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【 テーマ「かこ」について 】
「かこ」では、私が2008年9月に経験した交通事故について綴っています。
私自身がこの貴重な経験を忘れてしまいたくないから。
毎日毎日起こり続ける交通事故、そのひとつひとつ痛み・重みを
少しでも多くの人に知ってもらいたいから。
そしてこの経験を踏まえたうえで、
毎日を楽しんでいる人がいるんだということを知ってもらいたいから。
主観とエゴのかたまりですが、お付き合いいただけたら幸いです。
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昨日はじめて松葉杖をついた人が、そんなの無理だよ。
そう言ってもヤスは「大丈夫」の一点張り。
「大丈夫大丈夫。
お店に着いたら座れるし、おいしいごはんのためと思ったら歩けるよ!」
その言葉とヤスの笑顔を信じて、私たちは外出することにした。
お昼に姉が帰ってしまうので午前中に出たのだけれど、
10月半ばとは思えないくらいの暖かくていい天気だった。
目的地のデパートは、普通に歩くと7~8分の距離にある。
私は姉に車いすを押してもらい
ヤスはゆっくり慣れない松葉杖で歩いた。
「天気いいねぇ」
笑って話しながら歩いていたヤス。
けれど次第に口数は減り、顔は蒼くなっていった。
心配になって何度も「大丈夫?」と聞くけれど
ヤスはやっぱり「大丈夫だよ」の一点張り。
何度目かの「休憩したら?」という言葉でようやく、
「そうだね、ちょっと、休憩しようかな」と答えた。
2~3mほど先にベンチがあったので、
そこで座って休んだら?と提案したけれど、
「その距離を歩くよりは立って休んでいるほうがいい」と言う。
その2~3mすらも歩けない状態だったのだ。
けれどデパートまでの距離はあと半分残っている。
私と姉は心配することしかできない。
最悪、姉にタクシーを呼んできてもらおうかとも考えた。
でも、ヤスは笑った。
立って、松葉杖にもたれかかりながら。
「いやぁーいい天気だね!」
からだはきっともの凄くつらい状態なのに、ヤスは笑う。
ツライとも無理だとも言わず。
数分立ったまま休むと「よし!もう大丈夫!」と言って再び歩き出した。
ヤスの顔にはだいぶ血の気が戻っていた。
やっとの思いでデパートに着き、
フードコートの一番近い席に座った。
姉がすぐに冷たいお茶を買ってきてくれた。
普通に歩いたら7~8分の距離。
昨日はじめて松葉杖をついたヤスは
30分かけて、歩ききった。
「何食べようかなぁ」と言って笑うヤス。
その優しさが、
痛いくらい嬉しかった。