厨房でランデヴーをしてきました。


監督:ミヒャエル・ホーフマン

出演:ヨーゼフ・オステンドルフ、シャルロット・ロシュ、デーヴィト・シュトリーゾフ


公式サイトはこちら→公式サイト


ドイツとスイスの映画です。


変わり者の天才シェフ・グレゴアは、いきつけのカフェのウエイトレス・エデンに恋をする。

彼女は主婦で、一児の母。グレゴアがその娘のために作ったケーキにのっていたプラリネをエデンが口にし、彼女はグレゴアの天才的な料理の腕前に気づく。

エデンは毎週火曜日にグレゴアの厨房を訪れるようになり、グレゴアは彼女を喜ばせるために腕をふるう。それとともに、彼のレストランの名物「エロチック・キュイジーヌ」の評判もますます上がるのだった。

一方で、グレゴアの料理に満たされたエデンは、夫のクサヴァーとの絆を深めていく。

しかしクサヴァーは妻が毎週グレゴアのもとを訪れていると知って……。



正直言って、見終わってすぐはピンときませんでした。

でも、後になってじわじわと「ああ、いい映画だったのかも…」と思い始めました。


純粋なだけに皮肉なお話でした。ううん、逆かなぁ。皮肉なほど純粋?

そしてどことなく滑稽なところもあって。


はじめは、エデンにまったく好感が持てず、なんという図々しい女だろうかと思っていたのですが、彼女がごはんを食べるその食べ方が、飢えている心を表しているんだな、と思いました。

エデンの娘のレオニーはダウン症で、夫やその両親との関係はどこかぎくしゃくし、家族経営のカフェだから特別好きでもないウエイトレスの仕事をする。

食欲というのはいちばん基本的な欲求です。なんだかんだいっても、食欲が満たされると生きる力が湧いてくる、というのは本当だよなぁ…。


要するにモテないおじさんが人妻に恋をするという話で、グレゴアは片思いの相手のエデンが嬉しそうに食べるのを見ているだけで幸せなのね。

エデンは彼の気持ちに気づいているのかどうか、結局よくわからなかったのですが、もし気づいているのだとしたらいいように利用しているわけだし、気づいていないのだとしたら自分のことしか考えていないというわけで、どうしても彼女の気持ちに添って映画を見るのは難しかった。

それは、自分の人の好意についての態度にもそういうところがあるかもしれない、と思い当たるところがあるからかもしれないね。


どちらかとえいばグレゴアに肩入れして見ていました。

彼は「見てるだけで幸せ」なのですが、そのうち「見ていないとダメ」になってきて、だんだん元気がなくなってきてしまう。かといって、エデンにしてあげるのは料理を作ってあげること。

でも、そうすることでエデンが満たされていくと、彼女は自分の家族との関係を深めていく、という皮肉というか説得的というか…な結果になる。

それでもグレゴアは気持ちを伝えたり、クサヴァーと話をつけたり、ということはしない。

そういうのにイライラもするし、また愛しくもあり。


で、そのストレスの理由を考えてみるに、


1.「私だったらこうするのに!」

2.「私もきっとこうしてしまうから、映画の中の人物には私に成り代わってアクションを起こし、私にカタルシスをもたらしてほしい」


というのがあると思うんですね。

いずれにしてもなかなかストレスのたまる映画ですが、それは最後にグレゴアの決意をもって解決されます(と思います)。その解決のしかたもなかなか面白かったです。


俳優さんたちは素晴らしかった。

ヨーゼフ・オステンドルフが137キロ(と映画中で言っていたと記憶している)のグレゴアを演じていまして、非常にアップが多いのですが、本当にいい表情をしています。

顔だけで演技ができる方です。

この人が笑うとほっとするんですね。(それぐらいいつも難しい顔をしているということですが…。)

顔の表情だけでこちらを緊張させたり安堵させたり、素晴らしかった。


エデン役のシャルロット・ロシュはドイツでは超有名の人気俳優だそうです。

ステキ!という役どころではなかったですが、インパクトのあるグレゴアに負けていませんでした。

そして旦那のクサヴァーのキレっぷりも…。キレてるときほどアンラッキーなんですよね(笑)


だから、いいことをする人が報われるんだ、とか、主人公は格好よくてラストは劇的とか、そんなふうな期待をもって見ると、もったいない映画体験になりそうな気がします。

実際に起こりうるかどうかは別として、非常に現実的な作品でした。


ひとつ、邦題の『厨房で逢いましょう』があんまりよくないなぁと思いました。

原題はEdenです。

確かに日本で「エデン」といってもあんまりピンと来ないけれど、彼女がエデンの園=楽園の名前を持っているところがミソなんだと思うのですが。


あと、お腹が鳴りました(笑)

お料理は本当に綺麗でした。レストランのお客役の方々も、本当に美味しそうに食べるんです!

ごはん前の鑑賞にはご注意!



本が出ています。

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