■【『不安定の弧』を日本独自の『リムランド』とせよ 後半】 | FUNGIEREN SIE MEHR !!

■【『不安定の弧』を日本独自の『リムランド』とせよ 後半】

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 ■第4章 日韓の対立


 韓国の米軍縮小は、同方面での紛争圧の低下を受けてのものではない。冷戦終結後米ソのくびきを外れた世界各地で紛争が多発したのと同様に、要石としての米軍の縮小により同地域での紛争圧はむしろ高まりつつあるといえる。

 極東地域における紛争の危険性は、朝鮮半島の南北対立と中台の対立が最も大きかった。しかし、最近では中朝に接近を図る韓国盧武鉉政権の対日圧力が高まりつつある。

 特に竹島を巡る両国の軋轢は最早修復不可能なまでに悪化している。

 韓国軍内部では竹島防衛にかける情熱は篤く、海軍で昨年進水した新型強襲揚陸艦に「独島」という竹島の韓国名を付けたほか、今年1月2日には空軍総長が最新鋭のF-15K戦闘爆撃機で竹島上空を飛行した。これは明確な軍事的・政治的メッセージである。韓国空軍はF-15Kの配備目的を「独島防衛」と認めており、日本の防空識別圏の直前まで南下し航空自衛隊によるスクランブル発進の直前で反転する飛行訓練を常時行うなど、日本に対し敵対的である。

 海軍は「独島」と潜水艦の多くを、将来建設される済州島の海軍基地に配備するものとしている。将来的には海上自衛隊のそれ(16隻)より多い18隻もの潜水艦を就役させる予定であるが、朝鮮半島周辺だけで18隻もの潜水艦配備数というのは、島国である日本が潜水艦の定数を16隻と定めているのに比べると著しく強大である。この潜水艦大量配備についても、その念頭には中国海軍というよりも日本を置いているようだ。 昨年5月には盧大統領が、「“北東アジアのバランサー”発言は日本を念頭に置いたもの」と発言し、今年6月には「日本海で突発的な事態が起きた際に対応できる程度の戦闘力を備えて欲しい」と海上警察に訓辞を出し、日本が海洋調査を行おうとした際には「武力行使もありうる」と対日武力行使を示唆した発言をするなど、韓国(現政権)は日本を仮想敵国とみなしていることが窺える。

 このように、今日の韓国における国防意識は、対北朝鮮戦線ではなく対日戦線において醸成されているのである。


 朝鮮半島は世界で唯一国連軍の監視下にあり韓国は非常時における韓国軍への指揮権(戦時統帥権)を持たないが、長年軍事政権下にあった同国と日本が軍事衝突する危険性は低いものの、全く無いとはいえない状況になりつつある。

 米軍再編の最も活発な極東地域における日韓の対立にアメリカは頭を抱えており、最近ではアメリカでは対中・対北政策で共同歩調をとろうとしない韓国に対する批判が顕著である。



 ■第5章 軍・政両面で見る中国によるカウンターストラテジー


 アメリカが『不安定の弧』政策を掲げ、暗に中国に対する圧力を強めつつある中、中国による米国政策打破のための動きも活発である。


 軍事面で見ると、中国では近年軍事力の近代化が目ざましい。

 陸軍力はお得意の人海戦術を改め陸軍部隊の根幹を兵力から第二砲兵、つまり戦術・戦略ミサイルに移行させつつある。軍事力の海外投影という観点から、陸軍の短期的な近代化は海空軍ほど性急ではないとされる。

 空軍力は近代化が進んでおり、Su-27シリーズとその国内改修版が主力を占める。2004年度以降、Su-30MKK戦闘爆撃機の海空軍への配備で台湾への安定した空対地打撃能力を有するに至り、台湾に対する軍事的優位が増強された。中国空軍力の増強の短期的な目的は、将来的に予想される台湾との軍事衝突の際台湾空軍及び援来する米空軍との制空権争いに勝利するためであると目されている。大陸側から1000km~1500km程度の制空権を確保することを目的として空軍力が増強されている。また、欧州・ロシア・イスラエルなどとの技術援助協定もあり、中国空軍力の近代化は順調といえる。


