原発停止長引けば...電気料金18%上昇も 12年度試算
代替の火力、燃料費の負担重く


福島第1原子力発電所の事故の影響で、原発の再稼働が遅れている。運転停止が長引けば電気料金が来年度にも18%上昇するとの試算がある。火力での代替発電で燃料費がかさむうえ、太陽光や風力など再生可能エネルギーの促進もコスト上昇要因になる。家計や企業の負担を最小限に抑えながら、電力の安定供給や安全性をどう確保するかが問われそうだ。
 13基の原発が立地する福井県。現在は停止中の関西電力美浜原発などの再稼働について西川一誠知事は「稼働を認めない立場に変わりはない」と繰り返す。
原発が立地する自治体は安全性が十分に確認されていないとして原発の再稼働に難色を示す。全国にある54基の商業用原発のうち、現在は35基が停止中。2009年度の発電比率が約3割に達する原発の多くが長期間にわたって稼働できないと、不足分の電力を火力など代替発電で確保せざるを得ず、電気料金の上昇は避けられない。
日本エネルギー経済研究所は、残る19基の原発も定期検査などで運転を停止した場合、代替燃料である石油や液化天然ガス(LNG)などの調達額が12年度には約3兆5000億円増えると試算する。標準的な家庭の電気料金は18%上昇。月額で1000円の負担増になる計算だ。中長期的には電気料金はさらに上昇する可能性がある。
富士通総研は20年には電気料金が最大35%上がると試算している。現行のエネルギー基本計画は20年までに9基の原発の新増設を盛り込んでいるが、実現が難しいうえに既存原発の長期停止も続く可能性があるからだ。必要な電力を火力発電や再生エネルギーでおぎなえば、標準家庭の負担は月額で1800円以上増える見込みだ。
太陽光など再生エネルギーの利用割合は07年で発電量の1%程度。水力を含めても9%にすぎない。政府は太陽光や風力で発電した電気を電力会社が高い固定価格で全量買い取る制度の導入を検討しているが、これが実現すれば、20年度までに標準家庭で150円の追加値上げになる。福島第1原発の事故に対応して、政府は今国会に原発賠償支援法案を提出した。電力会社など原子力事業者は一定の負担金を求められており、これらも電気料金に転嫁される可能性がある。

家計において電気料金は基礎的な支出項目。電気料金が上昇すれば「低所得者層ほど負担が増える」と第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは指摘する。
例えば電気料金が20%上昇する場合、家族4人の標準的な家庭の可処分所得に占める電気料金の割合は、年収が1000万~1250万円なら0.3ポイント上昇の1.9%になる。これに対して年収400万~450万円の世帯では2.7%から3.3%と0.6ポイント上昇する見込みだ。
福島第1原発の事故を受けて22年までの「脱原発」を決めたドイツ。電気料金の上昇は避けられないが、与党キリスト教民主・社会同盟のカウダー院内総務は「負担の重い企業には政府が補助金を出す」との考えを示す。日本は安全性の高い電力をどう安定的に確保するのか、そして電力供給に政府はどう関わっていくのか――。エネルギー基本計画の見直しは、将来の成長戦略と切り離しては語れない。
【日経新聞 02:13】