大学サッカーを変えた“風間改革” | ♪Satoshi.♪

大学サッカーを変えた“風間改革”

全日本大学サッカー選手権大会(通称インカレ)は、中央大学が8回目の優勝を成し遂げて幕を閉じた。今年度から一発トーナメントとなり波乱が予想されたものの、結果的には例年通り関東勢が上位を占める結果となった(ベスト4のうち、中央、筑波、流通経済と3チームが関東)。

その関東勢の中で今年度最も注目すべきチームの一つであったのは、元日本代表でサッカー解説者として有名な風間八宏氏を監督に招聘して臨んだ筑波大学であっただろう。私自身も彼のサッカーノウハウを勉強させてもらう機会があったため、注目していたのだが、シーズンを通して実に興味深いサッカーを披露していたように思う。今回の記事は、その筑波大学の風間サッカーにスポットライトを当ててみた。

今大会、筑波大学に関するメディアでの報道は、関東リーグで一昨年度9位、昨年度10位とギリギリの所での残留、その低迷期からの今年度全国2位という大躍進の結果と、結果以外ではFW西川、木島のそれぞれセンターバック、サイドハーフからのコンバート、主将・野本をレギュラーから外すなどの荒治療が取り上げられていたが、私が最も惹かれたのはそんな上っ面な部分ではなく、サッカーの内容・質そのものであった。

風間監督自身が自らのサッカーを、『スペースを崩すのではなく人を崩すサッカー』と語るように、今年度の筑波のサッカーは個々の能力を最大限に活かし、一人一人が相手を退治していっているような印象を受けた。ボールの置き所、パスの狙い所、スピード、タイミングをしっかり意図し、動きでも一人一人が相手を外して行く。そして時には個人でのドリブル突破も入る。個々が状況をしっかり判断し、高い技術をベースにスパッ、スパッと繋げていくパス回しやドリブル突破は、観ていて清々しささえ覚えたほどである。

更には、大きなサイドチェンジなどはあまりないが、意図のある縦へのロングボールは少なくなかった。この辺りにも、横パスだけではなく目指すべき所はゴールであるというチームの意志を感じることができた。

もちろん、全てが上手く行った訳ではない。これほど高度なことを求められる分、やり切れなければ簡単にミスとなる。当然ながらそんなセンターでのミスは、対戦相手にとってはカモとなることも少なくなかった。実際にそのパスミスからリズムを失った試合も数多くあったように思う。

また、その個々を大切にする指導にこだわり、セットプレーの練習はしなかったと聞く。決勝で喫した同点ゴールも、もしセットプレーの練習を積んでいれば防げるものだったのかもしれない。

結果的には、そのセットプレーの失点の他にも、ぽっかり空いたサイドを中心に、スペースサッカーを展開した中央大学に屈することとなった筑波大学。だがそれでも、風間監督は練習内容に悔いはないと思っているに違いない。それは反省の弁が、あくまでも「もっと技術が必要」と、自分が指導してきたことの更なる徹底を求めるものであったということからも伺える。

普段から解説の際に訴えている、日本に足りない“個”の育成を具体的に実践してきた今年度、私からすれば、日本サッカーへの一つの提言として物凄く勉強になったと思っている。

これから先、今回風間監督に率いられた選手達がどのように成長していくのか。彼らがこれから先も、似たようにガンガンセンターから崩していくサッカーをし続けるとは思えにくい。ただ、ここで感じた個々が人を崩していく感覚を忘れず、その上にスペースを使うこと、セットプレーの大切さなども考えて応用していけば、彼ら自身も、彼らが所属するチームも、必ず良い方向に向かって行くと私は思っているし期待している。そんな“サッカーを考える力”も、風間監督から感じ取っているはずだから。

今回、風間監督率いる筑波大学の、メッセージの込められたサッカーが準優勝という結果を伴ったことを嬉しく思う。それとともに、今年度筑波大学と対戦したチームが、ボールを簡単に蹴飛ばさずに大切に繋いでいたシーンをよく観たことにも感銘を受けた。もしかしたら、いや、間違いなく、筑波大学以外の大学のサッカーにも良い影響を与えたであろう。

近年面白さを欠いていた印象のあった大学サッカー。しかし今年度は一人の指導者の登場により、実に魅力的なシーズンであった。