 海軍力は、中国が貿易・外交を通じた世界的なプレゼンスを拡大させる上で不可欠の存在であるとともに、近代以降各国政府のパワーを表す政治的意義も大きいことから、近代化に最も注力されている。

 元来中国海軍は潜水艦戦力の向上に力を注いできた。昨年、青海基地を出撃しグアム島を周回して帰投する折、我が国の領海を侵犯した「漢(ハン)」級攻撃原潜などはその代表例であるが、中国海軍は静粛性に欠陥のある同級の配備を縮小し、「改キロ」級通常動力潜水艦を大量発注したほか、「商(シャン)」級攻撃原潜の建造を進めている。戦略ミサイル原潜の分野でも増強が活発で、「夏(シア)」級戦略ミサイル原潜を保有するほか、新型(「晋(ジン)」)戦略ミサイル原潜の就役が間近である。

海上艦艇の面でも増強は顕著で、「旅洋(ルヤン)Ⅱ」(052C)級新型駆逐艦の就役が始まっている。フェーズド・アレイ・レーダーを艦橋四周に配した同級は中国海軍のイージス艦と称され(実質上はエリアディフェンス艦であると思われる)、これまで「ソブレメンヌイ」級に代表されるような対艦ミサイル飽和攻撃による米海軍への対抗を至上としてきた中国海軍戦術ドクトリンからの変更が装備の面から認められる。

 中国のシーレーン防衛にとって必要である空母の研究・顕実化も進行中である。 中国はこれまで、オーストラリアの軽空母「メルボルン」(満載排水量18085t)をスクラップとして購入し、9年もかけて「解体」した(事実上の艦体調査)。また、スクラップとしてロシアから韓国へ売却された「キエフ」級「ミンスク」(同41400t)は中国で軍事遊園地となったが、運営母体が倒産し現在では深川にて係留されている。一部には「ミンスク」の戦力化も懸念されたが、ロシア・韓国で二度も全焼火災に見舞われており、私はその戦力化は不可能であろうと思う。同級「キエフ」はスクラップとして中国に売却されたが、その後「メルボルン」の時と同様に、異常なほど時間をかけて「解体」されている。

 そのような売却空母の中で異彩を放つのが、海上カジノに改造されるために中国で係留中であった旧ソ連・ロシア/ウクライナの「アドミラル・クズネツォフ」級空母2番艦「ヴァリヤーグ」(満載排水量58900t、搭載機67機)である。

 この艦の外部塗装が中国海軍と同色に塗装されているとの記事が、今年1月27日の朝日新聞朝刊に出ていた。上記2隻の「キエフ」級に比べ、内部装備が再生可能な状態であるなどの意見も聞かれ、この再塗装が物議をかもしている。

 本来退役兵器をスクラップとして購入し、綿密に精査・研究した後解体するというのは中国の伝統的お家芸であったが、本艦の場合は練習空母として運用されるのではないかとの見方もある。空母の戦力化は空母と艦載機があればそれで完了というわけではないため、戦力化はまずないだろうが。

 しかし、黒海のニコライエフ造船所で空母建造に従事した設計者・作業者に中国側が大連造船所への就職を提案し、現在彼らの多くが講師・設計官・技師として中国で働いていることがロシア側の資料で判明しているため、彼らの存在と「ヴァリヤーグ」の研究実績は中国海軍の悲願である国産空母建造にとって非常に有意なものとなり将来の中国の空母出現を早める可能性が非常に大きい。


 中国海軍のドクトリンは、第二列島線(小笠原~サイパン、グアム)での米海軍迎撃第一列島線(南西諸島、台湾~比~シンガポール)での米海軍侵攻阻止であったが、中国海軍は本来沿岸海軍として第一列島線近海での作戦行動能力しか持たなかった。しかし、現在着々と進む海軍増強は、近い将来第二列島線まで中国海軍が進出する能力を保持するにいたるであろうということを示唆している。

