小学生の頃読んだ本の中に、こういう場面がありました。
酒場で、男たちが飲んでいました。
ある男が、家庭の愚痴をこぼしはじめました。
いわく、自分の女房は家事もせず、給料が安いと不満を言い、子どもたちを味方に付けて家庭を牛耳っていると。
同僚は、男の味方をするつもりで言いました。
「そりゃ、とんでもない悪妻だな!」
その途端、同僚は男に殴られました。
「おれの家族の悪口を言うな!」
同僚は言い返しました。
「おまえが言い始めたんじゃないか!」
男は怒鳴りました。
「覚えとけ。女房を悪く言っていいのは、おれだけだ!」
今日は、家族のわるくちという問題についてです。
* * *
おとといの電車での出来事です。
混んでいたので立っていたのですが、私の前の座席には高校生の女の子が二人座っていました。
片方の女の子、Aちゃんは、お姉ちゃんとうまくいっていないらしく、しきりにお姉ちゃんのわるくちを言っていました。
お姉ちゃんがどんなに性格が悪く、自分と氣が合わないかというようなことです。
あまりにもAちゃんが愚痴をこぼすので、隣の友達は相槌をうちました。
「Aちゃんのお姉ちゃん、ひどいんだね!」
私は見ました。
その瞬間、Aちゃんが、すごくむっとした顔をしたのを!
さて、ここで冒頭の小話です。
「家族を悪く言っていいのは、家族だけ」
なのです。
(まあ、家族もいけませんが、それはまた別のお話で……)
家族には、色々あります。
うまくいっている家族、
そうではない家族、
うまくいっていることもあればそうではない時もある家族……
Aちゃんは、お姉ちゃんと、基本的にはうまくいっているのでしょう。
しかし姉妹とはいえ違う人間同士、時にはいさかいも起こります。
そして、Aちゃんはお姉ちゃんの愚痴をこぼしてしまった。
でも本当は、Aちゃんはお姉ちゃんのことが好きなのでしょう。
ですから、真に受けたお友達が「ひどいお姉ちゃんだね!」と言ってしまった時、むっとした顔をしたのだと思います。
自分で悪口を言っておいて他人が同意するとむっとするなんて、勝手な論理ではありますが、この感覚、あなたにもありませんか?
好きなお姉ちゃんを否定された上に、
お姉ちゃんを好きな自分まで否定されたことになってしまうのです。
その点に氣付けなかったお友達のBちゃんは、ちょっと不用意だったかもしれません。
ですが、Aちゃんが悪口を言い始めた時点で、Bちゃんには、重い課題が降りかかったのです。
この場合Bちゃんは、Aちゃんに共感してあげようと、無神経に同意してはなりません。
ましてや後日、周りのお友達に、「Aちゃんのお姉ちゃんって超怖いらしいよ~」などと、決して言ってはなりません。
かと言って、「そんなことないでしょ、本当はいいお姉ちゃんなんじゃない?」と冷静に返しても、Aちゃんの鬱憤は晴れません。
ここは「そうなの~?」とひたすら聞くしかないのです。
そう、相手が同意できない悪口を言うということは、聞く相手に負担を強いることにもなるのです。
(同意できたとしても悪口はいけませんが、、、それもまた別のお話で)
身近なだけに、近しい友人にはついついしゃべってしまう家族の愚痴。
でも、その話題は意外とデリケートなものなのです。
そのことに、AちゃんBちゃんは氣付かせてくれました。
やはり家族というのは誰にとっても特別な存在なのだなあ~と、改めて思った出来事でした。