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■日本の潜水艦政策は中韓の動向に注意せよ

【次世代潜水艦の研究に着手 防衛庁、中国に対抗】  (産経新聞 10月17日)


 日本周辺海域の中国潜水艦に対応するため、防衛庁は、相手側に探知されにくい被探知防止能力と衝撃に強い構造を備えた「次世代ハイテク潜水艦」の研究に着手する方針を固めた。来年度から研究・試作に乗りだし、22年度から試験を始める予定。完了は26年度で、建造費を除いた総経費見積もりは約51億円。28年度計画での導入を目指す。

 海上自衛隊幹部によると、潜水艦の被探知防止能力の向上は相手側の艦船、潜水艦、哨戒機に発見されるリスク低減が目的。また、耐衝撃特性の向上によって、戦闘時の(海自潜水艦の)沈没、大破など物的、人的損害は少なくなる。

 このため、研究・試作では(1)航行中に最も大きな音源となり、潜水艦最大の弱点とされる推進器(スクリュー)の低雑音化(2)潜水艦内部で発生し、水中に放射される各種の雑音を低減する潜水艦胴体外殻の構造、材質、形状(3)艦内の振動遮断や艦外からの衝撃を艦内に伝わりにくくする緩衝機構-が重要な課題となる。

 また、「(自艦が)探知されずに(相手艦を)探知することが最大の目標で、それでほぼ勝負は決する」(海自潜水艦関係者)といわれ、攻撃能力、被探知防止能力とともに、探知能力向上も最重要課題だ。

 海自はすでに、艦首ソナーだけでなく、側面ソナー、曳航(えいこう)式ソナーなどの次世代潜水艦用ソナーの研究を進めており、被探知防止能力と耐衝撃特性の向上とあわせ、次世代潜水艦の「盾」と「矛」両面での強化を図る。




 私は、従来の仮想敵国であった中国に加え、近年日本を仮想敵国と見なしているかのような海空軍力の増強と軍事政策を続ける盧武鉉政権下の韓国の動向にも注意を向けるべきだと思います。



 ■中国の潜水艦政策


 近年、中国は外洋海軍を目指し、第一列島線での米海軍阻止よりも、第二列島線での米海軍遊撃を主眼に置いて戦力の拡充を図っているようです。


 ・第一、第二列島線

 第一、第二列島線


 従来の中国海軍は、第一列島線までの作戦能力保持を目指していましたが、近年第二列島線までの海域で戦力を展開する意図が顕著です。日本近海における海洋調査は、潜水艦の展開に必要な海底調査であると見られています。


 第二列島線の南端には、米軍のグアム基地があります。同基地は日本とともに米軍の前進基地であり、有事の際に最も重要になる基地の一つです。中国海軍としては、ここまでの戦力展開を行えるようにしておけば、来るべき台湾有事の米中衝突の際に米軍に有効な打撃を与えることが可能になる為、第二列島線までの戦力展開能力が近年重視されているのです。


 2004年の「漢級原潜領海侵犯事件」の記憶も残っている方もおられるかと思いますが、あの事件の際、中国本土を出航した「漢」級攻撃原潜は、第二列島線到達後グアム島を1度周回し帰投しました。その帰途上日本の領海を侵犯し、あのような事件となったのですが、その訓練行動から見ても中国海軍が第二列島線への戦力展開能力、特にグアム周辺におけるそれを重視していることは明白に見て取れるでしょう。


 現在の中国海軍の主力潜水艦は、以下の通りです。



 戦術潜水艦

  対潜水艦戦、対水上戦に用いる潜水艦。主兵装は魚雷・対艦ミサイル。


 ・「漢(ハン)」級攻撃原子力潜水艦 (水中排水量5500t、1974年より5隻就役)

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・「明(ミン)」級通常動力型潜水艦 (水中排水量2110t、1987年より21隻就役)

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 ・「宋(ソン)」級通常動力型潜水艦 (水中排水量2250t、1999年より8隻就役1隻建造中)

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 「明」級の後継であるが、その性能は不調であり、急遽ロシアより「キロ」級が導入されている。


 ・「改キロ(877型/636型)級通常動力型潜水艦(水中排水量 877型で3076t、636型は4000t、1995年より12隻就役予定)