 特に、本来国土防衛ラインであった第一列島線が『不安定の弧』と重なることに注目したい。南シナ海からフィリピンにかけての積極的な中国海軍の外洋海軍志向は、『不安定の弧』という対中包囲網を打破しようとする動きとみなすことが出来る。


 ・SU-30MKK

 Su-30MKK(中国)


 ・ 「夏(シア)」級戦略ミサイル原潜

 夏 級原潜


 ・ 「旅洋(ルヤン)Ⅱ(052C)」級防空駆逐艦

 旅洋Ⅱ級「蘭州」


 ・ 大連にて「改装」中の「ヴァリヤーグ」

 ヴァリヤーグ@大連



 次に政治的な面で中国の動向を見てみよう。

 近年、中国は積極的な外交を行い、世界における存在感を増すとともに、各地でアメリカと利害の衝突を起こしている。

 中南米における中国の「資源外交」は顕著だ。昨年曽慶紅国家副主席が中南米五ヶ国を訪問したが、その五カ国の顔ぶれはメキシコ、ペルー、ヴェネズエラ、トリニダード・トバゴ、ジャマイカであり、訪問団には125名の政府高官やビジネスマンが随行するなど、これが資源外交でなくて何が資源外交なのかというほどのものであった。

 特にヴェネズエラとの提携には力を注いでおり、石油貿易の面で両国が協力することで一致、ヴェネズエラ国内での対中重油輸出基地建設やその他の借款が決まった。ヴェネズエラのチャベス大統領は反米主義者を自称し、キューバへの石油輸出に踏み切ったことでも知られる。社会主義の影響が根強く長くアメリカの帝国主義化におかれている中南米では、反米の旗手としての中国を歓迎する雰囲気も醸成されやすいだろう。今後中国は、ヴェネズエラを拠点として中南米への影響力を拡大してゆくと見られ、そこでアメリカとの利害衝突が生じることは間違いない。

 アフリカ諸国への外交も活発だ。今年1月12日には「対アフリカ政策文書」を発表し、アフリカでの軍事人材の育成、留学生交換、中国語教育の支援、中国企業のインフラ投資奨励、対中債務の軽減などを推し進める方針を掲げている。同月11日以降の李肇星外相によるアフリカ諸国歴訪は、訪問国の中にナイジェリアが含まれており、折りしも中国海洋石油有限公司(CNOOC)がナイジェリア企業と海底油田の開発権45%を買収することで合意した直後であったことから、これは明白な資源外交である。

 中国は国内石油需要の40%を輸入に依存し、そのうちの60%をアフリカ諸国に頼っている。特にスーダン、アンゴラとの関係が深い。中国側はアフリカ28ヶ国からの190品目に関する輸入関税を撤廃しているほか、中国企業の石油部門を中心としたアフリカ投資が増加している。今秋には北京で「中国・アフリカ首脳会合」を行うとのアナウンスもあり、アフリカへの中国の力の入れようは凄まじい。


 これらの動きに対し、アメリカでは警戒感が強まっている。イラク問題、イラン核開発など懸案に事欠かない湾岸諸国に比べ、石油輸出量を短期的に増やせそうなのはアフリカ諸国であると目されているからだ。また、人権問題などで槍玉に挙げられるスーダンなどへの中国の積極的な接近を非難する声もある。内戦やダルフール紛争などで周辺国との紛争を抱える同国では貧困も大きな問題となっているが、紛争や内戦に関わらずスーダンの中国系企業が中国へ石油を輸出し続けたにもかかわらず、それらの貿易で稼いだ外貨によってスーダン政府は兵器を入手し、内戦や紛争を助長させる結果につながっているとの指摘があるからだ。しかし、中国は今後も石油確保を至上命題としたアフリカ諸国との連携を強めていくだろう。


 ウズベキスタンや、イラン、キューバなどとの蜜月を図る中国は、これらの国々との連携によってアメリカの描く『不安定の弧』に対抗しようとするだろう。南アジアにおいては、ミャンマーとともにパキスタンが中国の有力な同盟国として浮上してくる可能性もある。  アメリカと一定の距離を置くフランスや、友好国を必死で探すイスラエルとの接近も無視できないものがある。

