日常生活の中には、ちょっとした謎が散らばっている。
今朝にかけて、一つの事案が解明できた。
通勤経路のある家。朝七時すぎに前を通ると、壮年の男性が玄関の扉前に立っている。
大概いつも玄関の扉を向いて、くわえタバコで周囲をうかがうようにキョトキョトしながら立っているから、私は彼にこっそりキョトちゃんと名前をつけた。
（玄関前に犬の糞がないかチェックしているのだろうか）、（さあて、どのように掃除するかな等と段取りしているのかな）などと気にしていた。
玄関の扉の方を向いているのも不思議だ。
今朝、そのお宅の前を通ると、キョトちゃんはいつものように立っていたが、ある瞬間身体がピクっとし、タバコを携帯式灰皿のようなものに素早く仕舞うと、一瞬で扇子を広げパタパタと玄関を扇ぎ始めた。
ガチャンと扉があき、お連れ合いなのか、女性が顔を出した。
「たばこ吸ってたんじゃないの？やめたんだよね」と低音でどすのきいた声が聞こえた。
通りすぎた私の背中から、「あー、やめたやめた。……」と男性の声が聞こえてきた。
なんだ、キョトちゃんはご家族にばれないようにタバコを吸っていたから、玄関前で家の中の気配を気にしながら立っていたのか。
謎はとけたが、その男性のけなげな努力は、おそらくお連れ合いにはバレバレだろうなぁ。
しかし、キョトちゃん、何かの気配を感じたあとの一連の動きは、実に素早く流れるような見事なものだったなぁ。
少しニンマリしながら駅に向かった。