日展を観賞して ~好みで選んだ優秀作品~
六本木・国立新美術館で開催されていた
「日展」が
12月9日で終了した。
私が勝手に
自分の陶芸の師匠だと言っている
工芸美術部門の
荒木俊雄先生の作品を観賞するため、
先日会場に足を運んだ。
今年の日展の作品は、
応募総数 14,132点の中から、
2,423点が入選・展示された。
部門別には下記のとおりである。
日本画 209点
洋画 635点
彫刻 119点
工芸美術 486点
書 974点
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合計 2,423点
とても1日で鑑賞できる数ではないが、
自分の作風に合わないものと
何秒かでできる書を飛ばして、
とりあえず観賞してきた。
書を除く千数百点の中から、
私好みのものをピックアップして見たので、
興味のある方はご覧ください。
まずは工芸美術部門の
陶芸。
荒木俊雄氏作 「和の形」。
陶芸部門の会員はたくさんいるけれども、
この赤色を出させたら、この人の右に出る人はいない。
「赤の荒木」こと
荒木俊雄氏。
余りにも強烈な赤色なので、
作品を中央テーブルの上に乗せてもらえない。
この作品がテーブルに乗ると、
他の作品が存在感を失いかねないので、
乗せてもらえないのである。
裏を返せば
それ程独創的で強烈な赤であるということ。
この輝くような赤を出すには
命がけの裏技がいる。
すでに今は
荒木氏の手元にしか存在しない
猛毒指定の物質と、
きわめて高価な
純金の粉末を
惜しげもなく使用してあるので、
他の陶芸家が
出そうとしても絶対に出せない色なのである。
さて次はこれ。
荒木貞年氏作 青磁「風の彩」。
青磁の世界には、
京都に大御所がいるということだが、
世の中の人のしがらみを捨てて、
作品だけを見れば、
決してその大御所に負けていない。
色調も
デザインも、
そしてややもすると青磁や白磁に陥りがちな
ムラのない平面だけの作品ではなく、
無傷の平面はもちろん、
曲線も曲げも、
そして意識的に小さな凹凸を付けた調子も
すべてがバランス良く配置され、
至高の作品が出来上がっている。
ちなみに彼は、
荒木俊雄氏のご子息。
敢えて父親の流れに乗らず、
独自の道を歩んでおられるので、
やはり芸術家である。
この作品に
論評はいるまい。
宮田亮平氏作 「生と静」。
現東京芸術大学学長。
私も
荒木先生のご紹介で何度かお話をさせていただいたが、
美術館にもお孫さんを連れて来るほどの
普通のおじいちゃんの姿を
平気で見せる気さくな方である。
その人が
一度工房にこもれば、
鍛金・鋳金・截金の技術を駆使して、
跳びはねるようなイルカの親子が誕生する。
宮田氏が
一念発起して故郷の佐渡を連絡船で出る時に、
イルカの群れが
あたかも自分を送ってくれているように、
ずっとずっと船側に付き添ってくれていたので、
それ以来
彼の芸術の中にはイルカが住みついている。
以上は工芸美術部門代表。
日本画で
驚くべき作品が目に付いた。
宇宙の出来はさておいて、
この鮭には
鱗が一枚一枚描かれていて、
繊細なことこの上ない。
しかしそれで驚いていたらいけない。
その鮭が置いてある下の新聞紙。
あたかも写真のように見えるのだが、
絵画に写真は使わない。
近づいて良く良く見ると、
一字一字が手書きで書いてあり、
恐るべき技というか、根性というか、
考えただけで気が遠くなるような絵画である。
これは洋画部門の一つ。
小さな石ころだらけの広場に
1人たたずむ小さな子。
目に付いた石ころを、
拾ってみようか、
でも取りにくそうだし、
ちょっと思案している瞬間を
時間を止めて描いてある。
顔はあまり見えないけれど、
かわいらしさがあふれている絵画である。
驚きと言えば
これにはもっと驚いた。
油絵で
ここまでリアルに描けるものかと
もはや脱帽。
背景になっているレンガの壁のリアルさもだが、
それより何より、
この女の子の前髪の辺りの陰の描きようや、
顔全体の陰の描き方は、
もう写真をも超えている。
ものすごい腕を持った人もいるものである。
彫刻部門は
いつも丸太ん棒のような女性の作品などで
何の興味もわかずに
さらっと通り過ぎるだけなのだが、
今回は
見るべきものが3点ほどあった。
荒々しい作りながら、
女性のやさしさが見事に表現されている作品。
このようなものが
もう少し増えてくれるといいのだが。
これなどは、
ベトナム辺りから連れて来たのではないかと思ってしまうような作品。
やればできる人がいるのだから、
審査員は
丸太を削っただけの作品ばかりではなく、
目を離すと
動いてどこかへ行ってしまいそうな、
このような作品も入選させてほしい。
最後に、
木彫りの秀逸作品。
犬と少女が
如何にも誇らしげにここに居る。
いるだけで存在感が出る作品。
回りの大人たちの作品をはるかに超えて、
小さな子供と犬が、
ここに居るわよと訴えている。
やはり、
子供と動物にはどうしてもかなわないのは、
芸術も同じだろうか。
Totoronが勝手に選んだ
日展の優秀作品でした。
いかがでしたか。
(作品の写真は、入場の時に撮影許可を頂いて撮影したものです。念のため。)