 キロ級


 ・「商(シャン)」級攻撃原子力潜水艦 (水中排水量6000t、2004年に2隻が進水)

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 「漢」級の後継として開発・配備の進む艦。全体的に旧ソ連・ロシアの「ヴィクターⅢ」級原潜に酷似しているといわれている。


 ・「元(ユァン)」級通常動力型(AIP機関(下記「日本の潜水艦政策」の項で後述)搭載?)潜水艦 (水中排水量不明)

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 2004年に西側がその存在を掴んだとされる。全体的なフォルムは「キロ」級に酷似している。潜水艦の純国産化を目指す中国海軍にとって、本艦の運用実績が優秀であれば、「宋」級の正式な後継として数十隻単位での建造が行われるだろう。



 戦略ミサイル潜水艦

  SLBM(潜水艦搭載型弾道ミサイル)を搭載し、敵国へ戦略核攻撃を行う潜水艦。主兵装は弾道ミサイル。


 ・「夏(シア)」級戦略ミサイル原子力潜水艦 (水中排水量8000t、1987年より2隻就役うち1隻事故沈没?)

 夏 級原潜

 

 ・「晋(ジン)」級戦略ミサイル原子力潜水艦 (水中排水量9000t、2004年に1隻が進水)

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 現在開発中と目される戦略原潜。




 中国海軍は高価な原潜と比較的安価な通常動力型潜を使い分けるハイ・ローミックスの体制を上手く整えています。新世代の潜水艦技術の獲得にも熱心で、AIP機関遮音タイルの導入などを盛んに行っているようです。戦術潜水艦における技術向上は目を見張るものがあります。

 戦略原潜は現在1隻しか稼動体制に無く、その搭載ミサイルも射程距離2000km程度と米本土を攻撃するにはかなりの勇気が必要となる性能しか保有していません。が、日本にとっては十分脅威となる数値であります(ただし1隻だけでは有効な核パトロールは不可能と思われる)。




 ■韓国の潜水艦政策


 近年、韓国政府は海軍力の強化を図っており、その作戦行動半径を著しく向上させています。従来の主任務であった対北朝鮮哨戒任務から、日本海における排他的経済水域での活動を視野に入れた建艦政策が実行に移されるなど、その任務地域も変容してきています。主にドイツ、ロシアからの技術獲得に熱心に動いているようです。現在韓国政府は、隣国日本の潜水艦保有数を凌駕する18隻体制の構築に力を注いでいるようです。

 現在の韓国海軍の主力潜水艦は以下の通りです。


 戦術潜水艦


 ・「チャン・ボゴ」級潜水艦 (ドイツの「209」級を輸入、水中排水量1285t、1993年より9隻が竣工)

 209_チャン・ボゴ(韓国)

 現在は後継艦の獲得に鑑み同級の売却に熱心である。


 ・「ソン・ウォンイル」級潜水艦 (ドイツの「214」級を輸入、水中排水量1860t、2006年に1隻が進水)

 ソン・ウォンイル級潜水艦

 本格的なAIP機関を実用搭載している。従来の通常動力型潜水艦に比べて4倍程度の連続潜航が可能である。「チャン・ボゴ」級の後継となる「KSS-Ⅲ」級と合わせて18隻の建造を見込む。「KSS-Ⅲ」級には「天龍」巡航ミサイルが搭載される予定であり、同級は戦略兵器として運用されるであろうことが予想される。



 これまでに韓国政府は、金大中政権時にロシアに対し「キロ」級潜水艦の購入を打診したことがあります。韓国は、対ロシア借款の償還として各種ロシア製兵器(T-80U主力戦車、BMP-3歩兵戦闘車など)を購入しており、ロシアの優れた技術を獲得しようと活発に活動しているようです。


 強襲揚陸艦「独島」を基幹とし将来的に外洋艦隊となる艦艇群を済州島の海軍基地に移転する計画もあり、「北朝鮮後」を見据えたその海軍戦略は一貫して対日政策重視のようです。




 ■日本の潜水艦政策


 日本は防衛白書で潜水艦の保有数を16隻に定めています。これにより退役までの艦齢が16~18年ほどとなり、新世代の技術をすばやく艦艇に反映できる体制を整えています。