 空母保有を悲願とする中国は、英米に並ぶ空母保有国であるフランスに1990年代半ばにコンタクトを取ったことがある。中国との折衝でフランスは「クレマンソー」級空母(満載排水量32780t)の改造プランを提示したが、中国側が「シャルル・ドゴール」級原子力空母(同40600t)の設計資料・建造支援を求めたためこの交渉は決裂した。ユーロコプター社と中国企業との共同開発が計画されたりするなど、中仏の軍事的接近は容易であろう。フランスは兵器輸出を貿易の大きな支柱としてきたが、中小国向けの新型戦闘機・戦車売却競争に負け、ラファール戦闘機・ルクレール戦車の新たな売却先を探している。EU国内で対中兵器禁輸解除に最も積極的なのがフランスなのだ。

 イスラエルの中国への接近は露骨である。レーダーシステム、UAV、エイワックスなどの先端技術の分野で中国に積極的な売込みをかけており、アメリカ・ロシアの横槍で阻止されたこともあるが、無人偵察・攻撃機「ハーピー」の納入が確認されたほか、「殲撃10型」戦闘爆撃機の開発にはイスラエルIAI社でラヴィ戦闘機の開発に携わった技術者が関与するなどした(両機は非常によく似た外観を持つ)。

 アメリカと一定の距離を保ちつつもEU内で発言力を高めようとするフランスと比べ、周囲を敵に囲まれ生存の為には何でもする上、国際兵器市場競争に参戦しようとするイスラエルの方がむしろ注意を要する。最近では亡命チベットのダライ・ラマ14世のイスラエル訪問もあり冷却化したかに思えた中国・イスラエルの関係は、余程の事が無い限り暗転することは無いと思われる。


 このように、ロシア・欧州・イスラエルとの技術提携により軍事的実力を増そうとする中国の意図は明白である。


 ・フランス海軍空母「クレマンソー」

 仏空母クレマンソー


 ・「殲撃10型B」戦闘爆撃機

 J-10B(ラヴィのコピー)


 ・ラヴィ戦闘機

 ラヴィ



 ■第6章 日本に求められる軍事的変容:一国平和主義思想の唾棄


 日本では、自国が『不安定の弧』の最重要地域に属しており、且つその決定的ファクターであるという認識が決定的に希薄である。国内マスコミの偏向報道や戦後思想の悪影響により、軍事、在日米軍や特に国土防衛の本質となる自衛隊三軍を忌避する風潮が強く、国際政治的に世界を俯瞰する能力にも欠ける。

 日本は現在米軍再編の最前線となっているが、国民の間ではそれは単なる日本の負担増を意味するものでしか捉えられていない。軍事や世界政治に対する日本の意識はあまりに貧弱である。一言で言えば、極東が冷戦状態にあることを多くの日本国民は認識していない。そのことが致命的である。

 アメリカによる『不安定の弧』の目指す戦略目的が中国包囲網を完成させることであることは明白である。日本、グアムへの軍事力投影、台湾・シンガポール・インドへの軍事的接近がそれらを示している。日本はその最前線である。かつて中ソ冷戦が続いた折、中国と日米は接近し対ソ包囲網を形成したが、今やその包囲網の対象は中国そのものになりつつある。包囲網を形成する国家も日米台印(豪)と変容している。日本にはこの新たな国際政治体制に合致するための変容が求められているのだ。

 日本国内においては悪名高い“日中記者交換協定”の存在もあるためか、これらのことが全く理解されていない。中国がいかに反日的で、好戦的で、常識を知らずない国家であるかを日本国民は知らなさ過ぎる。また、アメリカを世界帝国としか理解できないゆえに、アメリカの描く世界戦略を理解も出来ない。

 外交だけに限って言えば、常に後手後手に回る日本外交の稚拙さとともに、マスコミをはじめとする日本国民の中国(及び韓国・北朝鮮)に対する“贖罪意識”を超克しなければ、根本的に何も解決はしないだろう。国際政治における力学と、それらを支える政治思想・政治哲学の貧弱な日本では、狡猾且つ高等な対日外交を駆使する中国に太刀打ちすることは不可能である。


