啓蒙とか
私は高卒である。社会に出た後は山も谷もないパッとしない人生を送り、気が付けばもう初老である。文字通りの浅学非才、無知蒙昧とは正に吾のことである。ところで、その「蒙」とは何だろうか、と思い、その意味するところを調べたことがある。ネット以前ならば、たとえそのようなことを思ったとしても、わざわざ貴重な労力と時間とを割くことはなかったであろう。だが、時代は変わった。ひまつぶし、という程度の些細な動機から簡単にほとんど無意識のレベルで手が動き結果が眼前に晒される。「蒙」とは、道理を知らぬ愚かな者。それが意のようであった。なるほど、だが、一つひっかかる。啓蒙という言葉がある。一般の人々はどの程度その意味合いをご存知だか知らないが、それまで肯定的に捉えていた言葉が、よくよく文字の意味のままに解釈すると、愚か者に道理を教えてやる、という嫌なものになった。「何? その上から目線! 」みたいな感じである。爾来、私はその言葉を使わなくなった。ちなみに、「啓蒙」は明治時代に造られた和製の単語で、語源は enlightment であるということである。語源の英語には嫌味な含意はなさそうであるから、これは誤訳だな、と勝手に思ったりしたものである。