 しかし、これは冷戦期に韓国海軍の脅威が無かった状況で策定された隻数であって、現在のように韓国が日本を仮想敵視するかのような軍事政策を採っている状況に於いてはその妥当性が問われるべきであると思います。中国に加え韓国の動向にも注意を払っていかなければならなくなった以上、16隻という数では中韓両国に対抗し切れるのか非常に疑問です。



 原子力潜水艦を保有しない日本でも、諸外国と同様にAIP機関を搭載した通常動力型潜水艦の開発が行われています(16SS/「改おやしお」級)。


 AIP機関とは

 従来、通常動力型潜水艦は、連続潜航3~4日程度しか行えませんでした。これは、原潜がその余りあるパワーで海水を酸素、真水に還元できることに比べ、通常動力型潜水艦(ディーゼル推進)では使用できる電力に限りがあるため、原潜のような海水の還元が不可能だからです。この連続潜航時間を長くしようとする試みは、第二次大戦の頃から行われていましたが失敗の繰り返しでした。

 AIPとは「非大気依存推進」のことを言い、シュノーケルで定期的に艦内の大気を交換する必要のある内燃機関(ディーゼル機関)の戦術的脆弱性を克服し、連続潜航を可能にした技術の総称(注:原子力推進を含まない)を言います。現代においては、燃料電池式、スターリング機関式外燃機関などが実用段階にあります。

 こう聞くとディーゼル機関に代わる新技術のように誤解しがちですが、実際の発電量はまだ限られており、ディーゼル機関を置換するのではなくあくまでその補助的役割を担う機関に過ぎない技術です。しかし、通常哨戒任務に就くことの多い通常動力型潜水艦にとってこの技術は、従来のディーゼル機関と電池を組み合わせることによって2~4kt程度の低速哨戒任務であれば従来の4倍もの14日程度の連続潜航を可能にしています。

 現在、AIP機関が実用段階にあるのは、スウェーデンの「ゴトラント」級潜水艦、ドイツの「212/214」級潜水艦、ロシアの「ラーダ」級潜水艦などです。

 日本では、「はるしお」級潜水艦の最終建造艦「あさしお」が練習潜水艦に移管され、スウェーデンの「ゴトラント」級潜水艦での運用実績に定評のあるスターリング機関の運用試験が行われています。ここでの実績を踏まえ、次世代潜水艦16SSに導入されると言われています。


 ・「はるしお」級「あさしお」 (水中排水量2500t、2000年に練習潜水艦へ種別変更)

 「はるしお」級「あさしお」

 「はるしお」級は2006年10月現在、6隻が現役である。


 「はるしお」級とともに現在海上自衛隊の主力潜水艦となっているのが、「ゆうしお」級と「おやしお」級です。


 ・「ゆうしお」級通常動力型潜水艦 (水中排水量2250t、2006年10月現在3隻が現役)

 ゆうしお


 ・「おやしお」級通常動力潜水艦 (水中排水量2750t、7隻就役し順次調達継続中)

 おやしお




 「おやしお」級では様々な新技術が導入されています。船体中央部を感知部分とするコンフォーマル・フランクアレイ・ソナー曳航ソナーなどの新型ソナー、船体やセイル部分への特殊ゴム製無反響タイルの貼り付けによる被探知性の軽減などが図られ、推進軸は7枚羽根のスキュードプロペラタイプで推進効率向上と静音化が図られています。



 中韓の潜水艦政策を見ると、明らかな戦略姿勢が見て取れますが、日本の場合はどうなっているのでしょうか。性能面ではかなりのものを持っていると思いますが、戦術面戦略面でどのように潜水艦戦力を利用してゆくのかということについて、政治家の皆さんが知識を以て戦略の構築に励まないと、折角の高性能艦が宝の持ち腐れとなってしまいかねません。


 私は、中韓の異常な海軍軍拡レベルを鑑み、新技術の積極導入とともに16隻体制の再考が不可欠ではないかと思います。



 【参考HP】


 The planet earth  様

 Chinese Defence Today  様



 【参考文献】


 世界の艦船編集部編、「海上自衛隊潜水艦史」『世界の艦船』第665集、2006年



 

 平松 茂雄

 『中国の戦略的海洋進出





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