意味合いを持ってきます。が、まあそれは別の機会に、ということで。何も考えてない訳じゃないですよ。いやほんとに。


隠蔽と窃視という効果は、単なる上下黒帯の場合でも現れてきます。これについては、ハニハニPのi-rony冒頭という好例があります。画面の狭さにより視線を集中させ、それを一気に解放することによるインパクトにより、視聴者はその映像に一気に惹きつけられることになります。




近作ではナファランPの「So What」において、この画面の狭さと解放というシーケンスの効果が良く発揮されていました。



前半パートの画面は殊更に狭く、アイドルの配置は立体的です。それが高精細な映像で表現されることで、視聴者はまるで「画面の向こう側にある世界」をのぞき込むような感覚に襲われます。Pを失っても踊り続けるアイドルたち、という表現は、ここにおいてきわめて強く印象づけられるのです。
そのあとに来るのが、画面の広がりとともに、飛び出してくるアイドル……解放であると同時に、それは”こちら”への呼びかけのようです。たとえ去っていく者がいても、一度は別れてしまっても、彼女たちはいつでも戻ってきてくれる。短い永遠を言祝ぐ、それは祝祭の瞬間です。


さて、隠す効果ばかり強調してきましたが、もちろんそれは”見せる”効果と表裏一体です。最近の動画で、この横長画面が面白い見せ方を生み出している動画をふたつほど紹介しておきましょう。



めいろっくPのこの新作の幅は、何というか、絶妙です。
1:03が象徴的なのですが、この幅はトリオを横に並べてロング固定で撮った時にぴったりと見せられる幅なんですね。ふだんは上下に幅があって、ステージの中に立つというイメージが強調されがちですが、この幅だとアイドルに視線がぎゅっと集中します。ステージによって抑えつけられない、素の彼女たち、という印象を感じました。
この印象が残るおかげで、1:45以降のような引きの画においても、そこにいるアイドルたちの存在感はどこか独特です。このゆったりした曲調や夕焼けのような色合いと相まって、寂しさのうちにも強さを秘めた、真っ直ぐな3人の姿が映し出されています。
(といっても、この身長の3人だからこそのぴったり感ですね。ロリトリオだとすこし上幅が余って、ちょっと窮屈な感じが残ります。MA13で春香が画面幅を広げたのも、たぶん窮屈感が残ってたからじゃないでしょうか?)




もう一本は、一風変わった選曲と切れ味の良いダンスでとみに注目されている孤高のやよい派、tinoPの逸品です。
横長の画面、ほぼやよいのUPのみで構成された映像。否応なく、視聴者はやよいと向き合うことになるわけですが、ここで気になるのがやよいの視線です。
先日「箱の外から」さんに面白い記事が載っていました。これによると、やよいの目の高さは他のアイドルと比べてとても低い位置にあります。身長の小ささを強調するこの視線は、やよいの小動物っぽさを際立たせる役割を担っています。
が、画面を狭め、UPカメラを徹底することで、この動画では身長という要素を消し去っています。選曲の効果も加わり、やよいの上目遣いはむしろ、獰猛な肉食獣の視線を思わせるインパクトを持っています。
周囲からやよいの姿を浮き上がらせるような深みのある色調や、1:03のキメのシーンだけ引くカメラなども、何とも絶妙。挑発するような、鋭いやよいの視線が突き刺さってくるような、印象深い傑作です。


画面幅ひとつ取っても、いろいろ面白い動画の個性が出てきますね。定められた枠の中で、あれやこれやと趣向を凝らし、時には枠自体を逆手に取ってしまう。それは二次創作そのものの持つ、独特の趣向なのかもしれません、
と、てきとうにまとめて今回はおしまい。