 軍事面から観ると、最近の海保・自衛隊の状況はそれなりに理にかなっているといえよう。中国を刺激するという馬鹿げた理由でこれまで行われてこなかったF-15J戦闘機の沖縄配備が始まり、自衛隊配備の西方シフトが開始された。中国・北朝鮮の軍事的圧力を受けて、島嶼の奪還を企図した日米共同訓練が米本土で行われるなどしている。また、周辺海域を遊弋する不審船・潜水艦などの敵性艦船に対する圧力は、海上警備行動の度重なる発動などで高まりつつある。「おおすみ」級や「16DDH」、「ましゅう」級補給艦の建造は、日本が強力な海上軍事力を保持してゆこうという意思の表れである。

 しかし、自衛隊がイラクのように海外へ派遣される必要性は必ずしも無い。むしろ必要とされるのは、『不安定の弧』に対する強力な抑止力の保持、「要石」としての姿勢である。そして、日本が正しく『不安定の弧』に対応しようとすれば、国防や安全保障という点における国民の意識改革が絶対条件である。

 日本がおかれた戦略的位置を見極めることの出来る国民は、一体どれほどいるのだろうか。イデオロギーが先行したままの一国平和主義では、日本の国防を全うすることは出来ない。また、世界の軍事の常識を知らず、真に性悪的である国際政治における平和思想の危うさを認識できない日本であってはならない。国民の軍事への理解が、何より重要なのである。



 ■第7章 不安定の弧に対応できる日本とは


 以上のことから、不安定の弧に見られるような国際政治力学の変容に対し日本が取るべき対応を挙げていこう。

 中国に対する包囲網の形成を企図したアメリカによる『不安定の弧』政策は、アメリカの日本・台湾・シンガポール・インドへの接近をもたらしたが、これらの国々同士の横の繋がりはいまだ不十分である。日本には、これらの国々に対する積極的な働きかけが要求されるだろう。


 特に協力体制を敷きやすいのがインドである。インドは世界大国としての脱皮を開始し、政治・軍事・経済の面で一級国家として急成長している。比較的親日的で、同国と日本が提携する上での障害は非常に少ない。両国首脳の会談では、安全保障面、シーレーン協力強化の面での協力が謳われるなど、日本のシーレーンにとって重要なインド洋における戦略的パートナーとして欠かすことの出来ない存在である。安倍首相もそれを認識しているらしい。

 中国が主導的に進める「東アジア共同体」構想は、インドを排除した形で東南アジアと極東地域の提携を進めるという形であるが、日本は積極的にこれにインドを介在させるべきである。東アジアサミットへのインド参加を招請した日本の戦略視野は正しく、それを推進させる必要性がある。

 インドは世界最大の民主主義国家である。思想の面で協調できる相手である以上、それを利用しない手は無いだろう。政治・経済・軍事における透明性も高く、中国のそれと比較にはならない。中国経済の日本経済にとっての死活性を根拠とした対中融和論も日本国内に根強いが、日本経済の対中依存度はそれほど高くないという意見もある。インドの持つ人口と高い教育水準、世界最先端を行くIT技術など、日本経済にとって好材料がそろっている。

 上海機構へのインド参加や中印両国の戦略的パートナー宣言を見て、日本は中印両国の関係改善を座視していてはいけない。上海機構へのインドの参加は必ずしも中国との接近を意味しないが、両国の接近は日本にとって計り知れない損失となる。インドは日米との協力関係には好意的だが、中国との関係を決定的に損ねる同盟関係にはいまだ慎重である。

 日本はこの点に注意しつつインドとの蜜月を図るべきである。日米同盟、米印協調に続き、日印協調が完成すれば、対中包囲網は磐石なものとなる。



 台湾との関係改善には障害が大きい。中台関係の決定的な決裂をよしとしないアメリカは、台湾に影響力を保持しつつその独立への動きを常に牽制し続けている。そのため日本もここを「独立国家」として承認しようとする動きに出られない。

 ただし、尖閣諸島問題があるとはいえ台湾は概して日本に対して好意的であるといえる。仮に有事が起きた際の日台の提携に障害は殆ど無いと言える。あとは、この地域をいかに中国に干渉させず自国へひきつけておけるかという問題である。



 東南アジア諸国は比較的難しい問題である。中国の影響力が根強く、現在日本は東南アジア各国に対する外交戦略上守勢に立たされている。しかしここも、シーレーン、経済の面で中国の軍事・政治的ブロック化を座視することは日本には不可能である。

 南沙諸島などで偶発的に生じる紛争を未然に防ぐため、日本はここに一定以上のアメリカのプレゼンスを認めないわけにはいかないし、それを支援することも重要である。また、経済分野で中国の台頭を受ける東南アジア諸国は、それを日本が良く思っていないことも理解している。その為、日中両国を天秤にかけどちらが自国にとって有意な相手であるかを慎重かつ大胆に見極めようとするだろう。日本はその動きを誤解せず、積極的に東南アジア諸国に政治・経済的に働きかけていかねばならない。



 オーストラリアも無視できない存在である。最近では脱欧入亜と揶揄されるほどにアジア諸国との関係を重視する政策が展開され、イラクでも自衛隊と極めて良好な関係にあった。資源的にも日本は同国に大きく依存しており(石炭の57%、鉄鉱石の61%、ウランの20%をオーストラリアに依存している)、戦略的パートナーとして欠かすことは出来ないだろう。アメリカとの有力な同盟国としてのオーストラリアは、日本との関係も重視している。

 経済的に中国との関係の強いオーストラリアは、中国ともそれなりに強い関係にある。中国による米豪同盟遮断の動きも顕著であり、オーストラリアがアメリカに「ノー」と言える国になることは日本にとっても損失となる。日本はイラクにおける自衛隊警護延長という決断で見せたオーストラリア側の意図を正確に捉え、戦略にそれに応えなくてはならない。対北朝鮮政策における政策で見せるオーストラリアの熱烈な対日アピールをただ眺めているだけではいられない。




 最後になるが、これらの国々との関係を強化する上で、その理由戦略的目的を国民がしっかりと意識しておくことが最重要である。政府には、国家の繁栄のため、国民の幸福のためにこれらの国々との結びつきを深めることこそが重要なのだとアナウンスする責任がある。国民も、一国平和主義を一刻も早く唾棄し日本一国で対中戦略を描けない事実、国家間協調は思想・価値観を共有し共通の利害を持つ国家との間でしか生まれないという事実を理解する必要がある。そして、それら国民の意志に基づいてこそ、戦略的政策ははじめて実効性を持つのである。



 ■結論


 アメリカによる『不安定の弧』政策は、明確な中国封じ込め政策である。日本はその最前線であり、対中包囲網への参加を暗に要請されている。

 中国による経済的・軍事的圧力が高まりつつある中で、中国への対応を模索する日本としてはその風潮を誤って認識するわけには行かない。日米同盟をはじめとし、インド、台湾、東南アジア諸国、オーストラリアとの関係を極めて密なものとして、今後予想される『不安定の弧』地域への中国の進出に対抗してゆかなければならないだろう。


 スパイクマンが提唱したリムランド理論はアメリカの封じ込め政策へとつながり、その封鎖により旧ソ連は消滅した。日本は不安定の弧を中国に対するリムランドとし、ここへの中国国力の投影を許さず、自国国力の投影を図るべきだ。国民が不安定の弧をリムランドと同質のものとして正しく認識することこそが、今後の対中政策の鍵を握っている。



【参考書籍】


J.P. コール, 横山 昭市
世界情勢を読む―その地域的背景

曽村 保信
地政学入門―外交戦略の政治学

H・J・マッキンダー, 曽村 保信
デモクラシーの理想と現実

江畑 謙介
米軍再編

奥山 真司
地政学―アメリカの世界戦略地図



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